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新規上場企業分析: 手帳を60万冊売るメディアコマース企業「ほぼ日」は第2の場を作れるか

ここ数年、メディアとECを融合させた「メディアコマース」という概念が大きな流れになっていますが、そこで成功事例として必ず挙げられるのが、北欧、暮らしの道具店ほぼ日刊イトイ新聞。後者を運営しているのが、コピーライターの糸井重里氏が経営する株式会社ほぼ日です。同社が3月16日にジャスダックに上場承認が降り、一の部が公表されています。

同社は1979年に糸井氏の個人事務所・東京糸井重里事務所として設立。1998年にウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」をスタートし、翌年からインターネット通販を開始。2001年に、今に続くヒットシリーズ「ほぼ日手帳」が販売開始。2004年からはロフトにも販路を広げています。手帳は2016年版では61万部を販売し、年間売上の約7割を占めているとのこと。

売上、利益ともに安定的な成長を続けています。2014年に決算期変更のために5ヶ月で決算を締めていて、現在は8月が決算。同社の主力である手帳は秋~春が需要期であることから、上期に業績を先行させたいという意図があると考えられます。連結子会社はなく、単体業績のみの開示となっています。(持分法適用の非連結子会社に『MOTHER』シリーズの原著作者の一社であるエイプがある)

手帳はウェブサイトでの直販と、ロフトなどでの卸売があり、比率は約2:1。卸売ではロフトの占める割合が約8割と依存しています。

最後に大株主ですが、糸井氏が35.78%を保有しているほか、娘の池田あんだ氏が23.86%を保有しており、親族で59.64%を抑えています。ほか、フィールズの創業者で当社の取締役にも参画している山本英俊氏が19.97%、ほぼ日従業員持株会が13.82%など、外部株主はおらず、全て従業員が持っているという形です。上場時には糸井氏と山本氏が7万5000株ずつ放出する予定です。

最後に各種データです。

想定価格: 2,300円
上場時想定時価総額: 51.8億
新規発行株数: 250,000株
調達金額: 5.75億円
PER: 16.96倍
PBR: 2.6倍

手帳の物販がメインということもあって、PERはインターネット関連と考えると低めです。ではどのような成長が考えられるのか、以下は有料ノートでお送りします。

「ほぼ日」は場作りカンパニーとして成長できるか?
1.物販の伸びしろをどうやって作る?
2.次の狙いはペット市場か?
3.広くクリエイターを巻き込むことができるか?
4.おわりに

成長の方向性を探る前に、有価証券報告書には面白い文章がありますので引用します。

「クリエイティビティの3つの輪」を提唱し、社会という大きな輪の中に、ほぼ日が届ける「集合」「動機」「実行」という3つの活動を置き、そこと読者との相互作用が独自性を産んでいくという考え方です。メーカーのような一方的な商品・情報発信ではなく、「ほぼ日」を代表されるような場を作り、社会に対して開いた会社としてのビジネス作りをしていくという事です。人々にとって心地よい場を作る、場作りカンパニーと言っても良いかもしれません。

1.物販の伸びしろをどうやって作る?

まず考えられるのは手帳に代表される物販を伸長させていくことです。糸井重里氏や10年来提供されている「ほぼ日手帳」のブランドは大きく、その数量、ラインナップを拡大していくことは当然の戦略です。また、訪日客や日本ブランドの拡大を背景に海外展開を図っていくことも可能でしょう。実際に「中国向けの顧客対応を充実させた」「Weiboでの情報発信を強化したことで中国を中心とする海外からの受注が伸長した」と言及されています。

有価証券報告書に触れられている手帳以外の商品では、

・レディース及びメンズ向けアパレル「LDKWARE
・仕上げ用カレースパイス「カレーの恩返し
・アパレル「ほぼ日の水沢ダウン
・50歳以上の女性向けのおしゃれ服「hobonichi + a.
・海苔専門問屋が厳選した「ごちそう海苔 海大臣

があります。前述の場の創造の考え方に乗っ取り、3方良しの商品開発力を磨いていくことが拡大の鍵になるでしょう。この中から手帳のような定番商品を生むことができるでしょうか。

2.次の狙いはペット市場か?

場を作るのが大きな戦略だとすると、注目されるのが、昨年6月にリリースした犬や猫の写真SNSアプリ「ドコノコ」です。起動してみると、犬や猫に特化したインスタグラムのような印象を受けますが、見ていくと、迷子になった子を登録したり探してあげたりする機能があったり「ほぼ日」らしい細やかな気遣いの効いたアプリです。継続的にアップデートを行っており、報告書でも開発費を計上した旨が言及されています。

AppAnnieのデータを見る限りでは、ダウンロード数が大きく伸びている様子ではありませんが、Google Playのユーザーレビューは非常に高く、平均で218件の平均で4.6点という高評価ですので、ユーザーの継続率は高いのではないかと想像されます。

これだけレビューが高いアプリも珍しいでしょう。心地よいというのは、場を作る最初の一歩です。

同社では「ドコノコ」を「ほぼ日」とは異なるコンセプトを持った場として成長させていきたい考え。「ほぼ日」は糸井氏が毎日執筆する「本日のダーリン」などのコンテンツから成長して糸井氏に共感する人を集めていきました。「ドコノコ」はSNSですが、犬や猫を愛する人が自然と集まってくる場を作れれば、「ほぼ日」のように商品を提供してビジネス化していく流れが考えられます。(現時点ではマネタイズはされていないようです)

ペット市場は約1.4兆円あり、ペットフードが4000億円、ペット用品が2500億円などとなっています(PETGEより参照)。「ドコノコ」が場として成長した際には、こうした市場に向けた、手帳のような繰り返し消費される商品を投入してくることは間違いないでしょう。

3.広くクリエイターを巻き込むことができるか?

ほぼ日を代表するクリエイターは何と言っても、糸井重里氏です。加えて、編集長を務める永田泰大氏は余り知られていないかもしれませんが、ゲーム誌の「ファミ通」の編集委員を務め、名ライターと言われた男です(永田氏の作品についてはこちらの記事が詳しい)。優秀なメンバーを確保していくことは会社にとって非常に重要ですが、60名程度の小所帯であり、外部のクリエイターとの結びつきはより重要です。

この点で同社は「TOBICHI」という店舗とイベントスペースを融合したリアルな場を青山にオープンし、外部のクリエイターとコラボレーションしたイベント等を開催。こうしたクリエイターとの連携も進めようとしています。オフラインにも場を作っていくのはほぼ日の理念からも当然の流れと言えるでしょう。

4.おわりに

3月16日に上場するほぼ日。インターネット企業という観点で見ると想定時価総額は低めですが、今後の成長という点では、人々にとって心地よい場を創造し、そこに向けたメーカーとは異なる観点・コンセプトを提供することができるかが焦点となりそうです。普通の上場企業とは異なるコンセプトで上場したいと言ってきた同社ですが、場作りカンパニーの可能性はあるのではないかと感じます。


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