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従来のリクルーティング手法はなぜ通用しなくなったのか? タレントアクイジションの“内製化”が人材獲得競争の勝敗を決める理由

「将来を担うコア人材が採用できない」人材危機企業が激増している理由

  • 「採用すべき人材の適切な優先順位がつけられずに、中長期の事業計画が大幅に狂い、業績に悪影響が出ている」

  • 「自社のルールや慣習に沿った面接プロセスを優先し、自社にとってのコア人材を取り逃している」

  • 「メディアやダイレクトスカウトなどの採用手法だけでは、コア人材候補者の確保が難しくなってきた」

2020年以降、事業の根幹を担う経営人材やエンジニアなどのコア人材採用に、こうした悩みや行き詰まりを感じている企業が激増しています。

この背景には

(1)1995年を起点とした生産労働人口の減少が勢いを増し始めていること
(2)テクノロジーを核とした社会の基軸産業の転換が急速に進んだこと

を理由として、とりわけ生産性の高い職域の人材争奪戦が激化し始めていることがあります。
 
結果として昨今、人的資本経営への注目が高まっていますが、多くの企業が、人材を「資本」と捉えて創出価値を最大化していく人材戦略の見直しを迫られています。

従来とは次元の異なる人材争奪戦の中で、自社の成長を加速させていくためには、人事組織・役割の抜本的な改革が必要になってきます。とりわけ顕著に変化を求められるのが、従来型のリクルーティングから「タレントアクイジション(Talent Acquisition)の内製化」による採用力の強化です。

「タレントアクイジション」とは、

自社の採用力を高め、経営戦略起点で、中長期的な視点を持って人材募集〜定着化・戦力化まで行う戦略的な考え方

のこと。

アメリカでは、2005年前後からIT企業を中心にこの「タレントアクイジション」の考え方が採用実務に導入され始めました。日本でもNECや博報堂など人材採用に注力している企業では先んじて導入し、自社のコア人材の獲得で成果を上げています。

なぜ今「タレントアクイジション」が必要なのか

いま、なぜ「タレントアクイジション」を強化する企業が増え始めているのか。そこには、大きく3つの要因があります。

①エンジニア、経営人材などハイスキル人材の需給悪化
②個人の「働き方に対する価値観の変化」
③企業の採用活動に刷り込まれた「買い手優位」思考

①エンジニア、経営人材などハイスキル人材の需給悪化

 
日本の生産労働人口は1995年をピークに減少を始めており、2050年には約5,275万人(2020年の3分の2)まで減少する見込みです。

さらにAIやIoTなどの技術革新がもたらす第4次産業革命といわれる社会背景の変化により、職業ごとの生産性の高低が二極化している中、データサイエンティストやAIエンジニア、また経営執行を担う候補人材のようなハイスキル人材が急激に減少しており、有名企業ですら人材の確保が難しくなってきています。(※1)

加えて、労働力を確保するために外国人労働者の迎え入れが注目されていますが、「高度人材を誘致・維持する魅力度ランキング」でも日本は上位に入ることができず、高い専門技術や知識を有する高度外国人から選ばれない国になっている現実があります。(※1)

結果として2030年には外国人労働者も至る所で不足すると予測されています。

②個人の「働き方に対する価値観の変化」


次に着目すべき点は、20〜30代を中心とした働き手側の価値観の多様化による「働き方に対する価値観の変化」です。

これまでは「報酬」や「ポジション(役職)」「企業の知名度・安定性」など、働く個人が企業選びに感じる魅力因子は共通項が多く、わかりやすい軸が中心でした。

しかし、産業構造の変化によって終身雇用も崩壊する中で、働き方に対する価値観の多様化が進んだ結果、「事業の社会的価値」や「自分自身の成長機会」などの心理的報酬を強く求める人も増え始めています。

優秀な人材ほど需給バランスでは売り手市場になり、働き手が企業を選ぶ視点は年々厳しくなっています。 

また個人の仕事選びや企業選びを細かく見ると、かつて「『国内』『同規模』『同業種』『同職種』」の中で働く場所を比較検討していた傾向が薄まり、

「『グローバル』『規模不問』『異業種』『異職種』」というように、採用競合企業がボーダーレス化しており、人材獲得競争で勝つためのセオリーもより複雑化しています。

③企業の採用活動に刷り込まれた「買い手優位」思考


たとえば大手企業の新卒採用では、採用人数に対してエントリーしてくる学生の数はいまだに圧倒的な買い手市場のように見えます。

理屈の上では、売り手市場で優秀人材の獲得競争が激化していると理解していても、現実的には、買い手市場時代のリクルーティングの考え方や行動習慣から脱却できていない企業が数多く見受けられます。

目標とする採用人数は達成できていても、質的な側面で詳細に見てみると、実は自社の成長や事業変革の鍵を握るコア人材が十分に採用できていない、と気付き始めている企業も多いのが現実です。

この落とし穴に気付いた企業が、「タレントアクイジション」の強化に取り掛かり始めています。

人材サービス企業への依存を強めてきた日本企業のリクルーティング

高度成長期以降の日本企業の採用は、採用目標人数の伸びが年々大きくなってきたこともあり、新聞の求人広告や求人情報誌に始まり、求人サイト、2000年以降は人材紹介などの人材サービス企業への依存度が高まり続けてきた歴史でもありました。

あまりにも外部依存が高まりすぎたおかげで、自社の採用担当者だけでは、どんな職種をどんな手段で構成すれば、最適な採用が実現できるかといったプランニングに手が回らなかったり、求人メディアや人材紹介会社を使っても候補者を集められない時に、どんな対応をすべきかを考え尽くす余裕がなかったりと、採用実務における課題解決力は低下の一途をたどってきました。

企業がリクルーティングの外部依存を高めてきた背景には、1990年代後半のインターネットの普及で人材データベースが登場し、求職者が可視化できるようになったことも影響しています。

ダイレクトスカウト型サービスや、SNSを使ったリファラル採用なども浸透し、エグゼクティブや第2新卒のような階層別、職種や業界、女性などのセグメント特化型サービスが次々誕生し、メディアも複雑になってきました。

1998年には改正職業安定法の施行により、人材紹介会社が激増したことも、外部依存を高める一因となってきました。

採用手法の多様化・複雑化により、人事採用に関する業務負荷が高まったことで、その手間を軽減するためRPOなどの採用代行サービス企業も登場し、そこに依存する企業も増えています。

結果として、「人事部門に採用マーケットの市場観やノウハウが貯まらず、外部ベンダーへの発注を取りまとめる機能にしてしまった」と反省する経営者も出てくることになりました。

リクルーティングとタレントアクイジションへの違いとは?

現在の採用環境の中で、コア人材を獲得して事業を推進していくためには、企業は自ら「タレントアクイジション」に取り組んでいく必要に迫られています。

ちなみに、従来の「リクルーティング」と、「タレントアクイジション」には、どういう違いがあるでしょうか?ここで両者の違いを簡単に整理しておきたいと思います。

「リクルーティング」では、事業部など現場の欠員を埋めることが採用の目的になっていることが多く、足元の採用ニーズに対する短期的な視点による募集活動が中心になってしまいます。

そのため、自社の中長期的な成長を見据えた人材採用を行えずに危機感を感じている企業が少なくありません。

「タレントアクイジション」とはその言葉通り、「タレント(優秀な人材)」を企業自らが能動的に「アクイジション(獲得)」するための新たな採用の考え方です。

人材紹介と有料求人メディア、ダイレクトリクルーティングだけでなくオウンドメディア、リファラル、さらにはM&A、アウトソーシングなどのマルチチャネルでの採用など、企業が実現できうるあらゆる手段を用いて、自社にとっての「コア人材(タレント)」獲得のために、企業自体が主体的かつ戦略的に採用アプローチを仕掛けていきます。

具体的には、今後の自社の成長を担うコア人材獲得のために、経営戦略に紐づいた人材戦略の構築が必要になりますし、自社においての職種•業界理解が求められるため、現場との連携が必要不可欠になってきます。

その他にも、コア人材候補者に合わせた選考でのコミュニケーション設計・実行や、コア人材に選ばれるための自社の魅力づけやコア人材候補者のインサイトが重要になってきます。

また、自社がこれまで接点のあった転職潜在層(コア人材候補者)をプールして、中長期的な視点で運用することも「タレントアクイジション」を導入した採用活動では大きなウェイトを占めてきます。

このように「リクルーティング」と「タレントアクイジション」と比較してみると、「タレントアクイジション」は「リクルーティング」をアップデートした考え方と言えるかもしれません。

人口減、価値観の多様化に伴い、コア人材の獲得競争が激化しているなか、自前で「タレントアクイジション」を導入していくことが、コア人材を獲得できるどうかの鍵になりつつあります。

 
タレントアクイジション強化・定着のための5つのドライバー

最後に、自社の成長を加速するために必要不可欠となる「タレントアクイジション」の自前化を強化させるために、押さえるべきポイントを紹介しておきます。それが「5つドライバー」の取り組みです。

ドライバー①
経営戦略に紐づいた人事戦略を策定する

ドライバー②
配属先の各事業部との連携を強化する

ドライバー③
コア人材候補者のインサイト&アナリティクスを通じた採用ブランディングを構築する

ドライバー④
候補者人材のプールを構築して、長期的な関係性を築く

ドライバー⑤
選考プロセスやオンボーディングプログラムを設計・実行する

ドライバー①経営戦略に紐づいた人事戦略を策定する

自社の成長に直結した経営戦略を実現するためには、中長期的な視点で経営戦略にひもづいた採用や教育、配置などの人材戦略を策定する必要があります。

たとえば、現状の人事戦略で掲げられている採用目標が、各現場の欠員補充や増員要望の足し上げになっているとすると、それを経営計画視点から逆算した要員計画に変更することや、採用目標、求める人材要件、採用体制などに理想を求めすぎず、実現可能な状態に移行させることなども、経営戦略と人事戦略に一貫性を持たせるための打ち手に含まれます。

ドライバー②配属先の各事業部との連携を強化する

経営戦略に基づいたコア人材の要件を定義するために、人事採用部門と事業部側と密な連携を図っていくことが重要になります。

この連携によって、採用担当者は業務・職種理解が進むため、コア人材に現実的に必要な、過不足のない人材要件を洗い出すことができ、企業によっては、必要以上のスキルセットを求めた人材要件で採用のミスマッチを起こしていた従来のやり方を払拭できます。

この体制を実現できている企業の最大の共通点は、採用目標達成が誰のミッションか?という役割が明確化されていることにあります。

そのためには、人事部門だけに採用ミッションを押し付けるのではなく、事業責任者も当事者としての責任権限を設定し、HRBPやハイアリングマネージャと円滑な協働ができる体制を作ることが不可欠となります。

ドライバー③コア人材候補者のインサイト&アナリティクスを通じた採用ブランディングを構築する

人材獲得競争が激化するなか、コア人材に選ばれるための企業(職種)の魅力づけ(ブランディング)を訴求できるかが、自社への動機形成を促すポイントになります。職種によって選ばれるポイントも異なるため、コア人材候補者のインサイトを分析・把握できることがコア人材採用を成功させる要因の1つになっています。

ドライバー④候補者人材のプールを構築して、長期的な関係性を築く

単にコア人材候補者(タレント)をプールして、定期的に接点をもつという考えだけではタレントプールは継続できません。

一度コンタクトをとったコア人材候補者と信頼を構築するためのコミュニケーションを設計し、長期的な関係をマネジメントすることが大切になってきます。

ドライバー⑤選考プロセスやオンボーディングプログラムを設計・実行する

採用競合企業と比べて、「選考結果の報告が早い」「日程の融通をきかせてくれる」など、スピード感やホスピタリティのある対応を行えるように、採用決裁者との面接での目線合わせや選考プロセスのコミュニケーションを設計して、実施することが欠かせまん。

そうすることで「この会社は自分を必要としてくれている」「ここなら自由度も高く、自分の力量が試せそうだ」と、候補者に感じてもらえるようになります。また、内定後は事業部の責任者と連携して、業務や社風などの理解を促すための研修プログラムを実施して、人材の定着化を図ります。

5つのドライバーを最適に機能させるための前提

上記で紹介した「5つのドライバー」を機能させるためには、採用市場における職種や業界に深い理解を持つ専門チームとの連携が欠かせません。

例えば、

  • 求める採用候補者が市場にどのくらいの人数いるのか?

  • どのようなメディアやサービスを使ってアプローチを行えば面接につながるのか?

  • 面談での評価基準をどのように考えればいいのか?

など、採用難易度の高いコア人材ほど、採用における市場感や採用動向が得ることが難しく、いかにそうしたネットワークを持てるかが肝になってきます。

また、求める人材のペルソナを理解し、その人物像が職場に求める条件や具体的にオファーを受けている採用競合企業や提示されている処遇を想定し、現実的に競争力のある条件を整備することも不可欠です。

自社の経営戦略と現場の要望、候補者目線での対採用競合優位性という3つの極を理解し、統合的な打ち手を運用していけるチーム構築こそが、タレントアクイジション強化の中心点といえるでしょう。

(※1)未来人材ビジョンからの引用・・・「未来人材ビジョン 」とは経済産業省は、2030年、2050年の産業構造の転換を見据えた、今後の人材政策について検討するため、「未来人材会議」を設置し、雇用・人材育成から教育システムに至る政策課題について一体的に議論してきたその内容を踏まえ、未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性と、今後取り組むべき具体策を示したもの。2022年5月に公表。

執筆者プロフィール

InterRace株式会社 顧問
ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役
黒田真行

1988年株式会社リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長、HRプラットフォーム事業部部長、株式会社リクルートドクターズキャリア取締役などを歴任。2014年、ルーセントドアーズ株式会社を設立し、35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。各種メディアへの寄稿多数。主な著書に『人材ビジネスの未来シナリオ』などがある。

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