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救急を見直したい〜私が立ち会った事故現場〜

目の前で人が倒れた
目の前で交通事故が、、
そんな場面に遭遇したことはありませんか?

経験がある方は
その時どんな行動をとりましたか?

経験がない方は
自分はどうすると思いますか?

今日は私の経験をもとに、救急に関して考える機会となれば嬉しいです。

本日の結論としては、日本の救急システムはまだまだ見直す余地があるのではないか、ということです。

こんな方は必読

・急病人/事故現場に遭遇したことがある人
・街中で知らない人のために119番をしたことがある人
・救急搬送されたことのある人
・医療者(特に医師、看護師、救命救急士)

私が立ち会った事故現場

仕事帰りに子供達を迎えに行き、家族4人で自家用車で帰宅していたある日のこと。
時間は18時半過ぎだったでしょうか。

自宅近くの一方通行の道路で、前の車が止まっていました。
住宅街なので、住民の方が駐車中なのかな、と思っていましたがしばらく進みません。

すると前から男性がやってきて、何やら前の車に伝えいています。
次に我々のところに来て一言

この先で男性が血を流して倒れていて、救急車を呼んだみたいで、、、

私と妻(医師です)は目を合わせ、すぐに車を飛び出しました。
(もちろん子供には説明し、車の中で待つように伝え、ドアのロックもした状態で。子供達は車内でEテレを見ていたので素直に応じてくれました。Eテレありがとう。)

どうやら自転車での自損事故。
走行中に電柱にぶつかったらしく、電柱脇に若い男性が倒れており、頭には血液が付着。

周囲には男性が3名ほど。
立ちすくんでいるものの、とりあえず救急車は呼んだ、ということでした。

私たちは、医師であることを伝えました。

よかったです。
どうして良いかわからなくて。。。
と周囲の男性がホッとする空気が伝わりました。

肝心の患者さんは?
少しぼーっとしているものの意識はあり、頭に大量の出血は付着しているものの、今は大した出血ではなさそうな様子。

ひとまず安心。

妻が全身の診察を始めたので、私は停車していた車を動かすように皆さんに提案し、自身の車も現場に寄せました(子供が乗っていますからね)。

患者さんは、頭を強く打っているものの、その他に明らかな外創はなく、安静のまま救急車の到着を待つことにしました。

その間、周囲の男性は飛び散った荷物をまとめたり、救急車が迷わず来れるよう、大通りまで見に行ってくれたりしました。
また、現場近くの住人の方は、ウェットティッシュやタオルを貸してくださり、対応の手助けをしてくださいました。

頭を強く打っていたたため、私たちは常に患者さんに話しかけながら意識レベルの観察を続けました。

しかし、、

救急車が全然来ない。

現場にいたみんなで、
確かに救急車呼びましたよね?
と何度も会話をしてしまうくらい、
サイレン音もいつまでも聞こえず。

結果的には私たちが駆け付けてから20分ほど経ったでしょうか。
ようやく救急車が到着。

周りの方が誘導してくれて救急隊員が3人来られました。
医師であることを伝え、状況や状態を説明。
救急隊員が再度診察し、無事救急車に搬入されました。

事故現場はどんな場所だったか

今回の事故は、都心での出来事です。

一方通行の道だったので、広い道から1本入ったところですが、人通り、車の交通量も多い地域。

そして何より、すぐ目の前に大きな総合病院がある場所。
事故現場から病院の正面入り口までは200mくらいでしょうか。

そんな近くに大きな病院があるのに、20分も何もできないもどかしさがありました。

救急の実態

総務省が発表する、令和2年の救急におけるデータによると、救急車による現場到着所要時間(入電から現場に到着するまでに要した時間)の平均は約8.9分だそうです。

この数字は、非常に素晴らしいと感じます。
どこからともなく電話が鳴り、約9分後には現場に到着している。
冷静に考えてすごくないですか?

こんな状況を、当たり前だと思ってはいけないです。
24時間365日、常に待機をしてくれている救急隊員の皆様には感謝しかありません。

しかし、平均8.9分は、あくまで平均です。
私の経験のように、必ずしもそうでない事もあります。
夕方18時台は多くの方が移動をし、救急要請も混み合っている時間だったかもしれません。

そして、救急車を待っている身としては、その時間は日常の感覚よりも何倍も長く感じます。
それを身をもって体験しました。

今回は道路だったので、ある意味良かったのかもしれません。
これが渋谷駅のホームだったら?オフィスビルの20階だったら?東京ドームの観客席だったら?
救急車が最寄りに到着しても、そこからまた数分を要することは、容易に想像できます。

当たり前の救急を見直す

外出先で急病人に遭遇。
医療者を呼ぶためにまずすることは?

そう、救急要請です。

それでは、その急病人に一番最初に接触する医療者は救急隊員が当たり前なのか?

僕はそうではないと思います。

事実、私が遭遇した事故では、医師2人が先に駆けつけました。

たまたまです。

でも事故現場にいた人も、この先で倒れてる人がいると伝えに来てくれた人も、決して

お医者さんや看護師さんはいませんか?

なんて叫んではいませんでした。

イベントなどのたくさんの人が集まっている状況だったら、そう叫んだ人がいるかもしれない。

今回はそういう状況ではなかった。

でも、結果的に医療者は近くにいた。

何かあった時、もしかしたら近くに医療者がいるかもしれない、とは思いませんか?

まして今回の事故は総合病院の目の前、時間帯としても帰宅時間。
勤務を終えた医療者が通ってもおかしくない。

だからって、人が密集してない状況で、叫ぶのは勇気がいりますよね。

叫ばなくても、近くにいるかもしれない医療者に知らせる方法があったら?
もしかしたら誰かいるかもしれない、と念の為に使おうとは思いませんか?

このまま自分が対処するよりも、誰か医療者が来てくれたらラッキーくらいのつもりで。
結果的に、それが急病人のためにもなるし、自分の安心にもつながる。

もう一度。

急病人に遭遇したらどうする?
まず声をかけて状況を確認する。
当たり前。

救急要請する。
当たり前。

周りの人に協力を求める。
当たり前。

でも、結局どう対処すべきかわからない状況だったら?
救急車が到着するまでただ見守る?

じゃあ一か八か、近くの医療者に知らせる方法があれば良いのではないか。

これが私の考えです。

最大の課題

とは言え、そんなシステムがあったとして、大きな問題があります。

これは飛行機の中での事例がよく取り上げられます。

この中にお医者さんはいませんか?

たまたま乗り合わせた飛行機の中でそんな状況になった時、医師はどうすると思いますか?
興味深いアンケート結果があります。

医師685人に上記アンケートを行ったところ
235人(34.3%)の医師は名乗りでない、と回答したのです。
(m3医師会員によるアンケート調査)

なぜか?

最も大きな理由は、責任問題です。

限られた医療資源という悪条件の中、善意で対応したとしても、仮に悪い結果になれば訴えられるリスクがあるのです。

どうです?
だったら名乗り出たくないと考えるのも納得ではないですか?

逆に、名乗り出る医師を尊敬しませんか?

黙ってれば何もリスクはない。
善意で名乗り出た時点からリスクを背負う。

そんな状況で意図して悪い結果にしようとは思うはずもない。
どんな患者かもわからない、どれくらいの重症度かもわからない、その中でどこまでの対処ができるかもわからない、そんな状況で100%善意で名乗り出て対応するのに、リスクを背負わされる。

色々考えさせられませんか?

この問題は
『善きサマリア人の法』
という名前で取り上げられます。

これは、
『災難や急病により窮地となっている者を救うため、無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実な行動をとっていれば、たとえ結果として失敗してもその結果につき責任を問われないという趣旨の内容の法律』
で、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどで定められています。

このように法で守られることにより、上記の状況であっても、安心して名乗り出ることができるのです。

日本にはそれがありません。

日本にも似たような法がありますが、刑事責任を問われることはない、しかし民事訴訟を起こされるリスクはある、というものになります。

つまり、犯罪行為としての刑罰の対象にはならないが、本人や家族から訴えられるリスクはある、ということになります。

それではやはりためらいますよね。

最近ではJALやANAは会社として医師を守る制度を設けています。
仮に訴訟となっても、仮に賠償となっても、原則航空会社が負担するというものです。

でも、医師が訴訟に巻き込まれることに変わりありません。

最後に

いかがでしょうか。

色々と考えさせられませんか?

ただ1つ言えることは、基本的には医療者の大多数は、急病人がいたら、

助けなきゃ

と反射的に思うはず。

ですが、その一瞬後に、でもどうしよう、とよぎるのです。

私の周りの医師に、同じような質問をすると、
たぶん、反射的に動くと思う
と回答する医師が多かったです。

皆さんも、自分が急病人(怪我人)になった、家族が急病人になったとして、救急車を待つ間、近くにいた医療者が手を差し伸べてくれたら、感謝しませんか?

医療者が余計な心配をすることなく、困っている急病人に手を差し伸べることができる未来がくれば良いなと、心から思っています。

私自身も、そんな未来を目指して取り組んでみよう、と思う今日この頃でした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
医療者の方も、そうでない方も、この記事関する感想やご意見を聞かせていただけると幸いです。
お気軽にコメントお待ちしています。

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