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顕微鏡のスペシャリストをご存知ですか?〜病理医の先生方、いつもお世話になっております〜

はじめに

病理医ってご存知ですか?

一般的には患者さんと接する機会はなく、我々臨床医が提出した検体を顕微鏡でチェックしてくれる先生方です。

今日はそんな病理に関連したお話をしたいと思います。

今日の結論としては、病理とは診断や治療をする上で非常に重要な分野であり、我々臨床医からは切っても切り離せないものである、ということです。


こんな人は必読

・病理ってなに?と思っている人
・病院の中の世界に興味を持っている人
・医師だけでなく医療従事者を志す人
・がんに興味がある人


病理医ってどんな先生?

そもそも病理学ってなんですか?ですよね。

ある大学のHPから引用すると
病理学とは、病気になった原因を探り、病気になった患者の身体に生じている変化が、どのようなものであるかを研究する学問分野です。

どうやったらそんなことができるのか?

人体の構造を細胞レベルで理解し、正常と異常を見分けるのです。

細胞レベルで理解。。
途方もない話ですが、病理医の先生方は日々顕微鏡と向き合い、患者さんの身体で起きている些細な変化を見逃しません。

病理医の先生方は、一般的には患者さんと接する機会はありません。
我々臨床医が検査を依頼し、それを病理学的に解析しフィードバックしてくれます。

特に、私のように『がん』を扱う臨床医にとっては切っても切り離せない存在です。
この領域は、病理医の先生方の活躍なくして成り立ちません。

『フラジャイル』という漫画を知っていますか?
医師を主役にした漫画は多数ありますが、大半は内科医や外科医です。
この漫画は、病理医にスポットを当てた貴重な漫画です。

以前ドラマ化もされて、元TOKIOの長瀬さんが主役を演じてました。
私も興味深く拝見しました。

また、このフラジャイルの影響で、俳優の芦田愛菜さんが病理医を目指したい、と発言したことも話題になりましたね。

話題になっていない??

少なくとも我々医師の間ではすごく話題になりましたよ!


学生時代の組織学実習の思い出

人体の構造を細胞レベルで理解する、といってもピンときませんよね。

実は医学生は皆、この細胞レベルでの勉強をします。

組織学という講義があり、正常な臓器の顕微鏡所見や病気の所見を学びます。
聴講するタイプの講義だけではなく、実習では顕微鏡を除いてスケッチをするのです。

臨床医となり患者さんや病気と直接向き合う立場の今は、その講義の重要性が痛いほどわかります。
この理解が無ければ、臨床でたくさんの壁にぶつかります。

ただ、、
学生時代にはその重要性がわかるはずもなく。。
組織学の講義、特に実習は本当に苦手&嫌いでした。

顕微鏡で見たものを理解し、それをスケッチしろと言われても、、、
難しすぎません?

配布されたプレパラートを顕微鏡で観察。
色鉛筆を用いてハガキ大の紙にスケッチします。
そして自分がスケッチしたものの中に、どんな構造物や異常所見があるのか、全て記入していきます。

そもそも見たものをスケッチするもの難しい。
例えやる気があったとしても、それを表現するのは別問題。
時々、自分が何を書いているのかさえ分からなくなることもありました。

さらに、見ているものを理解できているならまだ良いのですが、自分が何を見ているかさえ分からないときはさらに地獄。。。

え?これなんの時間?

といった感じで、多くの学生が顕微鏡に向き合っている中、キョロキョロしだす不真面目な学生も一定数います。(僕です)

習ったはずの講義資料やアトラスを必死に読み返したり、先生や友人に教えてもらいながら、なんとか完成させます。
とは言え、完成したスケッチもひどいものだったと思います。

臨床医となり、病理を勉強し直した今、当時の自分のスケッチを見てみたいです。
とてもじゃないけど直視できるものではないと思いますが。

組織学もそうですが、また学生に戻って勉強し直したいと思う講義、たくさんありますね。


肺癌手術と病理検査

僕が専門としている肺癌の領域でも、病理学は非常に重要です。

肺に影があった!
癌を疑う!
手術しよう!

とはなりません。
まず考えなければならないことは、その影は本当に癌なのか。
癌ではなければ、手術をせずに済むかもしれませんからね。

まずはその影の正体を掴むため、気管支鏡検査を行います(影の位置や大きさによっては気管支鏡検査の適応にはなりません)。
口からカメラを入れて、その影の部分の肺を齧ったり、洗ったりします。

その小さな小さなかけらや洗浄液を、病理医にチェックしてもらい、本当に癌細胞がいるのか確認します。
採取された組織によっては、ごく一部しか癌細胞がないこともあります。
特に洗浄液で行う細胞診という検査は、病理医の解説がないとどこに癌細胞があるか分からないことも少なくありません。

癌の診断がつけば、早速手術もしくは化学療法といった治療に移ります。

また、先の気管支鏡検査ができず、癌を強く疑うが診断が困難な場合、あくまで『疑い』の状態で手術を施行することもあります。

その際は、手術の序盤に腫瘍の一部を採取し迅速病理診断を行います(腫瘍の位置や大きさによっては組織が採取できず迅速病理診断が施行できないこともあります)。
採取した組織を手術中に病理医に見てもらい、癌細胞がいるかを確認します。
組織提出から約30−40分で、手術室に電話が入り、結果が伝えられます。

癌なのか、そうでないのかで術式や肺を切除する範囲が大きく異なることもあり、この迅速病理診断は非常に重要であり、かつミスができません。

短時間で、正確な診断をする病理の先生方を尊敬します。


病理検査がなぜ重要なのか

手術をした後は、その肺癌組織をさらに細かく診断してもらいます。

一言で肺癌と言っても、その種類は軽く10を超えます。
違う種類の肺癌です、とは簡単に言えますが、その判断は非常に難しいのです。

そして、肺癌の種類によって、治療法が異なります。

さらに、同じ種類の肺癌であっても、癌の性質によっては一人一人治療が異なることもあります。
具体的には、遺伝子変異や遺伝子発現によって、使用できる薬が異なるのです。

これを調べるのもまた病理の領域。

実際に患者さんと接して治療を進めるのは内科医や外科医ですが、その裏で非常に重要な役割を担ってくれているのは病理医なのです。


最後に問題です

日本の医師数は約340,000人いますが、その中で病理専門医の数は何人くらいだと思いますか?

前述のように病理は臨床において非常に重要な役割を担います。
病理と関わらない診療科目は精神科や麻酔科、、くらいでしょうか?

そんな重要な立ち位置である病理の専門家は、たくさんいてほしいですよね。

これを機に、病理医についてもっと知って頂けると幸いです!

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