第84回：神田松之丞から目が離せません！

＊intoxicate vol.141（2019年8月発行）掲載

　令和になったばかりのこの七月、アイドル帝国とお笑い帝国に激震が！　アニメ界に起こった悲劇にも心痛みます。そんな中、落語小国にはうれしい話題。春風亭昇太が落語芸術協会会長に就任！です。

　
　昨年七月に会長・桂歌丸の逝去後、副会長・三遊亭小遊三が会長代行を務めていましたが、このたび昇太が「笑点」大喜利司会の引き継ぎのみならず、会長も継ぐことに。いずれはと思ってましたが、こんなに早いとは！ さらに驚きの昇太結婚！ のニュースまで。「笑点」では未婚キャラでいじられ、全国からお嫁さんの心配をされてましたが、Wおめでとうございます！　「笑点」出演で全国区の人気者ですが、TVの大喜利でしか見たことない人も多いかも？　
　CDやDVDで昇太落語を聴けますが、高座での破天荒な動きや仕草、還暦を迎えようという人にこの表現もなんですが、高座で見せる表情の可愛らしさはぜひ観てほしいところなので、まずは映像をオススメ！　『春風亭昇太　十八番シリーズ—動—』は、タイトル通り動きのある演目を収録。上方落語の「時うどん」をアレンジした昇太バージョン「時そば」や、「茶の湯」など爆笑古典落語に加え、面白いのがマルチアングル撮影の「花粉寿司」。高座で寝そべったりしちゃう昇太らしい仕草の入る新作落語で、正面だけでなく高座の下、舞台袖など多方向から撮影し、その映像を切り替えて観られる楽しい一席。会に行かなければ観られない独演会恒例の高座着替えまで観ることができますよ。お城好き昇太が楽しそうに城郭を訪れるオマケ映像も。

　公私ともにめでたい新時代のスタートとなりましたが、会長になっても、七〇歳八〇歳になっても、《デイビー・クロケット》の出囃子のまま、高座で寝転がり続ける春風亭昇太でいてほしいです。さらに、立川流や円楽党との関係など、落語界の変革もちょっと期待しちゃいます。

　新会長就任で、これからが楽しみな落語芸術協会ですが、平成の頃から若手の活躍も目立ってきてます。柳亭小痴楽、瀧川鯉八ら十一人の二ツ目が結成した落語ユニット〈成金〉メンバーでもある今話題の講談師・神田松之丞もいますし！　「講談界の風雲児」「今もっともチケットの取れない講談師」「百年に一人の逸材」等々の高い評価を受け、まだ二ツ目なのにすでにCD、DVD、書籍も出ていて、ファッション誌「pen」のムック「pen +」は一冊まるごと松之丞！　巻頭ページのグラビアなんてモデルさんのよう。パーソナリティを務めるTBSラジオ『問わず語りの松之丞』で新たなファンを増やし、深夜のテレビ朝日『松之丞・カレンの反省だ！』では滝沢カレンと共演し、樋口真嗣監督のアニメ『ひそねとまそたん』には声優として出演（監督が松之丞の会で「狼退治」を聴き、その日のうちにオファーしたのだそう！）と、多方面で活躍。もちろん本業の講談も、二〇一四年に始まった『渋谷らくご』への出演や〈成金〉の活動などが評判を呼び、どんどん大きなキャパの会場で会を行うようになり、昨年は千百席のよみうりホールで独演会を行うまでに。今年一月には連続物を読む五日間の通し公演を成功させ、三月に花形演芸大賞金賞受賞の快挙も。（真打でなければ取れない）トリを取らせてもいい、と寄席の席亭に言わせるくらい、実力、人気共にすごいことになってます。

　初の書籍タイトルを『絶滅危惧職、講談師を生きる』としてますが、明治から昭和にかけて落語より人気のあった講談は、今では芸人も減少し衰退してしまってます。女性講談師が多い中で男性の若手は貴重な存在。それがこれだけの注目を集めているわけですから、まさに講談界の救世主。講談や浪曲は落語よりも接する機会の少ない芸能ですが、このような逸材の登場は人々の関心を講談に向かわせることができる。松之丞を入り口に、師匠の神田松鯉や他のベテランの芸に触れていく、その機会のためならという気持ちもあって、「囃されたら踊れ」という師匠の言葉を胸に、講談界のためにオファーを受けているのだろうと思います。松之丞効果で、男子の入門者もきているそうで、講談界に希望ある未来をもたらしてくれています。

　芸と人気が認められ、落語芸術協会では春風亭昇太以来という抜擢真打昇進で、来年二月に六代目・神田伯山となります。かねてから望んできた歌舞伎座での披露興行が実現すれば、師匠孝行もできて、さらに高みを目指して行けそう。　同じ時代に生きて、令和時代を代表する芸人になっていくであろう軌跡を見続けていけるのは幸せなこと。絶滅危惧から希少価値へ。神田松之丞から目が離せません！