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第38回:思い出し笑い「受け継がれる心意気」(&ツルコ)


KICH-2572

第38回:受け継がれる心意気

*intoxicate vol.91(2011年4月発行)掲載 

 歌舞伎や能狂言などの伝統芸能ですと世襲制が多いようですが、落語の場合は、だれでもOK。師匠が入門を認めてくれれば、ですけど。噺は受け継がれますが、親から子へと代々継がれていくような伝承芸ではないんですね。ほとんどの師匠と弟子の間には血のつながりはなく、噺の稽古はしてもらえるけれど、芸は師匠の真似をしていてはだめで、それぞれが自身で確立して
いかなければなりません。柳家小さん(人間国宝だった五代目。六代目の小さんは息子。)を祖父にもつ柳家花緑が、そこをうまく表現し、「落語は、芸は受け継げないけれど、心意気は受け継げる」と。中学を卒業して小さん
最後の弟子になった花緑ですが、歌舞伎の家に生まれていたら周りもみんなそうだから楽だったのでしょうが、落語界ではサラブレッドだからこその悩みや葛藤がたくさんあったことだろうと思います。


 そんな花緑が、大きな存在だった祖父であり師匠の小さんを見送ってから二年ほど経った時期に企画し、NHKBSで制作された番組が「柳家小さん・花緑 超時空二人会 〜たぬきと孫の物語〜」。二○○四年に放映され、その後再放送もされたのですが見逃していて、今回のDVD化でようやく観ることができました。


 昭和から平成にかけて国民的な人気を誇ってきた小さんですから、NHKには膨大な数の出演番組のアーカイブがあり、その数百六十にも及ぶとか。花緑によると、ナタリー・コールが亡き父ナット・キング・コールの歌とデュエットした作品や、紅白歌合戦で平井堅が坂本九の映像とデュエットしたことなどからヒントを得て、この世界初となる祖父と孫の落語コラボを思いつ
いたのだそうです。紅白歌合戦では小椋佳も美空ひばりとデュエットしてましたね。


 このおもしろい試みは、師弟リレー落語の「狸の札」から始まります。収録のための落語会では高座の後ろにスクリーンがあり、噺の前半は小さんの映像で、後半から花緑が実演で引き継ぐという仕組み。次の「粗忽長屋」は、小さんの高座の八五郎の部分の映像と、花緑の高座の熊公の映像を交互に組み合わせてやりとりさせる楽しい一席。そのあと、「あの世からこんにちは」という二人の対談があるのですが、花緑とちゃぶ台をはさんでいるのは信楽焼のたぬき! 残されたインタヴュー音源からとられた小さんの声で、うまく対談になってます。お次の「二人旅」では、小さんのVTRと花緑のライヴの合体! スクリーンの小さんと高座の花緑による、夢の一席です。そして最後は小さんの十八番「笠碁」ですが、これも凝っていて、花緑が六十四歳から七十七歳までの小さんの「笠碁」高座から使用映像を選び、いいところを組み合わせているんです。六人の小さんによるリレー落語「SUPER笠碁」で、小さんが若くなったり、年とったりするんですよ。


 番組中には、花緑が小さんについて語ったり、一緒に出演した番組の映像などもあるのですが、制作にあたり残された祖父の芸を振り返ることは、自身の芸のためにもなったことでしょう。改めて小さんの存在を思い、その心意気が孫に受け継がれていることが、本当によかったとしみじみしました。落語家の家に生まれても継がない人はたくさんいますし、花緑のお兄さんはバレエ・ダンサーですしね。少年の頃の花緑さんが、バレエシューズではなく座ぶとんを選んでくれてありがとう!と思わずにはいられません。


 ちょうど小学館から第二弾の刊行がスタートした「落語 昭和の名人」で、柳家小さん号が出ています。なつかしいあの声、ひさしぶりにいかがでしょう。また、小さん音源も豊富な「昭和の名人」シリーズ七十タイトルをリリースしているキングから、志ん生、圓生、小圓朝、金馬、円歌の昭和の名人五人の三十タイトルが新たに一挙登場。落ち着かない日々のなかで、落語に耳を傾けられる時間をもてるといいですね。


CD「昭和の名人~古典落語名演集~五代目古今亭志ん生・六代目三遊亭圓生・三代目三遊亭金馬・二代目三遊亭円歌・三代目三遊亭小圓朝」
[キングレコード KICH-2571~2600]全30タイトル 

DVD『柳家小さん・花緑 超時空二人会〜たぬきと孫の物語〜』
[竹書房 TSDS-75533]

CDつきマガジン『落語 昭和の名人完結編4「五代目 柳家小さん」』
石返し/万金丹/看板のビン
[小学館] 

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