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第72回:思い出し笑い「講談界に突如現れたニュースター! 神田松之丞を聞き逃すまじ」(&ツルコ)


第72回:講談界に突如現れたニュースター! 神田松之丞を聞き逃すまじ

*intoxicate vol.129(2017年8月発行)掲載

渋谷のユーロスペースで初心者が楽しめる落語会として2014年にスタートした〈渋谷らくご〉(シブラク)は、若い人たちで賑わっているとマスコミなどでも取り上げられる人気の落語会。落語だけではなく、講談や浪曲の高座も聴くことができますが、ここに常連出演している若手講談師の神田松之丞が最近人気急上昇中と評判で、このたび、〈渋谷らくご〉での高座からセレクトした初CD『松乃丞講談 シブラク名演集』がリリースされました。


 松之丞の人気ぶりは、トリを務めた回がシブラク初の満員御礼となったほど。落語に比べるとなり手が少なくキビシイ状況の講談界にこういう人が出てきたのは喜ばしいことですね。先代の神田山陽が積極的に女性の弟子をとったことで、女流の講談師が増え、シーンが盛り上がったところもありましたが、若手で人気があり、NHKの「にほんごであそぼ」出演や、SWAとしても活躍していた当代の山陽が、拠点を北海道に移し、姿を見ることがなくなってしまったのを残念に思っていました。松之丞の登場で、講談のこれからが楽しみに。高校の時にラジオ深夜便(オールナイトニッポンなどを聴く年頃じゃ?)で三遊亭圓生の《御神酒徳利》を聴いて落語にハマり、その後、立川談志の影響で講談に出会ったことから、神田松鯉に入門。まだ二つ目ですが、師匠譲りの古典のネタ数も多く、自身が創作する新作ネタもありで、まさに新進気鋭のホープ登場! です。


 今回のCDは、ソニーの来福レーベルからのリリースになりますが、ソニーが講談の作品を出すのはなんと35年ぶり! なのだそうです。松之丞自身も、初めて出会った落語家である三遊亭圓生の「圓生百席」をリリースしているレコード会社なのがうれしい、と。落語のほうでは若手がCDを出すのは珍しいことではなくなってますが、講談で、二つ目で、初CDで2枚組って、すごいですよね。


 7月にCD発売記念としてタワーレコード渋谷店で第2回目(記念すべき第1回は春風亭一之輔)の〈タワレコ亭〉が行われ、松之丞がナイツをスペシャルゲストに迎えて登場し、《桑原さん》と《慶安太平記より 鉄誠道人》の2席を披露。1席目は新作で軽く、2席目は19話ある連続物の「慶安太平記」中の1話を客席の照明を落としての熱演。声も素晴らしく、ぐんぐんとその語りに引き込まれました。若手とは思えない迫力と貫禄!改めて感じたのですが、落語と比べると、講談は読み物を聞かせるものなので、ストーリーがわかりやすく、その場面が浮かんで来るようで、物語に入っていきやすいかも。そのせいか、映像よりも音源で聴いたほうがよりその世界に集中できるように思います。


 初CDには、多くのシブラク音源から選んだ“やる気がある”3席とご本人のコメントを収録。《天明白浪伝首無し事件》は50分を超える聴きごたえある1席です。「えー、講談?」って敬遠せずに、一度聴いてみて! ご本人も予備知識ゼロで聴けて入門編にいいと言ってますし、入り口は狭いけれど奥に豊かな世界が広がっているという講談にまず触れるにはうってつけの1枚かと。CDを聴いて興味を持たれたら、2015年にDVD『講談師 神田松之丞』を出してますので、ぜひそちらも! 講談3席の他に、本人や師匠のインタビューもあって、ドキュメンタリーのような作品です。古典2作とプロレス好きな松之丞作の《グレーゾーン》収録。


 講談界だけではなく、浪曲界にも新星が登場してるんですね。こちらもシブラクご常連の玉川大福。コント作家を目指していて浪曲の世界に入ったとのことで、数少ない新作を手がける浪曲師ですが、《地べたの二人》という作品で第1回渋谷らくご大賞を受賞。たいしたことを言ってないのに浪曲の節にのるとこれが妙におかしくて。クセになる面白さ! 浪曲は、期待されていた若手の国本武春がまさかの急逝後、どうなのかしらと思ってましたが、ちゃんと後を継ぐ人が生まれていました。


 講談も浪曲も、新たな人たちが先人が築いた芸の世界を受け継いでいることに安心しますが、上野の本牧亭はなくなり、浅草の木馬亭はあるものの、これまでの寄席だけでなく、シブラクのように新たな世代に出会わせてくれる場があって、本当によかったと思わずにはいられません。


CD『松之丞 講談 -シブラク名演集-』
Disc1「赤穂義士伝 荒川十太夫」「天明白浪伝 金棒お鉄」
Disc2「天明白浪伝 首無し事件」「松之丞 ひとり語り」
[ 来福 MHCL-2695]

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