【おやすみ鯨の日記】心臓の位置をあんたで思い出すなんて

2023年2月19日
 この歳になると、胸が痛くなるほど緊張したりとか、息が苦しくなるほど不安になったりとすることは、あまりない。学生時代は、部活の試合だとか、受験結果とか、割と定期的にそんな症状があった。だから、どうすれば自分は落ち着くことができるのかを知っていたはずなのに。久しぶりのその症状に、私はとても困惑していた。
 大学時代のサークルのOBだけの集まり。そこに付き合っていた人が来ていた。私は、当日までその人が来ることを全く知らず、なんなら絶対に来ないと余裕に思っていたのに、まさかのまさかだった。今はもう全く好きだとか話したいとかの感情はないのだけど、やはり昔の感情は2・3年ぶり?に目にすれば少しは思い出すわけで。もう薄くでしか覚えていなかった、喋り方とか笑い方、歩き方や歌い方、楽器の演奏の仕方。それらを目にしてしまって、いつもは飲まない100%のオレンジジュースを飲んで酸っぱ!って思うような、知ってたけど忘れてたことを、意識より先に体が反応した。
 狭い空間にあんたがいるだけで心が苦しくて全く息がうまくできなかった。喋りたくもないし目も合わせたくない。だけど、そこにいるだけで私に影響を与える人間だということを、私は知ってしまって、とても悔しかった。あんたが私の心臓の位置を思い出させるのかよと。
 だけど、同時にほっとしたことがある。私はずっと、今の彼氏の名前を頭の中で繰り返していた。昔、私の心臓がきゅうっとなっていたときの落ち着け方は忘れていたけれど、今の彼氏の名前がおまじないになっていたのだ。だから、この心臓は恋ではない。昔の恥ずかしさや悲しさで心に強くアンタが残っていただけで、優しい感情がアンタにあるわけではない。今の私を優しく包むのは、今の私が付き合っているあの人だ。
 数日前に、今の彼氏は別にいろんな人の中から手に入れたいと思ったわけではない人だと言ったけれど。なんとタイムリー。私はこの出来事でちゃんとあの人のことが好きだったんだと気づいた。だから、少しでも可愛いと思ってもらえるように、乳液は2プッシュから4プッシュに増やしたし、まつ毛美容液も買って、新しいリップも買った。
 私の好きな人は、今付き合っている人です。

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