『高校数学のロードマップ』A_2(数編)4『実数と複素数』

(2019/11/27差し替え)

(※注:「理系に進学したいが数学が苦手な知人の高校生に、数学の良さを教える」というミッションのための草稿を、あらかじめWebに掲載して、ダメなところを指摘してもらおう、という趣旨の記事です)

(2020/3/11追記:彌永昌吉『数の体系』(下)を読む限り、複素数はベクトル空間以後の概念として扱うべきものなので、本当は順番を直さねばならないのですが、それはまた後日物理個人雑誌で行います。この記事ではこの追記で注意勧告するに留めます)

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〇実数と複素数


●累乗根で悩まない実数


・さて、極限の話が出てきたところで、実数の話をします。
・実数は、I.集合編で説明した、3つの能力(順序能力である順序的構造、演算能力である代数的構造、空間能力である位相的構造)を全て持つ、恵まれた存在です。
・特に順序的構造に着目すると、実数は実数の連続性(じっすうのれんぞくせい)という性質を持ちます。
・実数の連続性とは、直感的には、何かの大小関係のある集合を、何らかの数aで2つの部分に区切るとき、「a未満(みまん)とa以上(いじょう)」、あるいは「a以下(いか)とa超(ご)え」という形で、常に分けられるよう、順序能力をパワーアップさせた、ということです。
(さらに正確な定義もありますが、飛ばします。

・実は、有理数をパワーアップさせて、有理数の順序を二つに区切ったときに、「未満と以上の間に隙がないようにする」「以下と超えの間に隙がないようにする」数を考えると、これで実数の連続性を備えたことになり、この数のレベルが実数になります。
どういうことかというと、ある有理数と別の有理数の間は、どうしてもちょっと離れています。が、それを「無限小の離れ方しかしていない隣の点が無限大に存在する」ようにすると、これで隙がなくなるということです。

・ということで、整数と有理数は演算能力の都合で作ってきましたが、実数は順序能力の都合で作られた数です。
・ところが、実数は演算能力の上から見ても、非常に便利な性質があります。
奇妙なことに、それまでの有理数までで出来た、ありとあらゆる演算が、実数のレベルでも常に出来るのです。(四則演算が、”÷0”を除き、制約なしに出来ます。)
・そして、もう一つ便利な話としては、さっき問題になっていた冪乗が常に扱えるのです。端的に言うと、無理数であるため有理数では扱えなかった無限小数、2の平方根である√2=1.41421356…は、実数の上なら扱えるのです。√2等の累乗根の居場所は、実数のレベルにある、ということです。

・また、今のうちに説明してしまうものとして、指数関数(しすうかんすう)および対数関数(たいすうかんすう)というものがあります。
・nの数値をx軸に並べて、aのn乗(累乗)の数値をy軸の方向と平行に設置して、これを連続する関数のグラフ(面の中の線のことです。III.空間編の関数のグラフの章で説明します)として描いた時、それに対応する関数が書けます。(例えば、2の2乗は4で、3乗は8で、4乗は16で、5乗は32で、6乗は64です。何となく関数のグラフが描けそうな気がしてきますね。)
また、式も設定することが出来るので、この関数は式を備えた扱いやすい関数になります。(式を備えた関数は中学校数学レベルでやるのでした。)
これが指数関数です。累乗の関数のグラフを関数にしたもの、というイメージです。
(x軸・y軸や関数のグラフや関数については大雑把なイメージしかないと思いますが、後で説明します。)
(この関数のグラフで、x軸を1/nにすると、yの値がaのn乗根(累乗根)になる、という性質があります。例えば、2の1/2乗は、実は√2になります。つまり、実は累乗の関数のグラフは、見方を変えると累乗根の関数のグラフも兼ねている訳です。これを関数にしたものが指数関数ということですね。)
 累乗や累乗根を関数のグラフ上に並べた指数関数も、実数のレベルにある、ということになります。

・今度は、対数関数の話をします。
aのp乗の数値がnになるような式を考えてみましょう。(例えば、2の2乗は4で、3乗は8で、4乗は16で、5乗は32で、6乗は64なのでした。)
発想を変えて、nすなわちaのp乗の数値をx軸に並べて、pの数値をy軸の方向と平行に設置して、これを連続する関数のグラフとして描いた時、それに対応する関数が書けます。
これが対数関数です。(”log a p”と書かれます。)

・対数関数は、累乗や累乗根をグラフ上に並べているという意味では、指数関数と作り方がよく似ていて、実際に密接な関係にあるのですが。非常に簡単な見分け方があります。
 「指数関数的に増える」という言い回しがあり、これは「前の方ではゆっくりとした勢いで増え、後になればなるほどものすごい勢いで増える」という意味です。何かというと、要するに、指数関数は、前の方ではゆっくりとした勢いで増え、後になればなるほどものすごい勢いで増えます。
 逆に、対数関数は、前の方ではものすごい勢いで増え、後になればなるほどゆっくりとした勢いで増えます。
(ちなみに「指数関数的に減る」とかもありますが、これはy軸を挟んで普通の指数関数をひっくり返したものなので、前の方ではものすごい勢いで減り、後になればなるほどゆっくりとした勢いで減ります。
減少するタイプの対数関数もx軸を挟んで普通の対数関数をひっくり返したものなので、前の方ではゆっくりとした勢いで減り、後になればなるほどものすごい勢いで減ります。


・ついでに、これは演算能力とは関係ないのですが、実は円周率や三角関数等の居場所も実数のレベルにあります。実数、だいぶ便利ですね。
・ですが、実は解決しなければならない問題がまだあり、それは複素数を使わなければ解決しません。

●代数方程式で悩まない複素数


・実数は、一見何でも出来そうですが、実際には大きな問題があります。
 何かというと、多項式(たこうしき)と方程式(ほうていしき)を使ってある種の演算をした時に、実数ではどうしようもないことが起きるのです。

・多項式、簡単のためにxだけを使った1変数多項式を考えます。
(1変数)多項式とは、抽象的には
 f(x)=(a×x^n)+(b×x^(n-1))+…+(l×x)+m
となるような式のことです。
具体的には
f(x)=x^2+4x+3
とかですね。
(2変数以上だと面倒になりますので、説明しません。
(また、大学数学レベルの関数”f(x)”xを使った式全体等号”=”でくっつけると、中学校数学レベルの関数”f(x)=xを使った式全体”が出来る、ということを覚えておくといいでしょう。
要するに、多項式は中学校数学レベルの関数で表せます。


・多項式は、
「ある自然数aをある自然数mで割る。b余りcとなる。
余りbを、さらにある自然数mで割る。d余りeとなる。
これを割り切れるか割れなくなるまで行う」
というプロセスの結果生じるものです。
そういう意味で、多項式とは、自然数から派生した、整数とは別の中間生成物だと考えて下さって結構です。そしてこの多項式が複素数につながるという説明をこれからするのです。不思議ですね。

・実は、2進数や10進数も多項式の応用で行います。
なので、例えば、
143=(1×10^2)+(4×10)+3
です。さっき述べた多項式
f(x)=x^2+4x+3
と非常によく似ていることに気づくと思います。
(具体的には、x=10のとき、さっき述べた多項式
f(x)=x^2+4x+3
はこの143の10進数表現と同じことになります。
なお、実は、10進法を加工すると、有理数のうち有限小数で表せるものについてうまく表すことが出来ます。1.43=143/100=1+4×(1/10)+3×(1/100)になるんですね。多項式は、複素数の基礎になる前に、有理数の一部の基礎となることも出来るという話だと考えてもらって結構です。)

方程式とはf(x)=0となるような式です。
 x-5=0
とかですね。
もちろん多項式と方程式を組み合わせることが出来ます。これを代数方程式(だいすうほうていしき)と呼びます。(この呼び方自体は高校数学ではやらないかもしれませんが、一応書きます。)
 x^2+4x+3=0
 という形の式がそうです。

1変数代数方程式としては、1変数1次方程式、1変数2次方程式、1変数3次方程式、1変数n次方程式などがあります。
例えば、1変数2次方程式だと、
f(x)=x^2+4x+3
とか、
f(x)=x^2+4x+4
とか、
f(x)=x^2+4x+5
とかです。
・これらを上から解いていきましょう。
 中学数学のテクニックとして、2次方程式の解き方があったのでした。
 (a×x^2)+(b×x)+c=0
のとき、
x=(-b±√(b^2-4×a×c))÷(2×a)
を求めるのでした。これで出て来るxの値が1変数2次方程式の解です。
上の式だと
x=(-4±√(4×4-4×1×3))÷(2×1)=-1, -3
です。(演算してみて下さい。これで合っているはずです。)
中央の式だと
x=(-4±√(4×4-4×1×4))÷(2×1)=-2
です。

・さて、下の式です。ここで困ったことになります。
x=(-4±√(4×4-4×1×5))÷(2×1)=?
とりあえず、
√(4×4-4×1×5)
の中だけ演算してみましょう。やっていくと
√(-4)
になります。
あれ? マイナス数のルート? 負の数の累乗根…?? そんな冪乗、中学数学で許容されていたっけ…???
〇〇さんの今の中学数学教育ではどうなっているのか分かりませんが、私の頃は、この状態になったら「この1変数2次方程式は解なしとする」という答が正解とされていたはずです。

・生徒としては、「答のない、解けない式を、問題に出さないでほしいんですけど」と、文句の一つも言いたくなるというものです。まあ「解なし」と答えればいいのでいいんですが。
しかし、さまざまな代数方程式を研究していた数学者たちの中には、「だからどんな代数方程式でも解が出せるようでなければならない。何らかの解が絶対にあると見なす」という考え方をする人がいました。彼らは心底諦めなかったのです。
・でも、どうやって?
さっきの話だと、マイナスの数のルートとなるような特殊なレベルの数を、「これは、あるものとして、使う」と言い張れば、何とかなりそうな気がします。
ということで、そういう数が「ある」と言い張ることで、マイナスの数のルートも、代数方程式の解も、いくらでも出せるようにしよう、というニーズが発生しました。

・そうして作られた、マイナスの数のルートの値のことを、虚数(きょすう)と呼びます。
虚数の代表となる、-1の平方根を、一般に記号としてiと書きます。
±√(-d)=±(√d×i)
です。
・今見ると気持ち悪いかもしれませんが、さっきの下の式はこんな解になります。
x=(-4±√(4×4-4×1×5))÷(2×1)
=(-4±√(-4))÷2
=(-4±2i)÷2
=-2±i
・「ええ…これで形の上では解けたけど、本当にこんなことが許容されているの…?」と逆に不安になってくるかもしれません。が、理系をやる場合、高校数学の複素数の授業でこの説明を受ける日が必ず来ます。これ以降は、「こんなことは許容されている、というか推奨されている」という扱いになりますので、もし授業でこの話が出たら、その日から使って下さい。

実数と虚数を足すことも出来ます。この時、
 a+bi
 という形になります。これを複素数と呼びます。
(自然数の一種である素数(そすう)とは関係ありません。英語だと複素数はcomplex numberで、素数はprime numberとなり、別の単語です。それぞれ翻訳した人、もう少し何とかならなかったんだろうか、とは時々思います。)
さっきの
-2±i
 は複素数の例になりますね。
・逆転の発想で、虚数を
0+bi
という、実数部分、実部(じつぶ)の値が0であるような複素数ととらえてもよいでしょう。
・もちろん、実数は
a+0i
という、虚数部分、虚部(きょぶ)の値が0であるような複素数ととらえてもよい訳です。
(でも、この場合は普通に実数とだけ考えた方がいいです。)

・複素数は演算能力の上から見ても、非常に便利な性質があります。
奇妙なことに、それまでの実数までで出来た、ありとあらゆる演算が、複素数のレベルでも常に出来るのです。
また、複素数は2次方程式の解を常に用意出来るというメリットがあります。(実は3~4次方程式は常に、複素数で解けます。ただし、5次方程式以上の場合は解けないことがあります。説明は面倒になるので説明しません。

・ただし、一つ気を付けた方がよいことがあります。
 複素数において成り立つ順序的構造は、もはや大小関係ではない、ということです。
 「えっ、0よりiの方が、iより2iの方が大きいのでは?」と思うかもしれませんが、冪乗をした時に、iで大小関係を考えることの危うさが分かってきます。
 自然数ではa>0のとき、a^2>0でした。ここはよいでしょう。整数以上のレベルの場合は、これに加えて、a<0のとき、a^2>0です。ここもよいでしょう。
 さて、虚数の場合ですが、i>0とした場合、i^2=-1です。-1>0になるのか? ならないですね。じゃあi<0とした場合だったら? 同じですね。i^2=-1です。もちろん、-1>0になる、という話は成り立たない。
ということで、今まで考えていた大小関係は、虚数では成り立たないし、虚数を含む場合、複素数でも成り立たない(成り立つとしたら虚数を含まない場合だけであり、それはつまり実際には実数の場合に他ならない。なので、それは単に実数と考えた方がいいです)、ということになります。ここは気を付けましょう。

・まあ、そんな訳で、高校数学はもちろん、大学数学でも大学自然科学でも、複素数はものすごく使います。
これ以上の数のレベルもあり(四元数、八元数、十六元数など)、それぞれ奇妙ながらも有用な性質を持っていますし、実は他の数学や物理学への応用があったりしますが、まあ、高校数学までなら複素数まで分かれば十分です。慣れていきましょう。

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