激昂おじさんと僕
「お前、なめとるんか?あぁ!?」
電話をとると、第一声がコレだった。詳しくはわからないが、どうやら僕は他部署のおじさんを舐めたらしい。
「だから、なめとるんかって聞いとるんじゃ!」
こちらが返答に困っていると、追撃として叫んできた。「舐めてるんか?」という質問って、「舐めてません」以外の回答がないのに、なんのためにするんやろう。役所の認印くらい無駄。
「とりあえずお前、こっち来い!わかったか!」
そうして電話は切られた。
毎度のパワハラに加えての珍しい参戦者。「今日は祭りやなぁ」なんて思いながら、ブチギレおじさんの元に向かったんですよ。
「お前、自分が何したかわかっとんのか?」
行ってみると、大量の段ボールがおじさんの作業場に置かれてたんですね。と言うのも、業者が1月の締めに合わせて、無断で部品を大量に入れてきたっぽいんですよ。それで、僕の顔が思い浮かんだんでしょう。別に僕が発注したわけでも、担当でもないんですけど、発注の管轄が僕の部署だからと言う理由で、呼びつけられたようなんですね。
「お前、責任取れんのか?」
顔を真っ赤にしてブチギレるおじさん。
「お前の仕事のやり方、頭悪すぎるんじゃ!」
作業場に響き渡るほど、机を強く叩き怒鳴るおじさん。
「んなもん、パートでもできる仕事やろ!こんなことすらできんのか!!」
そして、思った。
この人、誰やっけ...?
すんごい目の前で怒ってるんですけど、名前が全然思い出せないんですよ。製造部で、役職はついてなくて、タバコを吸うってことは知ってるんですけど、肝心の名前がこれっぽっちも思い出せないんですね。
相手は顔を真っ赤にして、ただただ怒りを僕にぶつけてきてる訳ですよ。部署も違うし、利害関係もほぼありませんから、この怒りは腹が立ったから攻撃したいという、ただの暴力な訳なんですね。
いわば僕を傷つけたくて、顔をしかめたくなる様な罵声を浴びせてる訳なんですよ。僕を傷つけたくて、人格を否定し続けてきているじゃないですか。
そんなおじさんの、名前すらわからない僕。
面白くなってきた。
こんなにおじさんは僕を傷つけようとしてるのに、こっちは名前すらわからない訳ですよ。んなもん、石に躓いたのと同じですから、傷つくわけがないんですね。にも関わらずおじさんは、必死に僕を攻撃してきてる。この状況がなんか面白くなってきたんですよ。
もうそこからは半笑いですよ。おじさんが、「テメェらのせいで残業せなあかんやろが!」なんてめちゃくちゃキレてるんですけど、もうなんか面白いんですよね。頭の中では、「おーっと知らないおじさん。壁に向かって残業の愚痴を吐いているぞ!」なんかって実況まで流れる始末です。
時折薪をくべるように「そうですね...」とか、「おっしゃる通り...」なんて言いながら、半笑いで嵐がさるのを待つ僕。
そして10分後、おじさんは一呼吸おいて言った。
「まぁ、わかってくれたらそれでええんや。」
「ほんますいませんでした!」と言って立ち去る僕。
怒られた内容はわかっても、おじさんの名前は最後までわからないまま、その場を後にするのでありました。
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