最強のミブリさん
30を迎えて、少し太ってきてしまった。ルッキズムの時代に守り切れない顔面を備えた僕からすると、太ることというのは存亡の危機と言っても過言ではない、由々しき問題だ。
その為に最近、自分で料理を始めたり、少し食事には気を付けるようにしてきた。ご飯をオートミールに置き換えたり、おなかがピーピーになるほど水をがぶ飲みしたり、麻婆豆腐に七味を大量に入れておなかをぶっ壊してカロリーの摂取を抑えたり、我流で様々なダイエットは試してみた。ただどれもうまくいかず体重は上昇の一途をたどるばかり。そこで、始めたのがリングフィットアドベンチャーだ。
前回このnoteでこの話題を扱っているのが、2021年の8月。すなわち2年ほど前が最後のプレイになってしまっていたリングフィットを、いま改めてやり始めることにした。当時はリングフィットの性別変更を、カプグラ症候群になぞらえて記事にしているようです。OKグーグル、「めっちゃきもいですね」って、当時の僕に伝えて。
2年前に辞めてしまったゲームを引っ張り出してきて、今まさにリングフィットを毎日プレイしているのだが、その時にはなんとも思わなかった、あるキャラクターが、とても気になっている。
それが彼。
画面の左側で、ひょうきんにリングを掲げている、ミブリさんである。
ミブリさんは、エクササイズが始まると常に動きのお手本の動きをしてくれるキャラクターである。ゲームとしては、プレイヤーと同じ動きをする主人公のキャラクターが、エクササイズで敵を倒していくのだが、その動きの完璧なお手本をしてくれているのが、ミブリさんなのである。
このミブリさん、2年前はなんとも思っていなかったのだが、30歳を超えてプレイしていると、無性に腹が立つ瞬間が訪れる。それは完全に僕の体力が衰えていることが原因だ。必死に歯を食いしばって筋トレをしている中で、ひょうひょうと動いているミブリさんに、なんとなく腹が立つ自分がいるのである。
ゲームの中のキャラクターな上に、お手本の映像と同じものなのだから、こんなところに腹を立てること自体が小さいことはわかっている。僕も今はなんとも思っていない。ただ、必死になっているときはなんとなく腹が立ってしまうときがあるのだ。「てめぇ…何を涼しい顔で…」とイラっとしてしまうことが。
ただ、それを許せないまま終わるのも逆に悔しい。3日目くらいまでは、トレーニングしながら、末代までの呪う勢いでがんを飛ばしていたミブリさんであったが、流石にそんなことは思ってはいけないと心を改めてトレーニングに励んでいた。しょせんゲームだし、お手本のキャラクター。そんなものに腹を立てること自体が、どうかしているんだと。そんな時だった。
それは、ダイナミックストレッチと呼ばれる運動前のストレッチをした後。運動前の軽いストレッチで「さぁ今日も頑張ろう!」と思っていた時だった。
ミブリ、疲れているのである。
これまで、どれだけハードなトレーニングを続けてもフォームが一切崩れたことがないミブリが、ひざに手をついて疲れたポーズをしているのである。僕に見本を見せるために、僕よりも数回多くトレーニングをしているあのミブリが、僕でも「ウォーミングアップだ」と思うようなトレーニングで、ぜーぜー言って疲れているのである。それも、「ダイナミックストレッチ お疲れさまでした!」と言いながら。
決めた。
俺、強くなったら、まずミブリの腕を折るよ。
リングフィットの声が変わって、世界がそのまま回ることを、カプグラ症候群になぞらえて奇文を書いていていた2年前。
体力の衰えをゲームのキャラクターにぶつけて、謎の宣戦布告をけしかける30歳の春。
32歳になるころには、ムキムキになる前に、まともになれていると良いですね。
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