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七十七話 下車

 「間もなく下車する!降りる準備をしておけ!」

 班長が猛然と怒鳴った。
 新兵たちは背嚢を背負って三八式歩兵銃を握り締め、停車を待つ。
 列車は徐々に速度を落とし、高粱コーリャン畠のド真ん中で止まった。
 
 「戸を開けろ!」
 班長が、戸の周辺にいる新兵たちを怒鳴る。
 今まで見せたことのない険しいオーラを漂わせて居た。
 
 新兵が貨車の戸を開ける。
 突然、乾いた暴力的な寒気が、顔を襲った。

 「中はこのままにして飛び降りろ!」
 班長が命令した。
 下は砂利が敷かれた線路上。地面まで四、五メートルはある。
 新兵たちは戸惑い、とりあえず銃と背嚢を貨車に置いた。

 「トォゥ!」
 帯剣したまま上官が翔んだ。

 ザザッーー! 
 片膝をついて着地。
 颯爽と駆けてゆく。

 それを見て新兵の一人が翔ぶ。

 グッシャーーーン!!
 粉砕音が響き渡った。

 「アッ、アガ・・・ッーーー!」
 呻き、喘ぐ。
 もんどり打って倒れ、転がっている。

 「うっ、ウグッ、ウゴゥ・・・」
 足の骨を折ったようだ。
 苦悶の表情を浮かべ、鬼の形相となった新兵。
 そのまま足を抑えてそのまま動かなくなって居た。

 「大丈夫かァーーッ!」
 貨車の中から、上官が叫ぶ。
 そして、中に居る新兵を睨み、「お前ら!何をグズグズしておる!早う、飛び降りんか!!」と一喝した。
 動揺し、躊躇する新兵たち。上官の命を受け、止む得ず次から次へと飛び降りて行く。

 「イテェーーーーーー!!!」
 着地に失敗し、足を捻挫してうずくまる者。
 奇声を発し、海老反りになっている者。
 中には貨車内での助走が過ぎ、高粱コーリャン畠まで転げ落ちる者もいた。

 無論、飛び降りればいいと言うものではない。下でおちおちしていると、上から新兵が降ってくるため、最悪激突して、首の骨を折る。
 
 線路は単線のため、他の貨車がすぐ来るということはない。しかし、その周辺では、下敷きとなる者も出、やはりと言うか、かなりの騒動となっていた。

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