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18.トリエンナーレが延期された静かな越後妻有① アートな清津峡トンネル

第8回目となる今年の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2021」が延期された、越後妻有へ。でも、越後妻有はちゃんと静かに動いていた。
まず目指したのは、十日町市の清津峡渓谷トンネル。ここにも、2021年4月に新しく公開された作品がある。

清津峡は、1949年に国立公園に指定された上信越高原国立公園内にあり、国の名勝・天然記念物にも指定されている。
信濃川の支流である清津川が形成した全長約12.5キロの渓谷で、マグマが冷却するときの収縮で柱状になった、柱状節理の岩肌が美しい日本三大渓谷の一つ。
1988年に渓谷内で落石死亡事故が発生したため、遊歩道は通行禁止となり、安全に渓谷を楽しめるよう、1996年に、全長750メートルの歩行者専用トンネルが開業した。
トンネルの途中に3つの見晴所、終点にはパノラマステーションがあり、そこから渓谷を観ることができる。
トンネル開業の翌年1997年度の来訪者は16万人を超えたけれど、2004年の新潟県中越地震後には、10万人以下へと落ち込み、長いトンネルを歩くのは退屈だという声もあり、年々来場者が減少していた。

2018年第7回大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレで、清津峡のトンネルは、アートを融合した「Tunnel of Light 光のトンネル」となった。
トンネルを外界から遮断された潜水艦に見立て、外を望む潜望鏡として途中の見晴らし所と終点のパノラマステーションにアート作品を展開。
特に、トンネルの壁面にステンレス板をはり、床一面に張った水が「水鏡」となるパノラマステーシンの「ライトケーブ(光の洞窟)」は、渓谷の景色の映りこみが幻想的で美しく、話題を呼んで、2017年に6万人足らずだった来場者が、2019年には約31万8000人にまで増加した。

手掛けたのは、中国のマ・ヤンソンと、彼が、同じく中国のダン・チュン、日本人早野洋介の3人で運営する建築家グループ MADアーキテクツ。自然の「5大要素」(木、土、金属、火、水)による空間アートで、このトンネルを生まれ変わらせたと言える。

Expression of Color 色の表出(earth 土)
まずは、見晴所に向かって歩いていくトンネルが、区画ごとに異なる色でライトアップされている。空間の活気を〝色の表出″としてとらえているという。これが「土」。

Invisible Bubble 見えない泡(Metal 金属)
Flow

第2見晴所の黒と白のストライプの渦、これが2021年に新たに公開された「Flow」。真ん中に立つカプセルのようなものは、実は、2018年の大地の芸術祭で設置されたトイレ「見えない泡」。これも黒白のストライプなのかと思ったら、鏡面になっていて壁面を映しており、新設の「Flow」に包み込まれ、一体化した空間を作り出している。トイレの渓谷に向った壁は透明で、メタルフィルムで覆われているので外側からは見えないけれど、内側からは渓谷が見えて面白い。これが「金属」。

Drop しずく(Fire 火)
第3見晴所は、「火」。しずくなような凸面鏡が壁に散りばめられ、赤いバックライトで照らされてぼうっと光っている。

Light Cave 光の洞窟(Water 水)
そして、終点には「水」。半鏡面のステンレススチールのトンネルが、清津峡の景観を反転して映し、そこに映し出される渓谷のイメージは「水盤鏡」にも映し出される、幻想的な光景。

Periscope 潜望鏡 (Wood 木)
木は、トンネルの手前にあるエントランス施設で、1 階に受付とカフェ、2 階に足湯が誕生。足を湯に浸して上を見ると、天井には丸く開いた穴、潜望鏡は、ここから始まっている。


マ・ヤンソン/MAD アーキテクツは、東洋的自然観を基に現代社会における新しい建築の在り方を考え、「山水都市」のコンセプトを核とし、人と都市と環境との新たな関係性の創出を目指している建築家集団だという。

アートなトンネル、特に新しく加わったFLOWは、視覚的にもかなりインパクトがある。
けれど、あくまでも、「人工的に」作られたトンネルの中のことであり、清津峡の景観を見るときに邪魔になることはないし、最後に目の前に広がる「水鏡」は、ちょっと感動する。
アートと自然の融合により、人を呼び戻す、、、来場者が劇的に増えた清津峡トンネルは、過疎・高齢化が進む里山で現代アートという「大地の芸術祭」の面目躍如。
この後、訪れる、いくつかの廃校利用のサイトも心に残る。それは、また、次に。

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