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「情報処理」無償公開記事

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情報処理学会 会誌「情報処理」のバックナンバーから,無料で読める記事の一部を順次紹介していきます.
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記事一覧

2024年本試験問題 第2問 ついに異星人が地球を訪れた.しかも一度に,トウ星,カイ星,ホク星,リク星という,四つもの星から.

辰己丈夫(放送大学)  今回取り上げるのは,2024年1月に実施された大学入学共通テストの「情報関係基礎」第2問です.この第2問の位置づけなどは,大学入試センターの資料などを見ると分かりますが,手短に書くと「アルゴリズム」や「数量的関係」を重視した問題となっています.2022年からの学習指導要領における「情報I」でも,モデル化とシミュレーションは当然,取り上げられる話題ですから,この問題に取り組んでみることも悪くないでしょう.  この記事では,まず,問題を解く受験生の気持

米国大統領選挙とディープフェイク

湯淺墾道(明治大学) 2024年米国大統領選挙の懸念 2024年は世界的に「選挙イヤー」であり,多くの国で大統領選挙や国会議員選挙が予定されている.その中には,米国やロシアの大統領選挙など世界的に注目を集めるものが少なくない.アジアでは,1月に行われた台湾の総統選挙,2月に行われたインドネシア大統領選挙のほか,インド,パキスタン,バングラデシュ,韓国で国会議員選挙が予定されている.しかしその中でも特に注目されるのは,米国の大統領選挙であろう.現時点では現職の民主党・バイデン

1bit LLM の時代は来るのか,来ないのか,どっちなんだい?

徳永拓之(LeapMind(株)) 1bit LLMの時代が来る? 2024 年2 月,The Era of 1-bit LLMs: All Large Language Models are in 1.58 Bits¹⁾ というタイトルの論文がarXiv上で公開され,にわかに話題となりました.“1.58 Bits” という表現はあまりなじみがありませんが,log₂(3) = 1.58 . . . ということで,パラメーターを三値にした場合の情報量を示しているようです.この

チェックディジットを計算しよう

久野 靖(電気通信大学)  まだまだ続く「教科『情報』の入学試験問題って?」,2025年の試験開始がいよいよ近づいて,大学入試センター以外に,「情報」の独自入試を実施する大学からの模擬試験問題なども入手できるようになってきました ¹⁾ ²⁾.  その中から今回は,京都産業大学が協力高校において実施した模擬試験の問題のうちの1問,チェックディジットの問題を取り上げます.独自入試の問題なんて難しそう,と思いましたか?  確かに,大学入試センターの試験にないようなタイプの問題

高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)に関する情報処理学会の意見表明について

 2024年1月30日に本会より,「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)に関する本会の意見表明(https://www.ipsj.or.jp/release/iken20240130.html)を発出した.本稿では,DXハイスクールとは何か,また,DXハイスクールと関連があると考えられる動向を踏まえ,本会はどう貢献できるのかについて解説する. 情報処理学会の提言 本会のこの意見表明について,以下の通り,朝日新聞でも取り上げられた.  また,DXハイスクールに関す

電気通信大学 試作問題 第3問 数字列の並び替え

佐藤 喬(東京都立産業技術高等専門学校)  今回は,2023年11月26日(日)に電気通信大学で実施された個別学力検査「情報」の受験体験会で用いられた試作問題 ¹⁾ の第3問について解説します.この問題は,6桁のある数字列を並び替えて,辞書式順で次にくる数字列を求める手順について考える内容です. 問1の解説 それでは,問1から見ていきましょう.図Aは,6桁の数字列の定義と大小関係について,例を用いた説明です.  問い(1)と(2)は,手を動かせば解ける内容と思われます.

極私的合同座談会:ドラえもんと私と研究

五十嵐悠紀(お茶の水女子大学) 伊藤雄一(青山学院大学) 稲見昌彦(東京大学) 永谷直久(京都産業大学)  情報処理学会,日本バーチャルリアリティ学会,ヒューマンインタフェース学会の3学会から代表者が集まり,『ドラえもん』を題材にとことん語り合う座談会を開催した.情報処理学会からは学会誌編集長の五十嵐悠紀氏,日本バーチャルリアリティ学会からは学会誌編集委員長の永谷直久氏,そして両学会の理事を務める稲見昌彦氏を迎え,ヒューマンインタフェース学会誌副編集長の伊藤雄一氏が司会を担

「最小交換貨幣枚数」による上手な払い方

冨澤眞樹(前橋工科大学)  令和7年度大学入学共通テスト試作問題「情報Ⅰ」の第3問を取り上げる.第3問は,釣り銭に関する問題であり,アルゴリズムに関連した問題である.キーワード “お釣り 最適化” や “お釣り 最小” でネット検索すれば,釣り銭に関する問題やアルゴリズムに関するウェブサイトが多く見つかる.釣り銭問題は馴染みのある問題なのだろう.しかし,電子マネーやバーコード決済を使っている受験生には,釣り銭問題は馴染みが薄いかもしれない.試作問題としては良い題材だが,令和

「確率モデルのシミュレーション」は,問題設定を楽しみながら解こう!

林 宏樹(雲雀丘学園中学校・高等学校)  今回は,令和4年(2022年)11月9日に大学入試センターより公開された「情報」の試作問題 ¹⁾ の第2問Bのシミュレーションを扱った問題を解説します.分野としては情報Ⅰ(3)コンピュータとプログラミングの位置づけであり,この分野にはモデル化とシミュレーションも含まれてます.  まず,シミュレーションって言葉を聞くと,難しそうだと感じてしまいます.シミュレーションの問題のポイントは,「問題文の内容が,図のどの部分を表現しているか」

いらすとや×AI:画像生成AIが変える商用画像の未来

三嶋隆史(東京工業大学/AI Picasso(株)) 尾崎安範(AI Picasso(株)) 冨平準喜(AI Picasso(株))  みなさまはインターネット,特にSNSは普段から使用されていますか? 最近,SNSで共有される画像に大きな変化が見られます.これは,生成人工知能(AI)技術が画像制作に広く用いられるようになったためです.特に2022年から,生成AIを使った画像の品質は飛躍的に向上しています.たとえば,X(旧Twitter)やInstagramに投稿される

「オセロが解けた」を白黒ハッキリさせようじゃないか

山名琢翔(筑波大学) オセロが解かれた?! "Othello is Solved"というタイトルの論文がarXivに投稿されました$${^{☆1}}$$.オセロでは,初期局面から双方のプレイヤがミスをせずに打ち続ければ,終局結果は引き分けになると証明できたというのです.  オセロを「解く」とはどういうことなのか.どうやって解いたのか.また,解かれた後のオセロはどうなるのか.この記事ではオセロを解くということについて解説します.なお,このarXivに投稿された論文"Othe

湘南工科大学「情報」のサンプル問題の解説と分析

加藤和幸(金城学院大学) 湘南工科大学では2023年度入試科目より「情報」が開設 神奈川県藤沢市にある「湘南工科大学」では,今年度(2023年度入試)の一般選抜独自試験より「物理・化学・情報」の中からの選択科目として「情報」が出題されている.多くの大学の2025年からの大学入学共通テストでの「情報」の扱いに注目が集まる中,2年早く入試教科で「情報」を取り入れている「湘南工科大学」の取り組みに注目したい.  2024年度の入試はまだ旧課程での科目編成のため「情報Ⅰ」での出題

稲見前編集長が考えた国内学会の変革と未来展望 その3 学会活動の広がり

インタビュー: 東京大学 先端科学技術研究センター 身体情報学分野 教授・博士(工学) (一社)情報処理学会 理事・フェロー/情報処理学会誌『情報処理』 前編集長 稲見昌彦 氏 文構成:加藤由花(東京女子大学)  稲見昌彦氏に情報処理学会誌の前編集長として行った変革や学会に対する思いをお聞きし,その中から3つのトピックを選びnoteに連載します.今回はその第3回目となります. ※なお,本記事は「DXで学会誌の外への繋がりを拡大」というタイトルでWeb(https://ww

試作問題「旧情報(仮)」の第4問に見る「ネットワークとセキュリティ」問題の工夫

安田 豊 (京都産業大学 情報理工学部)  連載『教科「情報」の入学試験問題って?』,今回は大学入試センターが公開した試作問題のうち「旧情報(仮)」の第4問をとりあげます.第4問ではネットワークとセキュリティ関連の事項を扱っています.  第4問は9つの小問からなりますが,それらすべてが前文で示される3人の家庭のネットワーク環境(と言っても1つはネットワーク「なし」環境ですが)に関連する形で提示されます(図-1).  実に手描き感あふれる図ですね.こうした具体的なネットワ