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追悼をかけて《zaccanto》

 長女がアレクサにかけてもらいたい曲があるのに、なかなか思った曲をかけてくれず、迷曲ばかり流れるので、見かねた妻がキッチンカウンターの向こうから、
「アレクサ、つぅいとうをかけて」
と言った。
「?」
ぼくはノートPCを開いて仕事をしていたが、思わず顔をあげて、右手はマウスを脱マウス。すると、
「Amazonミュージックで、つばめを再生します」
とアレクサ。
 これぞ娘が求めていた曲! だが、なぜわかったアレクサ! そして妻はなんと言った?
 水筒? 追悼?
 妻は自分で言って自分で腹を抱えて、もうアレクサほどにも喋ることができない状態。
 その後、妻の笑いもおさまり、家族で食事をしながら長女がまた別の曲をリクエストすると、今度もまたアレクサはとんちんかんな曲をかける。だが今度はどこか童謡風で親しみやすく、なんという曲なのか知りたくなった。
「アレクサ、これはなんの曲?」
「すみません、よくわかりません」
妻が、
「アレクサ、これはなんという曲?」
「すみません、よくわかりません」
娘も、
「アレクサー、これだれの曲?」
「すみません、よくわかりません」
最後にぼくが完璧な質問をしようと思って、
「アレクサ、いま再生しているのは、だれの、なんという曲?」
と聞いても、
「すみません、よくわかりません」
 だがそもそも通じたのが不思議とはいえ、一番わからないのはいつもながらの妻の言い間違いである。

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