第7話 IR資料の”クリエイティブ度”を測定するデータベースづくり始動。
2022年の2月末に現職を辞めて、会社をつくることにした。
企業のIR資料を中心とした制作会社だ。
本作は、リアルタイムで創業を目指すそんな僕自身の物語。
第6話でも書いたように、僕らは全上場企業の“クリエイティブ度”を測るデータベースをつくることにした。
今回はその過程について綴っていく。
現職を辞めて起業することにした流れや、登場人物(僕と友井)、事業領域決定の経緯についてはこれまでの記事を読んでいただけると嬉しい。
クリエイティブ度を測る、3つの評価基準
タスクの洗い出しの末、”一石五鳥”の可能性を信じて、僕らは全上場企業3,824社のデータベースをつくり始めた。
どれだけ各社のIR資料が”クリエイティブ”なのか。業績に左右されない、内容の分かりやすさと見せ方のクリエイティビティをフラットに測定するためのデータベースだ。
媒体ごとに「内容の評価」と「見せ方の評価」それぞれについて複数の採点項目を設け、一つずつ資料を丁寧に読み込みながらエクセルファイルに点数を記していった。
評価の基準は以下の通り。
あまり大雑把な評価基準にしてしまうと個人の主観で評価がブレると考え、なるべく評価項目は細分化し、数も多めに設けた。
実際はこの倍くらい項目があるが、いくつかの項目は事業に関わるので、ここでは代表的な基準だけ記している。
これらの項目一つ一つに対して、どれだけできているかを判断し、1〜5点(記載なしは0点)で評価していった。
評価点の基準
5:圧巻の完成度。すべての企業に真似してほしい
4:すばらしい。この水準までできたら文句なし
3:それなりによい。分かりやすくまとまっている
2:普通。改善の余地はたくさんある
1:ひどい。分かりづらい。改善の余地しかない
0:記載なし
まぁ、この作業が地獄。しんどいを通り越したしんどさだった。
地道に見ていく以外の方法しかないのだが、いかんせん項目が多すぎる。
いったい誰が決めたんだ。←俺
一つあたりの資料を見るのに平均して30分。
ちゃんと内容を理解した上で、デザインを見て、いいところ悪いところを見極めるのだから、どうしてもそれくらいはかかってしまう。
どんなに頑張っても、1日あたり20社くらいしか進まない。
毎日フルでやって半年以上。現実的に1年で終わるのかどうか。
しかも毎年どころか四半期単位で資料は更新される。
際限がないように思えた。
友井からの嘆願は全力で却下
ちなみに友井もバカではない。
ほどなくして、友井から「企業を半分ずつで分担するか、リサーチする企業を絞りたい」と連絡が来た。
早い段階でこの作業が果てしないものであり、とんでもなくしんどいことに気づいたようだ。
だが、僕はこれを却下した。
ちゃんと理由はある。
まず前者の「半分ずつ分担する」を却下した理由は、評価のブレを限りなく減らしたかったからだ。
いくら項目を細分化したとて結局は人の目で見て判断するわけだから、見る人によって評価に多少のブレがあるのは当然だと思っている。
だからこそ、評価点の基軸が見える化されていない最初の段階だけは、同じ人が同じ価値基準で最後まで評価点をつけていくことが重要に思えた。
一方、後者の「リサーチする企業を絞る」という点については、僕も少し考えはした。業界や企業の規模(上場している市場や時価総額など)でターゲットを決めて、そこだけリサーチするというやり方は、たしかに理にかなっていると思ったからである。
しかし、僕らはいずれ世の中を変えることを標榜しているのだ。
そんな企業が、自分の顧客になりそうな企業だけしかデータ化しないのはどうなのだろうか。
企業としての見え方、“全上場企業のデータを持っていて、それを基準に分析を行っている”という肩書の強さを考えると、やはり全企業のデータを集めることはマストなように思えた。
こうして僕らは、現実的に厳しいと分かりながらも完遂に向けて果てしない作業を再開したのである。
確実な完遂に向け、採点の役割を階層化
とはいえ友井も言うように、どうにかやり方を改善していく必要性は感じていた。さすがに売上に直接つながらないこの作業を1年も続けるわけにはいかない。
そこで僕らは以下のように役割を分担することにした。
「投資家」としての視点が強い友井が全上場企業の資料を簡易的に評価し、「編集者」としての視点が強い僕が、その評価を受けて、より精密にデータを更新していく。
このやり方で進めていくことにした。
3点未満を精密採点の対象から外した理由は、いくつかある。
まず、投資家目線の友井が「この資料はイマイチだ」と評価を下したものを、僕が編集者として再評価するのは本末転倒であるように思えたからだ。
編集者が常に持つべき基軸は「読者目線」であり、読み手が「分かりづらい」と思った時点で、それはもう「分かりづらい資料」でしかない。
ましてや内容が伝わることが重要なIR資料だ。
はっきり言って、その時点でもう評価に値しないのである。
もうひとつ、クリエイティビティが低い資料については「何が悪いのか」の言語化が比較的容易である点も、精密な採点をしない理由だ。
基礎となる評価軸さえあれば、基準点に満たないような資料については必要なタイミングで個別評価が可能なのだ。
たしかに残念な資料の精密な点数評価も「あれば分かりやすい」と思うし、いつか必要になる可能性はあるだろう。
しかし、創業時点では良い資料のモデルケースを探すことや、その資料を因数分解して事例として示していくことのほうが優先順位が高いと判断した。
もちろん、全企業の簡易採点が終わったタイミングで、例えば業界や企業の規模によって明確な傾向が浮き彫りになる可能性もある。
だが、そうなったらそうなったで改めて他の企業についても精密採点を実施すればよいのではないかと僕らは考えた。
ということで、まずは友井が頑張り、その後に僕が仕上げるという形で取り組み方が本決定。あとはとにかくガシガシと進めることになったのである。
……さて、話は少し進み現在。2022年2月2日。
今もなお、友井の頑張りは続いている。
年末くらいから飽きが強烈に襲いかかってきているそうだが、それでも毎日毎日、企業のIRページを駆け巡っては真摯に点数をつけ、良い資料が見つかれば好事例として僕に共有してくれている。
すでに83.6%が完了しており、ゴールは近い。
さすが、友井だ。さす友。2月中旬には終わることだろう。
エクセルに書き記されたデータもだが、それ以上に、すべてを見て採点した友井の中に蓄積された知見こそが、クライアントや他社に誇り得る強力な武器になるような気がしてならない。
「こういう統合報告書をつくっている企業どこかない?」とチャットを送ると、5分もしないうちにオーダーした資料のURLが送られてくるんよ。
さながら、IR博士。まじですごい。
そして、もうじき僕のターンが来る。
友井の採点を更新していかなければならない……。
その現実に慄きながら、今日も僕はnoteを更新するのであった。
TN
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