見出し画像

映画『アフターサン』

『アフターサン』を、見てきました。
たったひとつだけ撮りたい作品を撮れたらそれでいいというような映画でした。監督自身のお父さんの思い出が反映されているというこの作品は、たぶんとても個人的な映画で、何の予備知識もなければ分かりづらい表現をあえてとっていて、エンタメとして消費することを静かに拒んでいるようでもありました。

死へ傾いている精神的に不安定な様子を滲ませている父親を、同じ年にまで成長した娘はビデオの映像で見つめる。見つめていると、父親がその頃抱えていたものからどんな影響を受けていたかに気づくことはできるけれど、抱えていたものの実体が何であるかは見えない。ちょうど映画を見ている観客にもおなじことが起きている。映っていないものはわからないし憶測でものを言うのもおこがましい。はっきりとわかるのは、それでもそんな父親でも、娘を心から愛しているということだけ。
このビデオを暗い表情で見つめる大人になった娘は
画面に立ちこめる父親の愛を受け取ったかしら。わかってはあげられていなかった幼い自分を痛みと共に思うかしら。あの頃の父親の苦しみに自分の今のままならない苦しみを同化させているかしら。
複雑で誰かにひと言でまとめられたりしたらたまらない、そんな大切な人と過ぎ去った時間とを黙って抱きしめるような映画でした。

#映画感想文

この記事が参加している募集

映画感想文