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18祭。

 18祭って知ってますか。

 NHK主催で行われるイベントで、1000人の18歳世代とアーティストが1つのステージを作りだすというもの。

 私がこの存在を知ったのは2016年に行われた1回目の18祭。当時大好きだったONE OK ROCKが若者のために曲を書くと知って、興味を持った。
 12歳だった私は放送を見て、ものすごく感動したし、自分より6つも年上の18歳世代を羨んだ。自分もあと6年早く生まれていたらワンオクと歌えたかもしれない。私が18歳になったら、きっとこの企画に応募しよう。そう思った。

 その次に18祭に改めて関心を持ったのは2018年。RADWIMPSのときだった。申し訳ないことに、私は特段興味のあるアーティストのときにだけ関心をもって18祭を見ていた。だから今までの18祭の企画でちゃんと放送を見たのは、この2回だけだった。
 2018年というのは、中学生の私がちょうどRADにどっぷりはまっていた時期だった。この時も、もっと早く生まれていれば…、と思った。
 この当時、私の尊敬するバンドは、BUMPとRADだった。BUMPはこういう企画にはこの先登場しないだろうな、と勝手に思っていた。だからこの時、自分が18歳になっても、受験とかで忙しいだろうし、よほど好きなアーティストでない限りは参加しない、と思った。

 ところが2022年。私が18になる少し前、BUMPの公式LINEから、今年の18祭を担当するというお知らせが届いた。
 その時私は部活帰りで、汽車に乗っていた。LINEが届いて小さく飛び跳ねた私は、車両の人たちの視線を少し集めることになってしまった。
 好きなアーティストどころか、私をここまで生かしてくれた、大好きなBUMPと歌えるかもしれない。最寄り駅についた瞬間、母親にものすごい勢いで電話して応募したいと伝えた。

 応募動画のテーマは「自分のこと」。
 自分のことで人に自慢できることなんてなにもない、どうしよう、と思った。BUMPから届いた動画で藤くんが「君のことを教えてください。ポジティブでも、ネガティブでも、どっちでもいいです。あなたのことを聞かせてほしい。」って言ってくれて、やっぱり私が大好きな藤くんだなって思うと涙が出てきて、正直に、大嫌いな自分のことを4人に聞いてもらおうって思いました。
 応募動画では、吹奏楽でやってきたコントラバスと、趣味で始めたアコギを使って、下手くそだけど車輪の唄を演奏した。
 「自分のこと」については、自分が大嫌いなこと、学校も休みがちなこと、人と同じになれなくて苦しいことを話した。そして、ひとりぼっちは怖くないと教えてくれたBUMPと一緒に音楽をつくることができたら、自分を少し好きになれるかもしれないと付け加えた。

 自分が送った応募動画は、あまりにもネガティブで、下手くそで、人に見せられるようなものではなかった。でも、BUMPの4人はそれを見て私のことを選んでくれた。
 BUMPに見てもらえるだけでもいいな、と思って自信なさげに送った動画は、どうやら彼らに届いた。

 コーラスの楽譜が届いた。曲の全貌は本番までわからないけど、言葉の選び方がとっても藤くんらしくて、初めて曲を聴いたときにも泣いてしまった。
 ネガティブ全開でBUMPに「ひとりぼっちは怖くないと教えてくれたBUMP OF CHICKENのみなさんと一緒に音楽をつくれたら、自分のことを少しでも好きになれるかもしれないと思って応募しました。」って応募動画で言った私に「一人で多分大丈夫」っていう歌詞が返ってきたことに、なんかもう胸がいっぱいいっぱいで、ものすごく救われた。
 若者を集めて歌う企画なのに、団結とか仲間とか、私たちとか、そういうのじゃなくて、ひとりひとりに向き合った曲を作ってくれるところが、藤原基央が藤原基央たる所以だと思ったし、一生BUMPを大好きでいるに決まってるよなと思った。

 3月21日。18祭当日。前日リハには参加できなかったので、会場を見るのも、同世代の参加者と顔を合わせるのも初めてだった。会場に入るまでの間、外に集まった参加者たちとたくさん話した。人と関わるのが苦手な私だけど、話しかけてくれる人がいたことが嬉しかった。
 会場に入ってから1時間と少し、リハが始まるまでの自由時間があった。 みんな、前日リハやSNSで知り合った人と話したり、新しい人と出会ったり、写真を撮ったりしていた。私はその雰囲気に馴染めなかった。
 控え室はどこか居心地が悪くて廊下に出た。話しかけに行く人の当てもなく、盛り上がる人たちの間を抜けて、廊下の端っこの壁にもたれかかって、はやくこの時間が終わればいいのに、と思った。私もみんなと友達になりたい、と思った。話したいけど、話したいのに、怖い、と思った。こんなに人がたくさんいるのにひとりぼっちで、やっぱり今までとなんにも変われない自分が嫌で、泣いてしまいそうだった。
 壁にへばりつく私に、声をかけてくれる人がいた。会場に入る前に少し話をした人だった。下の階にあるフォトブースを見に行こうと誘ってくれた。結局、時間はたっぷりあるから並んでみることになった。フォトブースに続く長い列の中で、近くに並んでいた人たちと話した。そこで初めて話した3人と記念に写真を撮った。

 巨大な撮影のセットが設置された会場を初めて目にしたとき、ここで歌うんだ、と思った。こんな広いところで歌っても、私の声は届かないだろう。でもそれが1000人集まったら2000倍くらいの歌声になるのかもしれない。とか、そんなことを考えていたような気がする。
 前日リハに参加していなかった私には、前日の余りの立ち位置が割り振られていたのだけど、それがどこなのかわからず、あたふたしていた。リハに参加した人たちはもうすでに打ち解けていて、取り残されたような気がした。でも、すぐ隣に同じ人がいた。リハに参加できなかった者同士、話して仲良くなれた。心細くなくなった。

 何度か歌って調整したあと、本番が始まった。
 BUMPが目の前に現れて、私たちに語り掛けてくれた。藤くんは「ずっと君に会いたかった。会えてよかった。」って言ってくれた。”君たち”じゃなくて”君”に声をかけてくれる藤くんが大好きだなと思った。藤くんの言葉のひとつひとつが優しくて、歌が始まる前にもう泣いてしまった。

 自分たちのコーラスパートしか知らなかった曲が、形になった。自分もその一部になった。
 同じパートの人たちと目を合わせて歌ったとき、向かいのステージにいる人たちと手を振り合ったとき、全員の声が合わさったとき、全身が震えて、気づいたら涙が流れていた。
 こんなに素晴らしい経験は初めてだった。初めてあったはずなのに、ずっと繋がっていた1000人とひとつになれたことは、この先の私を何度も助けてくれるだろうと思う。

 ここにいた印に、とBUMPからバンダナをもらった。1人で便所飯を食べるとき、このバンダナでおにぎりを包んで1004人で便所飯を食おう。1人で泣きたいとき、子どもみたいにこのバンダナを握りしめて1004人で泣こう。そう言ってくれた藤くんは、BUMPは、やっぱりひとりぼっちの味方だった。

 オンエアはされてない部分だから詳しくは言わないでおくけど、本番終了後にBUMPからのサプライズがあった。
 本当に本当に幸せな時間で、その日いちばんの大号泣をした。呼吸ができなくなるまで泣いて、隣の女の子に背中をさすってもらった。それが思いっきりカメラに抜かれてしまった。NHKの未公開映像を漁れば私の大号泣が保管されている事実が恥ずかしくてしょうがない。が、それも思い出。

 これほど大切な経験ができたことは、私がこの先生きるなかで、強い強い支えになってくれると思う。応募してよかった。参加してよかった。
 応募動画で「ひとりぼっちは怖くないと教えてくれたBUMP OF CHICKENのみなさんと一緒に音楽をつくれたら、自分のことを少しでも好きになれるかもしれないと思って応募しました。」と言った私は、ほんの少し自分を好きになれたし、ほんの少し強くなれたような気がした。

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