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タコ部屋 outside

新鮮な油を欲している。窮地を救ってくれた濃厚で体の隅々まで染み込んだ油も徐々に劣化し始めたのか、それとも細胞が平行を取り戻し動き始めたのか、心が揺れている。

転がり落ちて大きな洞穴の前で這いつくばっていた、快く招き入れてくれているがその奥に何があるか考える明日は無かった。伊豆見工業に来て3年がたった。この頃から高速道路の橋脚をカーボン繊維とエポキシ樹脂で補強する工事が増えた。この工事で使うエポキシ樹脂で僕は体調を崩した。初めて施工した日ヘトヘトになり風呂も入らず寝てしまって、朝起きたら顔がカブれていて、エポキシに負けてしまった。以後この作業が長く続き全身カブれてしまい 現場に出るのが嫌になった。このエポキシ樹脂にカブれてしまう人が続出しカブれた人は保険適応なったと後になって聞いた。梅さんも白目までカブれたらしい

毎月それなりに給料はあったし 内金もなく 健康保険にも入った 二ヶ月分くらい貯金もできた。地元に帰りたいと思うようになり 母とも電話で話せる。伊豆見工業を退社することに決めた 寮の場所も変わるようなので今しかない

最後の日の記憶は全く残っていない、伊豆見工業で交差した人や事物は鮮明に残っているのに、逃げ込んだ場所の最後の日は何も残っていなかった。それは非日常から僕が苦しんだ日常に自ら戻る狂った選択だが、どうせ1Kのアパートを借りてどこかで肉体労働をするのがわかっているのにここを出る事を決めた僕に対して気を使ってくれた脳みそのおかげだろ。真正面に受け止めてたら、あんな普通の日常に戻ろうとはしないだろう。誰かが最後見送ってくれた、僕は地元で暮らしている姉のアパートに転がり込んで、後に予想通り1kのアパートを契約する、建築防水会社に就職し5年勤めて独立した年々売上が上がり慢性的に人手不足に悩んでいて、伊豆見工業に電話をして一人手伝いに来てもらった 久しぶりにあった所長とこれまたキャラの強いデラさん 時の経過を一回り小さくなった体に見て取れる。半分以上退職したらしいが、まだ残っている人もいる。私がこうして生きながらえてるのは社会では底辺にみられた、生活も計画的じゃなく風来坊の飯場暮らしの人たちのたくましさに影響を受けたものである 僕の未来は未来と手を切った人々のおかげでなりたっていた。 

end


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