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タコ部屋 in the foot

酒は百薬の長の難しさ、昔から酒で身を滅ぼす人は沢山いただろう。「大門村の田吾作はありゃ〜だめだ 朝からメタ酒呑んでいっそ田にも出てこねー」というように。

入社して一年が経とうとしていた、なから仕事を覚えた僕に他の会社の作業員を一人付けるので千葉の製鉄所のプラントの補修工事に言ってほしいと所長から言われた 製鉄所は青野さんや角田さんと行ったことがあるので不安はない。監督も僕の父親世代の人で「だいちゃん」と僕を読んでくれる。眼鏡ごしに上目遣いで覗き込むのが印象的な仕事は妥協なく優しい人だった。僕もそれに答えようと一生懸命仕事をした。

そして当日一緒に行く作業員を所長と迎えに行く。寮から僅かなところの平屋に伊豆見工業と同じような人夫会社があって、そこの所長は以前伊豆見工業の所長の部下のような人だった。同行する作業員は50代くらいの小柄おじさん 少し安心した初対面で同年代もしくは40代位だと、変なプライドが邪魔して凶と出る場合がある 僕も引くわけにはいかないし、その頃はまだ落とし所みたいな冷静さも無かった 現場で会う初対面の同年代には警戒した 日雇いバイトでちゃらんぽらんがよく来るので、僕みたいな流れ拾ってもらった人間には伊豆見工業の看板を背負ってるみたいな感覚があり、舐められないように普段より一歩前にでる 。

おじさんの名前は小田さん 昔 火力発電所で出会った小野さんにどことなく似ている。「初めまして よろしくお願いします」小田さんも挨拶をしたが何を言ってるか聞き取れなかった。小田さんを迎えに行く車中、所長が僕に「小田に酒は飲ますなよ」と言っていたのが頭によぎった。アクアラインを渡り製鉄所に向かう。僕は気を使うタイプなので色々話しかけた一応会話は成立する。監督は先に現場に入っていて挨拶をし早々に仕事にかかる プラントの腐食した部分を直す工事 小さい箇所が多くあるだけでそれほど大変ではない、小田さんは僕の手元であれこれ取ってもらうぐらいの作業 宿に帰り夕食を食べて部屋に戻る 6畳の部屋に小田さんと相部屋である。食堂でビールを呑んだ僕 小田さんは言いつけを守り呑まなかった。小田さんに聞くと「もう酒はやめた」と言っていた。3日目の朝礼で小田さんは監督に怒られる。100人ほど他の職種もいる朝礼のラジオ体操で小田さんのダラダラしてる姿に腹を立て「小田さんもう少ししっかりやんなよ!!だいちゃんだってちゃんとやってるだろう」ラジオ体操に思想的な嫌なイメージがあるようには見えない小田さんは単に面倒くさいだけ「はい」と小さく頷き現場に向かう。その日の夜 小田さんはお酒を呑んでいた 監督に怒られて鬱憤が溜まったのか、初対面の僕と相部屋でストレスが溜まったのか、アルコールの誘いを断れなかったのか、案の定酔いが回るとブツブツ独り言を言い出した、途中まで返事をしていた僕も呆れてシカトしてが、返事があろうがなかろうが小田さんには関係なかった。それから現場が完了するまでの間 小田さんに対する感情は苛立ちになって一辺倒の見方しかできなくなった、小田さんをフォローし怒らず手取り足取り教える気概も無かった。神奈川に戻る日 監督が「もう小田さんは連れてこないように」と言って僕たちを送り出したアクアラインを渡り寮に戻る 車中は静かで本当はこっちの方がお互い良かったのかなと思って 小田さんを降ろし伊豆見工業の寮に戻る「だいすけ どうだった?」と所長が聞いてきた 過ぎ去った事を改めて考えると「何も問題無かったですよ」と言えばよかったかなと思うが、小田さんはお酒を呑んで監督にも出入り禁止の烙印を押されましたと全て話した。所長は「そうかそうか じゃあ アイツの日当下げなきゃ駄目だな」と言った。えっ!!と思ったがここはそういう世界なんだと 僕も一般の人達の社会より少しはみ出た場所に存在してる世界だと感じることが多かった。

次回「釣りしてる」

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