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ごとし とは何だ?

よく耳にする「ごとし」について、ご質問をいただいたので、あらためて調べてみた。日本語には10の品詞がある、という話を前回したのだけれども、「ごとし」は辞書を引くと「助動詞」と出ている。「付属語」で「活用がある」、「動詞や他の助動詞を助けて意味を付け加える」のが助動詞、とここでは簡単に説明しておこうか。
「ごとし」は「形容詞のク活用」とよく似た活用の形だから「ク活用の助動詞」に分類される。助動詞ならば動詞や助動詞の後ろにくっついているのが普通だ。それ以外の使い方は無いはずだ。ところが「ごとし」については他の用例が出てくるので、変わりものの助動詞と思ってもらうといいかもしれない。

【例】
  ①葉の裏へ隠るるごとく恋の猫 津島野イリス
  ②葉の裏へ隠者がごとく恋の猫 津島野イリス
上記の二句、どちらも「ごとし」の連用形「ごとく」を使って詠んでみた。意味はさほど変わらないと思うが、①は動詞「隠るる」のすぐ後ろに「ごとく」と続くのに対して、②は「隠者」という名詞の後ろに助詞「が」を続けて、それを承ける形で「ごとく」が続く。そもそも助動詞なのであれば①のような使い方しかしないはずなのに、「ごとし」については②のように使っても違和感が無い。

「ごとし」の語源をみると、同一を意味する「こと」の語頭が濁音化した体言「ごと」に形容詞語尾「し」がくっついて成立したんだって。奈良時代や平安時代には「ごと」だけで「ごとし」と同様の意味に使われていたらしいよ。
平家物語の冒頭に「ただ春の夜の夢のごとし」とあるね。「夢」という名詞と、助動詞「ごとし」の間に、助詞「の」が入って二つの語をくっつけている。「夢ごとし」という使い方はしない、「夢のごとし」だ。助動詞「ごとし」は動詞や助動詞を承ける場合はすぐ後ろにつなげていいけど、名詞を承ける使い方なら間に助詞「の」「が」を入れようね

俳句で使われる文法シリーズ
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追記
例として詠んだ①の句に関して、「ごとく」「ごとき」「ごとし」で意味が違う?って質問をさらにいただいたので、Xにて句友の皆様にご質問を投げてみました。詳細はこちらをご覧ください。リプ欄で複数の方が解釈してくださっています。

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