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芸大卒生が考える「漆工芸品が売れない理由」・前編


漆工芸品は、売れない。
私は漆を3年間学んでそう思った。
古臭いから?手間がかかるから?価値がないから?
それともプロモーションが下手だからだろうか。
勿論そう言う面もあるだろう。
だが、本当の問題は「漆工芸品が人々の問題を解決できない」所にあると思う。




漆工芸品の根本的問題

自分は芸大を卒業してから、工芸という分野を外側から眺めてきた。
芸術とはなんら関係の無い就職先で働いている。
そして完全にお客としての目線になった今、漆工芸品を買いたいとは思えない。

値段は相応だと思う。
なんせ漆は手間がかかる。
きちんとしたものを作るには技術もある程度必要だ。
材料費、人件費、場所代などの固定費。
漆器1つ作るのだって、挽き・塗り・加飾と分業制だから、安く抑えるにも限界がある。
もし漆工芸の分野で事業を立てようと思っても、容易なことではない。
新規に参入する企業が少ないため、旧態依然とした雰囲気を感じる。

それらが漆工芸品をうまく売り出せない理由なのだろうか。
私はそれをずっと考えてきた。
そして、私は最近になって、漆工芸の根本的な問題に気付いた。
漆工芸品は、人の悩みを解決できないのだ。


芸術分野とビジネスと

私は最近、営業の勉強をしている。
理由は友人たちのスキルや作品を売り出す手がかりが掴みたいと思っているからだ。
そんな中で気付いたことがあった。

さて、あなたは営業マンがどのようにしてもの・サービスを売るか知っているだろうか。

ざっくり言うと、
・売りたい商品を探している顧客を探す
・実際に話して売り込みをする
のが主な流れである。

ここで大切なのは、「自社の商品を求める顧客を探す(集める)」ことだ。
顧客は自社の商品をどうして求めるのか。
それは、その商品で顧客が何かしらの問題を解決できるからだ。

例えば
・お腹が空いているから食べ物を買う
・遊びたいからゲームを買う
・効率的に勉強したいから塾に通う etc…

顧客はものを買うためにお金を払うのでは無い。
自身の問題を解決してくれるものにお金を払う。

ビジネスとは、人の悩みの解決なのである。
美術や工芸がビジネスとは正反対の所以がここにある。

美術や工芸は人の悩みの解決を目的としない物が殆どだ。
芸大生は「インテリアが欲しい顧客」のために絵を描いている訳では無い。
その手法をもってして何かしらを表現をしたいという自己の欲求=自身の悩みの解決のために絵を描いているのだ。

その表現が同じ悩みを抱えている人間に刺さることはあるだろう。
しかし、刺さったところでその悩みの解決には至れない。
だから、「人を感動させる」ことはできても「購買意欲をわかせる」ことには繋がらないのだ。


「用の美」=「人の問題を解決できる形」

漆工芸の話に戻ろう。
漆工芸品は、本来「用の美」である。
使えるから、つまり「人の悩みを解決できる」ところに美があるとも言えるだろう。

では、現代に残る漆工芸品は、それが無理なのだろうか。
漆の器、漆の重箱、漆の箸…それらは確かに、食器としての用を成し「食べる時の器が欲しい」という悩みを解決できるように思う。
しかし現代では、安く、そして簡単にその悩みを解決できるプラスチック製の器がある。

そもそも漆は「木を長く保たせたい」という悩みから生まれた塗料だ。
しかし、その漆が今や「食洗機で使えない」という新たな悩みを生み出してしまっている。

漆は素晴らしい。
それは間違いない。
防虫防カビ耐衝撃に、殺菌作用まである。

しかし、食洗機と洗剤が普及した今、防虫も防カビも大きな問題ではない。
有用性に溢れた漆に、将来性が見えないのは、そういう理由である。

では、漆工芸品はどうやって生き延びるべきだろうか。
後編ではその話題に移っていきたい。

後編→https://note.com/iron02345/n/n824325a3b6da

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