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【完結小説】「泣いて、笑って、おかえりなさい」 中編(2/3)

前編がまだの方は、こちら

 「会いたい」と連絡が入ったのはその日の夕方のこと。メールの主は映璃(えり)。彰博の嫁さんであり、遠い昔の恋人だった。

 正直、どんな顔をして会えばいいか分からなかったから、断るつもりでいた。なのに映璃は、職場が近いのを理由に自宅まで訪ねてきたのだ。もはや逃げることは出来なかった。

「彰博には言ってあるのか? おれと会ってたことを知れば、いい顔はされないと思うぜ?」

「どうしても会いたかったの。ずっと心配してたんだから」
 生きてて良かった。そう言った映璃の顔は心底安心した様子だった。

「慰めなら要らないぜ。それとも何? ついにおれに抱かれたくなったか?」

「相変わらずの調子ね。そうね、それも悪くないかもね」

「マジかよ……」

「冗談よ、冗談。だってもう38だよ? 付き合ってたときから20年も経ったんですもの。見せられたものじゃないわ」

「あの頃も、今も、映璃はそう言って、おれにはずっと体を見せてくれないんだな……」

 家から少し歩いたところで映璃の左手を握った。住宅街の路地。ひと気がないのを確かめてからその体を引き寄せ、抱きしめる。
 映璃は抵抗しなかった。むしろおれの背に腕を回し、そっと力を込めた。

「……二十年前にこうして受け容れて欲しかったな。お前と結ばれていたらおれの人生も違っていただろうに」

 顔を上げた映璃を見つめる。化粧で繕った顔はきれいだったが、やはり年相応のしわやシミを隠し切れてはいない。ただ、美しくあり続けようとする女の魅力は失われていなかった。

「こんなおれだけど、今からやり直すことは出来るだろうか? つまり……」

 そっと顔を寄せる。映璃は目を瞑ることなくおれをじっと見据えている。構わず唇を重ねたが、拒まれているのが分かった。
 再び目を合わせたとき、映璃は小さく笑った。

「……寂しいんだね、悠は」

「えっ……」

「……やっぱり、会いに来て良かった」

 よしよし、と映璃は子どもの頭をなでるような仕草をする。思いがけない行動に胸が熱くなる。

「十年もの間、悠はずっと涙も見せずに頑張ってきたんだと思う。お疲れさまだったね。でももう我慢はおしまい。寂しいときは寂しいって言いなよ? 電話だってしてよね?」

「だけどお前には……」

「アキなら分かってくれる。私の心配よりまず、自分の心配をしなさい」

「……なら。それなら今日は、ずっと一緒にいてくれ。一人になりたくない」

「うん。わかった」
「……本気で言ってんの? いいのか、帰らなくても」

「んー……」

「ったく……。揶揄(からか)うのはよしてくれよなあ。お前がしないなら、おれから連絡する」

 映璃は昔から何を考えているか分からない女だ。うっかり本気にすると痛い目に遭うのは分かっている。それでも、この時間が一秒でも続いて欲しいと叫ぶもう一人のおれが、「このまま黙っていればいいじゃないか」とささやく。その声をなんとか振り切り、スマホのアドレス帳を開く。

 仕事上がりと思われる時間に電話をかけると、彰博はすぐに出た。予想通り、映璃を探していたようだ。事情を話すとやつは呆れた様子でため息をついた。

「エリーらしい提案だな。……もちろん、すんなりオーケーを出すわけにはいかない。そもそも節度ある男なら、こんな電話をかけてきたりはせずにエリーをうちまで送り届けてくれるはずだからね」

「うっ……」

「君の気持ちは分からないでもない。エリーの優しさも理解できるし尊重したい。……そうだな、こういうのはどうだろう?」

「なんだ?」

「これから僕のうちに来るっていうのは。これならエリーは無事に家に帰ってくるし、君も一人きりになることはない。たまには三人で昔話に花を咲かせるのも悪くないんじゃないかな?」

「昔話? おれには語るほどのものなんてないぜ?」

「だったらなおさらエリーと一緒にいさせたくないな。今どこにいる? 間違いが起きないうちにエリーを迎えに行きたい。万が一君が嘘をついて逃げ回るようなら……」

「……分かった、分かった。おれの負けだよ」
 やっぱり彰博にはかなわない。

「おい、映璃。最初から分かってたんだろう?」
 顔をしかめて問うと、映璃は「さあね」とはぐらかした。
 
 それから10分ほどして彰博が車で迎えにやってきた。車に乗り込むなり、彰博がとげとげしい声で言う。

「エリー。鈴宮と会うときはまず僕に一言いうようにって約束したはずだよ?」

「だって、言えばアキは絶対についてくるでしょう? 二人で会いたかったのよ」

「二人で、ねえ……」
 バックミラー越しに彰博が冷たい視線を向ける。

「……言っとくけど、お前が思ってるようなことは何もしてねえからな」

「じゃあ、キスくらいはしたのかな?」

「うっ……」

「正直だな、君は。黙っていれば分からなかったものを」

 しかし彰博はそれ以上とがめることはしなかった。おれたちの勝負はとうの昔に決着しているし、今も変わることはない。どんなに愛をささやいたところで、おれは映璃を口説き落とすことが出来ないし、そんなことが出来たとしても空しくなるだけだ。

 おれはただ、心の穴を埋めたいだけ。映璃も彰博も分かっている。だからこうして会ってくれるのだろうし、話そうと言ってくれるのだろう。

「お前が言ったんだぜ? 人は支えてくれる存在が必要だって。だからおれは……」

「ああ、言ったよ。だから、僕らが君を支える。安心して寄りかかればいい」

「そうよ。ご飯も私がつくってあげるね。悠、誰かの手料理なんて久しぶりでしょう? 楽しみにしててね」

 二人の言葉には温かさがあった。こんなちっぽけなおれと思っていた自分を包み込んでくれる人間が、ここに二人もいる。
 腹の虫が鳴く。どうしてこうもおれの体は正直なのか。

「映璃、早く食わせてくれ。腹ぺこなんだ」
 二人は同時に笑った。おれもつられて笑う。涙がにじむ。こんなふうに笑ったのはいつぶりだったろう。

 小さなピンク色の傘や浮き輪、ビニールプール……。誘われていい気分になっていたおれを待ち受けていたのは、絵に描いたような幸せな家庭だった。
「おまえら、いつ子どもを? 映璃は生まれつきの病気のせいで、産めない体じゃなかったのか?」

 ちょっとトゲのある言い方だったかもしれない。けれど、困り顔の彰博を尻目に映璃が説明する。

「八年前に養子を迎えたのよ。……アキが子どもを欲しそうだったからね。あれからまたいろいろ調べて、卵子提供までしてもらって妊娠を試みたこともあった。けど、分かってたとおり、私の体じゃダメだった。だからって訳じゃないけど、たまたまタイミングが合ってね。幸運にもお母さんやってるってわけ」

「子どもがいるんじゃ、おれは来ない方が良かったんじゃないのか?」

「あ、それは大丈夫。明日までアキの実家に泊まりなの。夏休みだからね」

「夏休み……。そうか、八月か」

「うん。だから遠慮しないで。はい、どうぞ、入って。今すぐご飯の支度するから、アキとおしゃべりでもしてて」

 映璃は玄関を上がるなり、手際よく身支度を調え、エプロン姿になった。

 食事ができあがるまで手持ち無沙汰だし、立ったままというのもおかしいので、近くにあった椅子に腰掛ける。それを待っていたかのように彰博が向かいに座る。

 なんとはなしに壁を眺める。そこには子どもが描いたであろう、いくつもの絵が押しピンで留められている。家族写真も飾ってある。

「まさかお前が女の子の父親やってるとはなあ」

「隠してたわけじゃないんだ。ただ、君のことを思うと言いづらくてね」

「確かにちょっと……いや、結構嫉妬してるよ、おれは」

 あの事故がなければ、おれだって今ごろ彰博たちのようにカメラの前で笑顔を作っていただろう。そう思うと、友人とはいえこの幸せを壊してやりたいような衝動に襲われる。

「何でまた父親になろうと? しかも他人の子どもを引き取ってまで?」

「この家で笑い合う家族がもう一人いたらいいなって思ったんだ。職業柄、悩んでいる人を相手にするせいもあって、笑顔の人を見るとほっとするっていうか」

「それだけの理由で、一生の責任を背負ったのか?」

「責任や負担を背負う以上に、得るものも大きいと僕は思ってる」

「……失ったときの悲しみも大きいぜ」

「そうだね、きっと。それも含めて僕は子どもを、彼女を引き受けたんだ」
 彼女はね……と彰博は立ち上がり、棚の上から一枚の写真を取ってくる。

「足が片方しかないんだ、生まれつき。それで親に見捨てられたらしい」

「…………」

 さっきは写真の中の笑顔にしか注目していなかったが、彰博が持ってきた写真の女の子は、スカートの下から義足がのぞいて見えた。

「足がないのを承知でもらい受けたのかよ? 健常者もいただろうに」

「うん。でもね、とびきり笑顔がかわいかったんだ。この子がいてくれたらきっと、今よりずっと明るい家庭になるだろうなあって。エリーも同じふうにいってくれた。だから、決めたんだ」

「…………」

「鈴宮。僕は君にだってこの先、笑って生きて欲しいと思ってる。過去にどんなことがあっても、そこに目を向けるんじゃなく、それを糧にこの先を生きていって欲しいんだ。恋愛だってすればいいし、子どもと暮らす人生だって選べばいい。君を束縛するものは何一つないんだよ」

「……じゃあ、このおれの苦しみは何だ? どこから来るんだ?」

「それは、君自身が生み出してるんだよ。君が君を苦しめているんだよ」

「嘘だろ、そんなわけない」

「嘘じゃない。いや、君は本当は分かっているはず、ただ受け容れたくないだけだ」

「そんなことは……」
 ない、と断言することが出来なかった。言われるまでもなく、おれは現実から目を背けている。ああ、お前のいうとおり、全部、分かってるんだ。

 食卓に映璃の手料理とワインが並ぶ。子どもが留守の間は大人好みの食事を楽しもうと決めていたんだとか。

「さあ、乾杯しましょ」

「十年ぶりの再会を祝って、乾杯」
 映璃と彰博が揃ってグラスを掲げる。おれはどうしても祝杯って気分になれなくて黙り込む。

「鈴宮。遠慮することはないよ。好きなだけ、食べて飲んで騒いでって」

「馬鹿が。おれはもう、高校生じゃねえんだぞ? 馬鹿騒ぎなんかするか」

 せっかく歓迎されているというのに、おれときたらこんなことしか言えない。かつてのおれはこんな性格じゃなかった。もっと垢抜けてたし、脳天気だったし、無鉄砲だった。

「じゃあ、僕らから始めることにしよう」

 おれがくさくさしていると、彰博は隣に座る映璃の腰に手を回し、濃厚なキスをした。まるでおれが映璃の唇を奪った腹いせであるかのように。

「おまえら、高校生の時からそんなキスしてたのかよ」

「エリーにこういうキスを教えたのは君だと思ってたけどな」

「はあ? なんでそうなる?!」
 何だか訳が分からなくなっていると、二人が笑った。
「あー、もう。どうでもいいや」

 頑なになっていたのが、それこそ馬鹿らしくなってくる。酒を口にしてからは酔いも回り、気分が良くなる。馬鹿騒ぎなんかしないと言ったのに、いつの間にか冗談を言ったり、声を上げて笑ったりしている自分がいた。胸を締め付けていた痛みや苦しみが次第次第に解けていく。

「おれは幸せになっちゃいけないんだ、そう思おうとしてきたんだよ」
 酔いのせいで本音が出る。二人が静かにうなずく。

「だって助けられなかったんだぜ? 死なせたんだぜ? 愛菜の人生を奪っちまったんだぜ? なのにおれが幸せになっていいわけがない。そうやって自分を戒めて十年間生きてきたんだよ。だけどお前はおれにいったな、幸せになっていいんだと。本当にそうなのか? おれはまだ、そうは思えないんだよ」

 彰博は何度もうなずいてから答える。
「生きている君の姿を見てありがたいと思う人がいる。僕やエリー、おそらく君のご両親もそうだと思う。ただ、生きてるならやっぱり、君には過去と決別して新しい人生を生きて欲しいとも思う。それは結局、君が君を救うことにも繋がるはずなんだ」

「過去をなかったことにして生きろって言うのか? それで後ろ指を指されることになっても? そんな人間にはなりたくない」

「君をそう評価する人間が周りにいるなら離れればいいし、おそらくその人の方からいなくなっていくだろう。……十年間、知らない土地で過ごす間、君のことをそんなふうにいった人がいたかな?」

「…………」

「おそらく君は独身男性として振る舞い、認知されていたはず。君の過去を知っていたのはほかでもない、君だけだったんだ。この意味が分かるかな?」

「おれを苦しめていたのはおれ自身……。そういうことか」

 ようやく彰博の言っていたことの意味が分かった。おれは愛菜が生きていたときの、過去の人間関係の中で生きていた。十年間も。

「新しい世界で、新しい自分として生きていっていい。そう言いたいのか?」

「君はもう、そうやって歩んできたよ。あとは君の気持ち次第」

「…………」

「君が心折れそうになっても、支えになるよ。少なくとも僕らは」

「そんな生き方をして、許されるんだろうか、おれは」

「あとは、君が君を許すだけだと、僕は思うよ」

「そうか……」

「ねえ、悠。明日、一緒に来ない? めぐに会ってよ」
 映璃が言った。

「めぐって、娘さんのことか?」

「うん。明日迎えに行くんだけど、もし時間があるなら」

 非正規の雇われ仕事よりも、映璃の誘いの方がよほど行く価値があるに違いなかった。

「ああ、そうだな。迷惑じゃなきゃ、行くよ」

「ほんと? 酔ってるからって、忘れないでね?」

「忘れてたらまた言ってくれ。大丈夫、必ず行く」

 片足のない女の子。彰博に話を聞いた瞬間から、会わなきゃいけないような気がしていた。彼女がきっと、おれの人生を変えてくれる、そんな気がしたから。

 二人の娘は聞いていた以上に明るい子だった。初めて会うおれに対して何の警戒心も持たずに寄ってきては、今にも抱きついてきそうな勢いで挨拶をしたのだった。

 前情報がなければきっと、足が片方ないことなんて気にもかけなかっただろう。だが、知ったあとでも彼女の屈託ない笑顔や振る舞いを見ているうち、障害があるかどうかは何の意味も成さないのだと気づかされる。むしろ、健常者であるはずのおれの方が病的な心を持っていて、周りに毒気をばらまいているように思え、いたたまれなかった。

 彰博たち夫婦が彼らの両親と会話をしている間、唐突に子どもと二人きりになった。気まずい空気を振り払おうと、何か話すことはないか考える。けれど、子どもと話すのは十年ぶりだからうまくいかない。結局、

「めぐちゃんは自分の足がないことで落ち込むことはない?」

 などと、健常者の目線でしか出てこない問いをしてしまった。しかし、訂正しようとするまもなく彼女は答える。

「あたしにはちゃんと足はあるよ! 偽物の足かもしれないけどちゃんと歩けるし、走れるし。……おじさんは、足があるのに元気ないね。どうして?」

「そうだな……。どうしてかな……」
 鋭い質問にしばし黙する。

「おれにも分からないんだ。……めぐちゃんはどうしてそんなに笑顔でいられるんだろう? おれにも笑顔でいる方法、教えてくれないかな」

「そんなのカンタン! 大好きな人に、ぎゅーってしてもらえばいいの!」
 そう言って彰博に駆け寄ると、足にしがみついた。

「パパー、抱っこ!」

「えっ? しょうがないなあ……」

 彰博は照れつつも娘を抱き上げ、ハグをした。顔の高さが同じになると、娘は嬉しそうに頬ずりをしはじめる。

「やれやれ。初対面の鈴宮がいるっていうのに、ずいぶんリラックスしてるみたい。人見知りはしない子だけど、こんなことは初めてだよ」

「だっておじさん、目が優しいからいい人って分かるの。それに、パパとママのお友達ならいい人に決まってるよ!」

 こんなおれの目を見て優しいといってくれる少女が愛おしい。自然と惹きつけられている自分がいた。

「なら、めぐちゃん。おれとも友達になってくれる? また、会いに来てもいいかな?」

「もちろん。いつでも遊びに来てよ。今度はおじさんの家にも行ってみたい」

「ああ、そうだな。それじゃ、そのうちに。……なあ。せっかく友達になったんだ。おじさんって呼び方はよして欲しいなあ。おれには悠斗って名前があるんだ」

「あ、ごめんなさい……」
 彼女はしゅんとしたが、すぐに「それじゃあ」と表情を明るくする。

「ゆーくんはどう? そして、あたしのことはめぐって呼んで」

「ゆーくん!! はは、こいつはいいや!」

 まさか八歳の子に「くん」付けで呼ばれるとは思ってもみなかった。

「オーケー、めぐ。それじゃ次の休みの日にまた遊ぼう。今度はめぐのうちに行くよ。お土産を持って」

「ほんとう? きっとだよ!」
 喜ぶめぐを抱く彰博も微笑んだ。

「よかった。あんなに塞いでいた鈴宮が、今はちゃんと未来に目を向けてる。それでいいんだ」

「そーだな。めぐのお陰でようやく本来のおれが戻ってきたって感じ? かわいい子に褒められたら、そりゃあいい気分にもなるし、また会いたくもなるってもんよ」

 子どもには未来を明るく照らす力が備わっていると切に感じた。悩んでいても始まらない、笑っていれば未来さえも明るくなるのだと教わった気がした。

「映璃。めぐに会わせてくれてありがとう。映璃の一言がなかったら、おれはこの先もずっと明日に希望を見いだせなかったと思う」

 帰りの車中で礼を言った。端で聞いているめぐは小首をかしげている。
 映璃はいう。

「少しでも悠の力になれて良かった。……今の悠の表情、いいよ。昨日よりずっといい」

 そう言われてバックミラーをのぞき込む。が、自分では違いが分からなかった。

 ただ、めぐと会うまではくすんでいた世界に明るい色がつき始めたのだけは分かった。確かに、明るい。いや、外の世界ははじめから変わっていないのだろう。きっとおれの見方が変わっただけ。

 ――あとは君の気持ち次第。

 夕べ、彰博の言った言葉がよみがえる。

「おれの世界はおれが作っているんだな……」
 ぽつりと言う。

「そう。君の世界は君が作っている」
 彰博が応じた。

 家まで送ってもらい、車を降りるとめぐが名残惜しそうに窓から顔を出した。

「きっと遊びに来てよね! 約束だよ!」

「おう。お土産、何がいい?」

「くらづくりの和菓子!」

「渋いチョイスだな。よし、必ず持って行くよ」

「やった!」
 めぐの微笑みを見て思わず口元が緩む。

「じゃあ、また。誘ってくれてサンキューな」
 何度も礼を言い、車が見えなくなるまでめぐに手を振り見送った。

 車が去り、通りに一人きりになる。それを待っていたかのように巨大な黒い手が現れる。おれを孤独の檻に閉じ込める、悪魔の手だ。

 (これに飲み込まれてはいけない……。)

 おれは慌てて家の中に飛び込み、父の姿を探した。

「お帰り」
 探すまでもなく、父は玄関で待っていた。父は再び「お帰り」といった。

「ただいま」

 互いの顔を見合う。
 父は安堵の表情。それを見ておれもほっとする。

「……おれはいるよ、ここに。ずっとかどうかは分からないけど」

「……昨日の、答えか?」
 おれはそれには返事をせず、靴を脱いで部屋に上がった。

「……今日はいい日だ」
 後ろから父の声が聞こえた。

 後編 へつづく

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