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スイスイさんの圧倒的な筆圧はどこから来るのか

一昨日公開された #あの夏に乾杯 のお手本作品、ぶっ飛んだ良さにびっくりして即2周読んだ。いまこれを書くために3周目と4周目を読んでる。プロのエッセイストが編集さんと組んで本気出すとこうなのか…

言語化して勉強するために、いいと思ったところを箇条書きで連ねる。

①目の前のこどもとテレビに二重写しになる「氷」という夏のモチーフから「命が削られる」への跳躍。心臓が痛くなる。

氷にとがれた刃をあてるように、命がうすく削られていく

②こころと頭のモヤモヤに、湿度の高い蒸し暑い夏の夜の空気が混ざり合う感覚を「透明な5000人ぐらいの軍団」と誇張。5000人の空間感をイメージするために視点が強制的にズームアウトする。

私のまわりを透明な5000人くらいの軍団がぎゅうぎゅうに囲んでいる。その、ムシムシと生温かい気配を振り払うように進んだ。

③お酒を一口飲むごとに感覚が鮮明に変わるところはスローモーション。ここから一気に加速する転換点。

一口飲むと、自分が閉じた。もう一口飲むと、世界が霞んだ。五口飲む頃には、世界と自分が断絶されていた。

④「マグマだ 竜巻だ 地震だ」から突然始まる中央揃えの詩。何かの歌詞かと思ったけどそうじゃないみたい。noteの限られた機能の中から「中央揃え」を唯一使って、見た目でシーンを転換する。

⑤「1000倍速」「ぐんぐん進む」「突然吹き出た」「地面を蹴るスピード」と重ねる疾走感

⑥その疾走感の中で、「わたしは、悲しかったのだ。」の一文が、世界を緊張MAXのまま静止させる。そしてそこから流れるように、スピッツの歌をきっかけに、号泣という解決。

その夜わたしは孤独だった。だけど怖くはなかった。自分とふたりきりだったのだ。

⑦子どもといる日常に戻っての、終幕。子どもという「自分を孤独にさせない」存在を置くことで、「孤独だった自分」を鮮やかに対比させる。

たまには夜、ひとりで飲んでみようかなあと思う。いまの自分とふたりきりで、もしくは、あの日の自分と乾杯するように。

***

こう連ねてみてあらためて、「ジェットコースターって言葉で書けるんだ」という感想を持った。五感を刺激しながらちょっとずつ加速する。視点をぶん回す。時間軸を圧縮したり引き伸ばしたりする。静止の瞬間をつくる。

点で真似したっててんでマネにならないけれど。読み手をどこに、どうやって連れ回すのかをデザインすることの中に、ディテールと構成の工夫は山ほど隠れているのだなと学んだ。

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