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平野啓一郎『本心』、読み終わりたくない小説がある幸せ

今週はずっと、平野啓一郎「本心」を読んでいた。

端的に言ってめちゃくちゃおすすめ。超いい。

ねえ誰か、わかりあえる人がいるだろうか。

死ぬほどいいからみんな読んでほしい。
と思ったけど、この小説を好きじゃないと言われると関係に亀裂を生じさせそうな勢いなので、すでに読んで好きだった人と語り合いたい。そんな小説。

ストーリーは上記サイトに譲りたい。

素晴らしいサイトだし、なんと3章までは無料で読める。
(そして私は本の要約がめちゃくちゃ苦手だ。)

平野啓一郎の文章は読んでいるだけでいい。
こんな作家、私にとって、特に現代作家では本当に貴重だ。

一行一行に機微が宿り、微塵のストレスなく没入できる。

主人公は生身の人間のように、
少し考えすぎて「思考をやめる」こともあれば、
衝動に駆られながらも、理性的にぐっと堪えて人間関係を守ることもできる。

彼は、「小説上、こうしたら盛り上がりそう」なふるまいを拒否する。

だからこそ、読者は身を委ねる一人称の彼に、全幅の信頼を置くことができる。

理知的で優しく、十分に思慮深い彼というアバターの中で、読者はゆっくりと思考ができる。
人が死ぬということ、安楽死の是非、そして生きるということ…


地の文の表現や比喩も、素晴らしいの一言に尽きる。

引用するとキリがないけれど、例えばこんなふうに。

用心していても、孤独は日々、体の方々に空いた隙間から、冷たく無音で浸透してきた。僕は慌てて、少し恥ずかしさを感じながら、誰にも覚られないように、その孔を手で塞いだ。

『本心』より

全体的に決して難解なわけではないのに、その場に相応しい単語を選び抜いた末に、あまり使われない言葉が出てくるのがまたいい。

知らなかった単語に出会う歓びは、私にとってとても大事なものだ。

60万部を超えた彼の著書、『マチネの終わりに』の帯には、こんな言葉があった。

最終ページを閉じるのが惜しい、至高の読書体験。

まったく同意する。
『本心』においてもこの言葉は裏切らない。


平野さんには本当に長生きしてもらいたい。
平野啓一郎の小説でしか摂取できない栄養があるから。

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