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プログレッシブハウス黎明期の教科書/Sasha & John Digweed - Renaissance: The Mix Collection [Renaissance]

Artist: Sasha & John Digweed
Title: Renaissance: The Mix Collection
Label: Renaissance
Genre: Progressive House, DJ Mix
Release: 1994
Format: 3×CD

00年代プログレッシブハウス最重要レーベルRenaissanceより大御所Sasha & John Digweedによる、プログレッシブハウス黎明期の貴重なDJ Mix。


プログレッシブハウスのプログレッシブとは、プログレッシブロックからの引用であることは間違いないだろう。90年代初頭にかけて台頭したこのジャンルは、飽和し始めたハウス、とりわけアシッドハウスからの脱却を発端としている。奇しくもプログレッシブロックとほぼ同じ流れにより、ハウスのサブジャンルとして、形を変えつつも今もなお残っているジャンルの一つである。

飽和状態にあったハウスに他のジャンルの要素を取り入れ、トランシー・トライバル・ブレークスなどを主軸にしながら、長尺や変調、転調を得意としたプログレッシブロックと同じように、長尺であったりブレークスを取り入れたりと、徐々に加熱し始め、00年代には主要なシーンの一つとして流行った。

00年代初頭には既にある程度の様式美ができあがり洗練されていたが、本Mixでは黎明期特有の未分化・未発達のカオス極まりない、幅広い解釈を楽しめる内容となっている。

中には今もなおプレイされたり、リバイバルされたりなどの王道なアンセムなども含まれていて、当時の音楽シーンを知る上では非常に貴重な資料であるとともに、シームレスかつ幅広いプログレッシブハウスのDJを堪能できる教科書的な内容でもある。

RenaissanceのDJ Mixシリーズは、そのジャンルを追いかけていれば必ず目にする当時のスーパースター的なDJの、もちろんその中には現役のDJも含まれる、DJ Mixを多数リリースしているため、当時の情勢を知るには最適な内容であり、再評価という視点で着目すればこれほど面白い内容もそうないだろう。

多ジャンルを取り入れて新たな形を得たプログレッシブハウスも00年代後期には、流行りのジャンルの終焉の指標である量産化・形骸化などにより徐々に勢いが衰える様はプログレッシブロックの終焉と奇しくも似ているものと思われる。そして、今はEDMの一つとして分類されるなど非常にユニークな残り方をしている。が、これについては異なる文脈を経由して再起しているようにも見受けられるため、個人的にはEDMの派生系としてはやや違和感を感じる。

また昨今のDTMの発達、デジタル配信のハードルが下がったことなど、相対的に作曲家が増え、登録するジャンルも自由に選択できることから、当時の主流であったスタイルとはもはやかけ離れているようにも思う。時代が変わるとともに、ソフトウェアやマスタリングの発達、それによって音の聞こえ方や作り方が変わることによるジャンルの捉え方や楽曲の構成や音数の変化、様々な要因を経て姿形が変わるプログレッシブハウス。

プログレッシブハウスというジャンルについて、どう捉えるかは当然その人個人の判断に委ねられるが、再評価・再考という点では決して外すことのできない作品がここにはある。

プログレッシブとは進歩という意味があるように、既にある土台をどう発達させるかが原点であるように思う。ただそうだから、ただの量産や形骸ではなく、進歩とは何なのかということに思慮を巡らせるのもまた一興。

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