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Pay it no mind ロンドン封鎖日記 #13

ロックダウン3ヶ月目のロンドンですが、今現在もコロナで毎日300人前後亡くなっています。そんな状況だもんで、ロックダウン解除の気配などまるで無し。規制緩和としては、一部小学校が条件付きで再開しましたが、界隈に大きな変化は見られません。

しかしまあ未だに信じられません。都市もビジネスもずっと眠ったまま。在宅ワークして、夕方ちょっと公園、買い物して帰る。その繰り返しで日々が過ぎていきます。とかくこの世の中は信じられない事ばかりです。4年前アメリカでトランプが大統領になった時も、イギリスの国民投票でブレグジットが決まった時も、信じられませんでした。心底驚いた。そんな冗談みたいな事、起こる訳ないじゃんと思ってました。でも起こった。そして今年のコロナ。今月のアメリカ。僕らが「世の中そういうものだ」と思っているものは、ほぼすべてそういうものじゃありません。僕らはみんな幻の中で生きている

アクティビスト全盛時代

ここんとこずっと差別と貧困の事について考えてます。これだけ毎日報道されてちゃ嫌でも入ってくる。

「Black lives matter!」「I can’t breath!」「No more hate crime!」「Justice for George!」はもうよくわかったけど、いい加減10日以上経ってまだフワッとしたエモいスローガンばっかりで誰一人具体的対策を唱える人が出てこないのは気味が悪いです。叫んでれば誰かがなんとかしてくれるのか。そろそろハートよりブレインを使うべき頃合。

なんつーか、個の時代、発信の時代、転じてアクティビスト全盛の暑苦しい時代の到来です。感情的な脊髄反射だらけで、やたら攻撃的で。炎上炎上また炎上。もうちょっとクールに思考して、粛々と計画遂行できないもんでしょうかねえ。とか言いつつ、「マイノリティの苦悩と解放」は僕自身のライフテーマでもあるので、まあ結局僕もそんなアクティビストの一部な訳ですが。

全ての物事は多面的で、一面に入れ込み過ぎると実態を見失います。自分の思いは思いとして一旦傍に置いておいて、全体像を俯瞰で見る必要があります。神の視点(厨二風)というやつです。

ジョージフロイドという人物

「無実の善良な黒人がアンフェアに殺された」事が今回の大きな流れの発端になっていますが、被害者のジョージフロイドには複数の前科があり服役もしていたようです。2004年あたりからコカイン所持や強盗で何度も逮捕されており、2014年まで数年間服役していました。テキサスでかなりラフな20代を生きていたと思われます。

出所後ミネアポリスに移って以降の逮捕は無いし、周囲の人間の信頼も厚いようなので更生したのだと思いますが、検死結果に薬物反応が出ているので、現在も薬物常習であった可能性もあります。今回通報された案件は「偽札使用の疑い」であり、駆けつけた警官の指示を聞かず車中に立て籠ったとも。

それはもしや通報者や警官の差別意識であったかもしれません。もしやジョージにも後ろめたい事があったのかもしれません。もしやその両方か、またはどちらも違うのか。もしジョージフロイドが警察内で既に注意人物に指定されてたとすれば、状況はだいぶ違って見えてきます。安易に聖人を担いだり生贄を吊し上げてイイキモチになるのもいいですが、ちゃんと実地調査は進んでるんでしょうか。偽札や薬物は発見されたんでしたっけ?

警察の腐敗

状況がどうであれ、調査対象を死においやるというのは警察側の過失です。警察には現場の状況次第で発砲、犯人を射殺できる強権が与えられていますが、今回の状況は該当しません。(件の動画には前後が無いのでわかりませんが)ジョージが強く抵抗したようにも見えません。

イギリスでもそうですが、アメリカでは比較的簡単に警察官になれます。国家資格などは不要で、外国人でも一定の試験と数週間のトレーニングで警察官になれてしまいます。僕の友人にもケータリング業から警察官に転職したイタリア人がいます。安定収入職のひとつという感覚です。そういう状況下で、各自の資質や思想を完全に把握する事は困難です。ショピン容疑者に関しても、前職のナイトクラブでは黒人イベントでトラブルを起こしているようです。

銃社会アメリカにおいて、警察官の職務というものは過酷で、特に犯罪率の高い貧困層のエリアでは撃たれるリスクと常に背中合わせです。映画などではモブ警察官がサラッと殺されがちですが、あながちフィクションとも言えず、年間30人前後の警官が射殺されています。一方で1000人の黒人、500人の白人が警察によって射殺されています。

とはいえ、毎日次から次に拡散される警察の横暴を捉えた動画を見るにつけ、やはり警察側の暴走や隠蔽体質も見てとれます。暴行の対象は黒人に限らず、自己防衛の必要性も無い状況での市民への暴力行為はかなりショッキングです。どんな組織内コンセンサスになってるんでしょうか。

こういった腐敗を正すにはどうすべきか。ロドニーキング暴動以降、警察官へのウェアラブルカメラとテーザーガンの装備が進んでいるようですが、ドライブレコーダーにストリートカメラ、一般人のモバイルカメラを総動員して監視の目を増強、徹底して裁くべきをきっちり裁いていくしか無い気がします。

報道のあり方

ネットとモバイルが普及浸透し、あらゆる人間が報道に参加できるようになった昨今も、報道メディアというのは依然絶大な拡散力を持つ、いわばフォロワー1億のスーパーインフルエンサーです。

BBCなどはあまり主観も入れず比較的フェアな報道をしている方だと思いますが、それでも編集を通る以上はフィルターがかかってしまいますし、やはりセンセーショナルなものから拡散されていくので、結果的にはどうしても煽る形になってしまいます。それが更なる脊髄反射アクティビストを生んでゆく。こうやって過去数百年、民衆を煽動し世の中の動向を左右してきたのがメディアです。

ただ今回の件に関しては、印象操作というよりは国民の鬱憤の発露の方が大きいように思えます。遅かれ早かれの事態だったというか。政治的な介入ができない程の火力があります。ここまで燃えてしまうと、こりゃもう落ち着くまで見守るしかない。

ちなみにメディアがジョージフロイドの前科について触れないのは、本案件に直接関係無いからだと思います。懲役を終えて社会復帰していた彼は、もう犯罪者ではなく一般市民なので、経歴から推定評価を下すのは差別にあたります(前科者はほぼ永久社会的抹殺刑になる日本とは若干スタンスが異なります)。

中世的衆愚と次世代プロテスター

コロナもお構いなしでデモに参加している大勢の人達。しかし全員が必ずしも一つの目的に集っているわけではありません。当事者や関係者、部外者入り乱れの集団です。

まず純粋に訴えを表明したいプロテスター。乗じて破壊活動を行うライオッター。火事場泥棒のルーター。ロックダウンで暇を持て余す熱血青春セカイ系ティーンズやストレス発散ヒーハーしたいパリピ、失職したフーリガンや興味本位の野次馬。騒ぎを煽動・利用しようとする利害団体の刺客。そういった有象無象で成り立ったカオス集団が互いを煽り合って事態を更に複雑にしていく。

僕はBLMに賛同しますが暑苦しいのはマジ無理です。メディアに煽られSNSに駆り立てられ、後先も考えず衝動に身を任せてる内に初期コンセプトもうやむやになって、ふと我に返って振り返って見ればペンペン草も残ってない。(挙句に翌週コロナ大爆発みたいな。) そういうのを衆愚とかいうんじゃなかったでしたっけ。そういう人達が好き勝手言いたい放題で収拾つかないから議会制というものが出来た訳ですが、個人発信時代はむしろ文明を中世に引き戻してしまったかのよう。気に入らないから法も倫理も無視して銅像壊していい、となったらルーターと何が違うんでしょうか。浅い正義に酔ったこいつら300年前だったら絶対「黒人やっちまえ」とか言ってたモブ側ですよ。

しかしその一方で、今回のプロテストではデジタルネイティブの若い世代がSNSを駆使して情報戦を展開しています。この世代は既に人種の壁を克服済みで、黒人白人ラテン系アジア系混合で共同戦線を張っています。これまでの黒人プロテストでは見られなかった新しい潮流です。次世代の希望となり得るのか。ていうかむしろ僕らのような前時代的老害が死に絶えれば、意外と彼らがアッサリ解決しちゃったりして。

アメリカ村

「みんなで仲良く暮らす」ため、ここで定番の思考実験「100人村」を試してみます。

人口100人のアメリカ村には12人の黒人が住んでいます。その内の10人は貧しく、高等教育も受けられません。殆どは善良な人達ですが、2〜3人のワルが頻繁に犯罪を犯すので、取締りも厳しくなっています。村人は彼らをいぶかしく思って村八分にします。

仲良く暮らすために互い不満の表明は重要ですが、常に怒って叫んでる人と仲良くなりたい人はあまりいないので、まずは冷静な対話が必要です。

ここで見える問題点は貧困・犯罪と差別・締め付けで、それは鶏か卵か的なスパイラル構造ではありますが、極論的にはそもそも犯罪が無ければ警察は不要(そしてその逆はない)な訳です。同じ社会で暮らす上で、双方とも最初に止めるべきは殺人・強盗・窃盗・暴力・器物破壊などの反社会的行為で、これはもう言い訳の余地無し、問答無用で禁止です。どんな理由があれ、自分の家族が傷付けられたりビジネス荒らされたりしたら、絶対友達になれません。特にマイノリティ側は全力の自浄努力が必要です。「いっそ12人をジェノサイドしてしまえば村は平和になるんじゃね」という最悪のシナリオがあり得るからです。そうならないよう村への貢献になる事をたくさんすべきです。

そして次に構造的問題。貧困と教育の包括的サポートが必要です。これは「持てる者」側が「村全体の利益として」行うべき事です。この確執が長引く程、村の損失が膨らんでいくからです。

これらがうまく回り始めれば、隣人・友人としての信頼関係が成立し始めます。「アライ(ally・同胞)」と言いますが、地道に仲間を増やして行く事が変革に繋がり、結果的に差別意識も薄れていきます。WinWinです。つまり「仲良く暮らすには個人レベルで友達になる」という、バカみたいにシンプルな結論なんですが、核心です。

普通ならトランプ村長が中心になってこういう事を進めていくはずなんですが、自分の支持層である保守派にベッタリ。こんな絵に描いたようなダメ村長、今日日ディズニーアニメにも出てきません。

Pay it no mind

ところで今月はプライド月間です。

1969年6月、ニューヨークのストーンウォールインというゲイクラブに警官隊が突入し暴行、それに対する反撃が暴動に発展しました。黒人公民権運動とも重なる時代、特に黒人のトランスジェンダーはマイノリティオブザマイノリティと呼ばれていて、一般社会だけでなく、黒人コミュニティからもゲイコミュニティからも差別される立場です。そんな中、マーシャ・P・ジョンソンというトランスジェンダーはストーンウォールで警官と戦い、その後レインボーフラッグを掲げてマーチングしました。それが今日のゲイプライドの由来となっています。

以降暴動もなく、平和的・具体的対策を続けてアライを増やして来ました。政治家、教師、医者、弁護士からアーティスト、ミュージシャンに至るまで、それぞれの分野のアライがそれぞれできる事をして、少しづつ社会を変革していきました。それは単に「友達を助けたい」というシンプルな行動原理に過ぎません。それを50年積み重ねた結果、セクシャルマイノリティの状況は大きく改善されてきています。

どんな袋小路だとしてもきっと出口はあるし、友達になれる。Pay it no mind(心配すんな)。今回の世界中のプロテストがついに長年の問題を突破できる方向に向かう事を祈ります。


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いつの世も、アーティストという職業はファンやパトロンのサポートがなければ食っていけない茨道〜✨