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コラム_2023年正月 エビと戦った話

あけましておめでとうございます☺
本年もよろしくお願いしますm(_ _)m

みなさんはこのお正月をどのように過ごされているでしょうか。
いさくまは年明けからエビと戦いました。

いさくま「バリッバリッ バキッ!ボキッ、ざっくざっく」
妻「うわぁ」
子「・・・(凝視)」

こんな感じです。
いさくまはおせちのエビを頭から、尻尾の先まですべて、(ちょっと半泣きで)食べたのです。


エビをよく観察してみてください。
鋭く尖った、ハサミのついた脚。剣山かというくらい尖った頭。断面が鋭利でカンタンに歯茎にささる皮。
人は、いったいどんな理由があるときに、この武器庫のような生きものを頭から尻尾まですべて食べるのでしょうか。

いさくまの場合は、友人の一言がきっかけでした。


さかのぼること、今から7年だか8年前(雑)。
当時大学院生だったいさくまは、先輩の家にお邪魔してカニ鍋パーティーに参加していました。同級生のFくんが、漁師をされているご実家から大量の毛ガニを送ってもらったというので、いさくま達はそのおすそ分けをいただいたのです。この毛ガニの美味しいこと美味しいこと。Fくんもにこにこ笑っていて、幸せな時間でした。

Fくんのご実家からの荷物には、毛ガニだけでなくエビの姿も。カニと一緒にお鍋で茹でて、味わっていただきました。旨みたっぷりで、舌の上でホロホロとほどけていくエビ。毛ガニに負けない美味しさでした。なんだろなこのエビ。南蛮エビかな。うまいなぁ。。

その時です。
いさくまとエビとの関係性を変える一言が響いたのは。
Fくんは、変わらずにこにこしながら言いました。

「あれっ、いさくまくんはエビのしっぽ食べないんだ?」


・・・・。

・・・・。

・・・・。

・・・・は、はい?

食べない??

あ、いや、食べる選択肢があると?? エビのしっぽを???

その刹那、いさくまはエビのしっぽを食べるという光景をまったく想像できなかったので、Fくんが何を言っているのかをとっさに理解できませんでした。彼が言うには、エビのしっぽを食べるのは、彼の家では普通なのだそうです。そうか。食べるのか。彼の家では。あの硬いエビのしっぽを。

「うちは漁師の家だったからさ~」
相変わらずにこにこしながら、エビをしっぽまで食べるFくん。

・・・この状況に身を置いたとき、この瞬間を人生の岐路であると捉える人は少ないでしょう。
「Fくんはしっぽまで食べるんだね」と。
うちはうち、よそはよそと。
相変わらずエビのしっぽを残し続ける人生も、それはそれで幸せでしょう。うっかり歯の間にエビの硬い殻が入り込んで、グサッと痛い目に遭うこともない。ぷりぷりでほろほろの、旨味じゅわ~の、エビの良い部分でぬくぬくやる人生。素晴らしいに違いありません。

残念ながら、まったくめんどうくさいことに、いさくまはそう発想できなかったのでした。

いさくまは厳しめにしつけられて育ちました。
お茶碗にご飯粒を残すことなどありえない。手羽元だって、軟骨まで残さず食べて、つるつるてんの骨だけを残します。
しかし、しかしエビのしっぽは、両親が食べ残してきたのでいさくまも習って残してきたのです。

そんな風に育てられた人間が、寿司で、フライで、おせちで、残してきたあの、あの「エビのしっぽ」を「食べる」という選択肢を叩きつけられた今、もう人生を変えるしかないのでした。
幸せな時間はもはや遥か彼方。毛ガニの味は忘れました。

「(出来らあっ!)」

いさくまは心のなかで叫びました。
もしこの話がドキュメンタリー番組になるなら、どうかこのタイミングで平原綾香の「スマイルスマイル」をBGMに流してほしい。

いさくまは、エビのしっぽを食べる人生という大海原に、頭上高く振り上げたオールを深々と突き刺したのです。
水面から跳ね上がる、冷たく染みる海水。しっぽが歯の間に刺さったのです。涙をぐっとこらえて手を口内へ突っ込み、丁寧に取り除きます。

3尾ほどいただいたところで、ある事実に気が付きました。エビのしっぽを安全に食べるには、歯を上手に使えばよいのです。しっぽを口の深淵、奥歯の上に鎮座させ、木の実を圧搾して油をしぼり出すようにゆっくりと、しかし口内で最大の圧力をかけていく。

じゅわ。


思わずハッと目を見開きました。旨味のある出汁がしみ出てきたのです。思わず先輩と話をしているFくんをバッと見ました。にこにこしています。
そら、こんなうまいもん味わい続けてたら、ずっとにこにこするわ―――――。

ならば。
もし、そうならば。
しっぽがこんなに美味いならば、同じく残してきた「脚」「頭」。これらも旨いのではないか―――――。
自分の手元の皿を見やると、まだエビが載っていました。


あれから、7年か8年(雑)。

いさくまはすっかり、魚介類の硬い部分をできるだけ残さないようになりました。

いさくま「バリッバリッ バキッ!ボキッ、ざっくざっく」
妻「うわぁ」
子「・・・(凝視)」

鮭、ホッケは骨まで。
そして、エビは頭、脚、尻尾まで。

今日も、食卓の殻入れの皿は、からっぽのままです。

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