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風呂場はファンタジー

「どんな曲聴くの?」と訊かれるのはあまり好きではない質問の一つです。それを答えるものなら人間性や価値観を勝手に相手に決められてしまいそうな気もしてくるんです。
 そもそも僕はあまり曲は聴かなくて。あれば食べるじゃないですけど。流れていれば聴くような。出不精型の耳をしています。
 それでも音楽は嫌いではないですし。むしろ好きだと思います。
 イルカとかオフコースとか。そういう優しめのやつでしたらいいんですけど。ドラムの音がガシャガシャするようなのはどうも苦手で。何度も奇声をあげるようなやつも。やかましいとしんどくなるんですよね。

 最近だとマカロニえんぴつの「そんなんじゃなくて」みたいな歌のやつが好きです。題名はわかりませんが。
 それから、歌い出しが「最後の夜になりそうな気がして」のやつ。これもマカロニえんぴつです。これらは聴きます。
 ただ聴くといっても妻に「あれかけてくれん?」とお願いできるときだけですが。基本、妻は曲を聴きながら家事をするので。
「ねえねえ、次あれかけてくれん?」
 妻もマカロニえんぴつは好きなアーティストのようなので。得意げに流してくれます。
「あれかけてくれん?」で妻に伝わるくらいはマカロニえんぴつは聴いています。

 昔からかもしれませんが。同じ曲を飽きるまで聴く習性が僕にはあるような気がします。早く飽きるために聴いているような気にもなってきます。
 誰だったか「同じ曲をずっと聴くのは鬱の傾向みたいですよ」と言ってきましたけど。そしたらヨドバシカメラで働いている人はどうなるんですかね。ヤマダ電機とか。ビックカメラもそうですけど。みんな鬱ですよ、その定義だと。

「そんなにその曲好きならiTunesとかで買えばよくない?」と言われてしまいそうですが。わかります。そうしたほうがいいのは。ポチる時に150円とかですかね、かかるの。200円とか? 馬鹿みたいに次々と買っていた時期もありましたが。でも、あれじゃないですか? YouTubeで聴けちゃうじゃないですか? 0円で。CM見ないと聴けない曲ばかりですけど。まあ、それでも聴けるじゃないですか? 我慢したら。そのCMも1000円くらい課金したら見なくてもよくなるサービスがあるみたいですけど。Z世代の後輩から聞いたことがあります。でも、毎月1000円ということは年間12000円ですよね? 12000円はそれはちょっとです。あれ? 僕だけ? せめて年間6980円でしょ? それでも僕は歯軋りしちゃいますけどね。

 妻はサクサクとiTunesか何かで気に入った曲をぽっこらぽっこら買っています。
 僕はCD世代ですからね(妻もそうですけど)。同じ屋根の下、同じ曲をそれぞれ2人がポチるなんて。なんだか勿体無い気がしてきます。これも僕だけですかね? ケチなのかな。まあ、ケチなんでしょうね。ごめんなさい。先にもう1回謝っておきます。若い女子にZ型の石を投げられそうなので。僕は割引券も余裕で使いますし、それがないなら木の葉をめくるように探してみます。ポイ活だってコツコツやっています。楽天、dポイント、未来屋書店、他にも色々。ダメですか? ケチですか? きしょいですか? ごめんなさい。
 でも待ってください。「金ねーのかよ!」は早計だと思うんです(ないですけど)。もしかしたらメジャーリーガーとかもポイ活してるかもしれないじゃないですか? あのベッカムだって。マイケルジョーダンだって。僕の知ってる億万長者はしっかりやっていましたよ、信号待ちで。ウォーキングしたらTポイント貰えるやつとか。

(咳払い)

 まあまあ、さてさて、ですが。
 無意識に口ずさむ曲ってありませんか? 例えば、お風呂に入っている時とか。無意識に歌い出す曲です。
 僕は、車で埼玉方面に向かって井荻トンネルに入るとTEEの『ベイビー・アイラブユー』が頭に流れるんです。トンネルに入るまでの下り坂で。必ずと言っていい程。
 頭に浮かぶので歌います。暇ですし。無音もなんですし。それにトンネルは孤独です。孤独には歌です。あんまり曲を聴かない僕が歌を語るのはどうかとは思いますが。

 例えば、お風呂に入ると何故かLes Misérablesの『民衆の歌』が流れます。Les Misérablesって英語でさらりと書いちゃっていますが、iPhoneが勝手に変換してくれたので書けただけです。レミゼラブルとカタカナで書き直しておきますね。賢い人間だと思われたらいけないので。
 Les Misérablesのeの上のちょんっていうやつ、意味わかっていないですから。たぶん死ぬまでちょんっも書かないですし、ちょんっの意味もわからずに人生終える自信があります。
 折角なので、ちょっと予想してみますかね。もちろんLes Misérablesのeの上のちょんっの意味ですよ。
 あれですかね? ちょっと強めに言う文字なんですかね? アクセントみたいな。これ当たってたら寒いやつですね。知っとったんじゃろうがいやタイプのやつになるので。この話はやめときましょうか。ちょんっはそのまま生かしておきましょう。

 すいません、話が脱線しっぱなしで。
えっと、なんでしたっけ? あ、そうだ、お風呂の中だと『民衆の歌』が頭に浮かぶんです、って話でしたね。
 僕は歌手でもミュージカル俳優でもないのに『民衆の歌』を歌うときに限っては役になり切ろうとしちゃいます。役っていっても役名とかはわかりません。たぶんエドワードとかジェームスとかですかね。違うと思いますが。マッシェル? ヘンリー? エドガー? まあ、名前は何でもいいんですよ。その時代の若者になり切れれば(時代って書いてますけど何時代かも知りませんが。パンを盗んだことで人生かけて追いかけられてるくらいですから。原始時代〜ローマ時代の間とかですかね。すいません、教養がないので)。
 サビに入るときにはもうゴミとか鉄屑で作ったバリケードが見えちゃってるくらい奮起して歌っています。若者たちは何に対して歯向かっているのかはわかりませんが。とりあえず大人とか社会とか? そういうことはわかります。僕も尾崎豊を聴いていた時代があったので。なんなら尾崎豊も召喚しちゃいますよ。バリケードの最前線に。時代とか世界観は無視して。
 尾崎さんは向こう側に向かってシャウトしているんですが。僕は隣で口パクです。あんまりうるさくしたくないので。口パクで戦う僕に気づいた彼は白い歯を見せるんです。
「お前、面白いな」
 彼はそう言って僕の肩を何度も叩きます。ガシガシと。
 僕も彼に「あなたもね」と口パクで言います。
 それからお互いのGパンのメーカー名の部分を見せ合ってどこで買ったか当てるゲームをするんです。何円だったかとか。もちろんそのゲームの解答でも僕は口パクです。出不精ですからね。
 Gパン? 尾崎? 円? まあまあ、いいんですよ。お風呂の中はファンタジーですから。
 兎に角、自由に歌う。自由に妄想する。好き勝手やっても無料です。水道代とガス代はかかりますが。
 毎日『民衆の歌』を歌いすぎて一緒にお風呂に入っている小さい娘たちも覚えてしまいました。小さな娘たちも一緒に歌っています。
 うち、マンションなんですけどね。聞こえてるんじゃないですかね。近隣の部屋に。換気口から。戦う者の歌が。

 そうそう、風呂場ではもう一曲あるんですよ。題名は『あなた』だったと思うんですけど。松田聖子バージョンが頭で流れるんです。これもまた僕が歌うものですから。小さい娘たちもしっかり覚えて斉唱してきます。
 最後の最後のサビで盛り上がるときの「あなた あなた あなたがいてほしい」のときはもう我が我が前に前にでそれぞれの声量が爆発します。
 歌い終わった後はなんだかひと泳ぎしたような。疲労感と家族の一体感を感じることができます。
 やっぱり切ない曲って疲れませんか? 本気で歌うと。本気で歌わないなら歌わないほうがいいジャンルですから。まあこれは僕の価値観ですけど。
 こんなこと書くと「適当に歌ってもいい曲があるわけ?」とか誰かに詰められると暴食(ウィンナーと白ごはん)に走るのでここには書きませんが。

 あ、妻が呼んでいます。
 伊勢丹で200円引きだったから買った坦々麺がそろそろできあがるみたいなので。そろそろ〆ましょう。
 次回は心に響いた名台詞というものを題材に書きますね。
 とりあえず、映画『パッチギ!』の「どんな理由があろうとな、歌ったらあかん歌なんかあるわけないんだ!」は書きます。歌手の……ハウンド・ドッグの人(名前なんだったけな……)がシャウトした台詞だから余計に輪郭と重みのある台詞になっちゃったのかな。あの台詞は心にドスンときました。今でも時々思い出しますし。
 小さい子供と生活している人はわかると思いますが。なにか歌を歌ったら子供に怒られることがあるんですよ。
「うたわないで!」
「わたしがうたおうとおもってたのに!」とか。怒るならまだしも泣かれることもありますからね。ジタバタしながら。
 いやいや、そこまでか? 君が作った曲ならまだしも、何様? 何憲法? ですよ。そんなときは必ずと言っていい程、大友康平(そうだ! 大友康平だよ!)の「どんな理由があろうとな、歌ったらあかん歌なんかあるわけないんだ!」って叫びたくなります。世界の中心で、は大袈裟ですが。リビングの中心で。

 まあ、次回はそんな感じで。名台詞について話ましょうか。

 そしたらまた。坦々麺、食べてきますね。「のびるよ!」とか向こうでうるさいので。

 良い週末を。

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