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雑文(03)「中学生の宇宙」

 小学生の時から宇宙に興味があったので、宇宙学が学べる本学に入学しました、と、さわやかに笑って、ことし受験して合格した、生徒代表が取材記者の男に笑窪を作って、輝かしい未来の自分像を語って、彼の将来性ある姿はマスメディアで大々的に放映され、お茶の間で視聴した団塊世代の引退世代を乾いた拍手と共に感嘆させた。
 全国初の全寮制公立中高一貫男子校は、宇宙学に精通した、優秀な宇宙飛行士、あるいは宇宙機関の職員を育成する目的に巨額の資金を投じて開校した。
 がしかし、26年度の春より本学は共学化、同校の卒業生、保護者たち方針撤回の要請に応じず県知事はくだんの方針を表明した。
 冒頭で取材を受けた、輝かしい未来を語った、入試試験で受験者の中で特に優秀な成績を収めた生徒代表の彼だが、まだ見ぬ宇宙の神秘を瞳のその奥に湛えた彼だったが、共学後、薄暗い室内で電気を点けず、額に滲んだ汗が顔面に垂れても拭かず喉が渇いても水分補給せずただ彼は、凝視する先の先を見つめて、こう叫ぶのだ。
「これが、ぼくの探し求めていた、宇宙だ」と、声変わりして間もない声を響かせ、この間打ち上げた、空中で爆発した民間ロケット爆破の中継映像をくり返し回想し、いまはただ、目鼻の先にある、「ぼくの発見した宇宙」に、感嘆の叫び声を上げる他なかった。

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