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「楽して稼いだ」お金は何に使われる?

闇バイトに端を発した広域強盗事件。数年前のいわゆるオレオレ詐欺組織をベースとし、反社会勢力や半グレ集団が組織的に運用をしているという。その組織の末端として闇バイトという「稼げるバイト」がインスタ、Twitterなどで斡旋されている。闇バイトに応募してしまうのは若者であり、特に強盗への関与が進む以前、オレオレ詐欺の受け子・出し子は特に犯罪へ加担しているという意識が薄く、文字通り「稼げるバイト」として認識されていたというのだから笑うしかない。

楽して稼げるなら誰だって稼ぎたい。何もしないで生活できるのはいつの時代でも人間が夢見る事である。私たち主夫にもいろいろあり、私のように限界自営業で毎日楽して稼ぎたい…と腱鞘炎寸前の腕で泣きながらチラシを折っている人間や、早く帰りたい…と限界JTCでお茶くみや無駄なパワポをし続けるパートタイマーも多いはずだ。なぜ最低賃金を上げたのに130万の壁を撤廃しないのか理解に苦しむ。

もっとも、私のようなゆとり世代はこれでも最低賃金が大幅に上がったことを知っている。私たちがアルバイトを始めた2006年のマクドナルドではマックチキンとポテトSのセットが250円で食べられる代わりに大阪府の最低賃金は650円だった。デフレは嫌だと世間が叫び続けるほどの底辺がそこにはあり、その3年後にはリーマンショックが直撃する。バブル崩壊の2番底ともいえる甚大なデフレや経済崩壊をかいくぐった私たちのメンタリティにはもはやコスパとかタイパとか言っている精神的な余裕はないのだ。とにかく最低賃金でも稼ぐ。これが青春をデフレに捧げた悲しきメソッドなのである。

とかく平凡なゆとり世代には選択肢が無かった。ゆとり世代という言葉だけが実態無く独り歩きし、何も考えない世代として揶揄され続けた。ゆとりという自由な時間で、選択肢が与えられた最初の世代と言われた。しかしてその実態は、「この扉を開けますか?」に対して「はい」以外の選択肢が無かった、同意のうえでボタンを押すことを強いられてきた世代だ。特に世紀末平成は昭和のエピローグであり、自由化の名のもとに敷かれた新たな路線が存在する事を飲み込む必要があったことは、当時の自由化の波にさらされたサラリーマンの先輩諸兄皆々様方も同様であろう。

そういう意味で、私は兼ねてから平成生まれというくくりは誤りだと指摘してきた。私のような平成初頭生まれは昭和の残滓として生み出された。それが2000年以降生まれになるとがらりと様相を変えてくる。世代のくくりとして、Z世代はとても真っ当である。

話を戻そう。冒頭で記した稼げるバイト、というのはコスパやタイパでは語ることの出来ない純然な犯罪行為であるわけだが、それを度外視してまで金銭を得る行為に執着するのはなぜか。これはつまり何かに高額な金が必要になっているということである。歴史において強盗とは権威付けの組織的な略奪、もしくは金に困った個人のの犯行であり、闇バイトは明らかに後者である。組織に組み込まれてはいるが忠誠心を伴ったいないという意味で「バイト」であるのは間違いない。これが心理的なハードルを下げているのだろう。

そうして簡単に得た金は何に使われるのだろうか?

結論から言えば、簡単に得られた金は多くの場合「飲む、打つ、買う」もしくは借金の返済に充てられる。世の中の借金の返済はこの飲む、打つ、買うから発生したものがほとんどであり、そういう意味では金の行きつく先は3拍子に収斂していく。これは闇バイトを請け負う若い世代にとっても同様である。驚くべきことであるが、ロスジェネやゆとりが「コスパの悪いもの」として扱ってきた飲む、打つ、買うが復権しつつあるのだ。

結局世の中は酒、暴力、SEXを制したものが天下を取る。ゆとり教育でみんな手を繋いで世界平和!とゆっくり解説のごとくぬるま湯に洗脳された我々ゆとり世代は酒、暴力、SEXに見向きもしないが、Z世代は違う。彼らは脱ゆとりの名のもとに進められた雑でハイスピードな詰め込み教育の中を行き、やる気のない教師が跋扈する学校に疲弊し、親ガチャに苦しみ、ルッキズムに苦しみ、思い出を奪ったコロナ禍と大人の体たらくに苦しみ、今にも盗んだバイクで走りだしたい衝動を抱えている。なお3ない運動の結果バイクはその辺に止まっていない。その衝動の発散方法は何か?他人を見下し、マウントを取り、一つでも多くのハイブラ、宝飾品を身につける事だ。Twitter、インスタ、TikTokには同じような動機で”多くのもの”を手に入れたインフルエンサーが溢れている。コロナ禍ですることなくSNSにどっぷり浸かったZ世代たちはインフルエンサーの栄光をうらやみ、学校の憂さを金の力で晴らす。その為には金が要ることを知らずに、18歳でローンを組むのだ。国はお金の教育を進めるというが、金を増やす方法と並行して楽して稼ぐ方法など存在しない事や労働の尊さを説いた方が良いのではないか。

なお、飲むのは酒に限らず薬の場合もある。市販薬によるオーバードーズはあろうことかヒットソングにもなっているほどだ。打つには賭博ならオンラインカジノ、そうでないなら転売できそうなポケモンカードなども当てはまる。買うは依然として異性である。半グレになり切れない不良青年がパパ活女子に仕立て金として納入したり、地雷系女がホストやメン地下に注ぎ込むための資金となる。これが令和における飲む、打つ、買うである。これらは世紀末もかくやという金の使い方だ。これらは借金と密接につながっており、カジノやホストなどで複合的に破産し借金を背負い、誰にも相談できず首が回らなくなった彼らはついに闇バイトに手を染めてしまう。特に半グレは金を借りたこと自体を担保にしてくるため一度はまると抜け出しにくい。これは世紀末に同様の事例で問題となった消費者金融が規制されたため地下に潜った結果といってもいいだろう。
余談だが先日ポケモンカードのエーフィのカードに26000の値札が付いていて笑ってしまった。買う側も売る側もどうかしている。


Z世代はコスパよりタイパ、時間を金で買う、という意識から「なるべくいいものが欲しい」というコスパとの相克がそこにはある。彼らがあれも欲しい、これも欲しい、もっと欲しい、もっともっと欲しいと考えてしまうのは親世代であるロスジェネのコスパ意識に対するカウンターでもある。簡単に金を稼ぎたい彼らは「できれば全部ほしい」と思っている。これは昭和的な(バブル的な)物質主義への回帰とも考えられる。時代は巡るが、「全部ほしい」と考えている彼らがなぜか欲しくないものがある。「子ども」や「家族」だ。

「全部ほしい」であれば「家、家庭、子ども」というのが当然入ってくるものだと思われるが彼らにはそれがない。これまで、少子化の原因は低賃金化、雇用の不安定化、それに晩婚化、女性の高学歴化や社会進出が問題だとされてきた。それがすべて吹っ飛ぶデータである。母数が500人なので偏りはあると思われるが(1000人は拾ってほしかった)、「調査結果からは金銭面以外の手厚い支援が必要とみられます」という結びの一文に笑ってしまった。

彼らは自分の物語が永遠に続くと信じているのだ。

TikTokに代表されるリール動画(ショート動画)はこの6年で世界のティーンのハイブラ主義を加速し補強している。物事の比較推論が出来ないティーンにとって、映像で簡単に他者と比較されてしまうリール動画の存在は気の毒である。あの人は自分よりいいものを持っている、と思い込み自分のフェイバリットを信じる事が出来ないティーンは多い。そうしてブレにブレた生き方には金がいくらあっても足りないはずだ。井の中の蛙大海を知るが、大海ではなく井戸こそ我が道だと知るのに必要なのは狭い狭い世間である。自分自身の器の大きさを定める時期にSNSはあまりに広すぎるだろう。

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