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「クライアントの変革リソースが増える」ということ

今回は、コンサルタントの支援のあり方について、「クライアントの変革リソースが増える」という視点から考えてみたいと思います。

ここでは、変革リソースのことを、クライアントが目の前の新たな現実に対処する際に活用できる視点、知識、考え方などであるとします。

あらためて、支援とは何か?

エドガー・シャインさんの『謙虚なコンサルティング』(英治出版)という本のなかで、監訳者の金井壽宏さんが、シャインさんの言う「本当の支援」の意味するところを簡潔にまとめています。

コンサルタントの手助けによって、クライアントが、
1. 問題の複雑さと厄介さを理解し、
2. その場しのぎの対応や反射的な行動をやめて、
3. 本当の現実に対処すること
が、本当の支援なのである。
「監訳者による序文」『謙虚なコンサルティング—クライアントにとって「本当の支援」とは何か—』(英治出版)

表面的には当たり前のことが書いてあるのですが、いざ実践するとなると一筋縄ではいきません。

特にポイントとなるのは、一つ目のステップである「(クライアントが、)問題の複雑さと厄介さを理解」するという部分だと思います。当然ながら、このステップをクリアすることができないと、「その場しのぎの対応や反射的な行動」をやめることも、「本当の現実に対処」することもないからです。

支援の成否を決めるのは、この一つ目のステップであると言ってもいいかもしれません。どうしたら良いのでしょうか?

問題の捉え方をこそ、問い直す

私たちは、日々直面している現実のなかで、日々身を置いている環境のなかで、自分自身の物事の捉え方を形成していきます。そして、身に付けた物事の捉え方を通して、世界を観察し、思考し、判断を下します。

問題が起きている状況では、基本的には誰しもが問題を解決しようとします(問題を放置しておくということも、解決策の一つだと言えます)。その際に、私たちは身に付けた物事の捉え方を通して、問題を観察し、思考し、解決策を導こうとします。結果、うまく解決されることもあれば、解決されない、もしくは、悪化してしまうことさえあります。

うまく問題が解決されなかった場合、私たちの多くは、つい、「(正しく定義された)問題に対して、有効な解決策を導くことができなかった」と考えてしまうことが多いのではないでしょうか。「問題の捉え方は適切だったのだろうか?」「問題は正しく定義されていたのだろうか?」と考えることは意外と少ないように思われます。

そのような時にこそ、問題の捉え方を再考してみる必要があると言えます。言い換えれば、問題への接近の仕方を変えないと、本当の「問題の複雑さと厄介さを理解」することができず、的外れな問題解決に終始してしまうことになります。

このように、私たちが身に付けた物事の捉え方は、円滑に日常生活を送ることを助けてくれる一方、世界に対する見方を固定させてしまい、現実を適切に捉えることを妨げてしまうという負の側面があります。

支援者は、異なる物事の捉え方を提示し、それを検討することを通じて、クライアントとともに上述の一つ目のステップに対処することができる存在だと言えます。クライアントはどのように問題を捉えているのか?、目の前の状況においてクライアントの捉え方は妥当なのか?、より良い捉え方は他にあるのか?、こうした問いを常に持っておきたいものです。

あるプロジェクトの事例

具体例をお話しします。ある組織で組織設計のお手伝いをしたプロジェクトでの事例です。

プロジェクトが進み、組織のデザインが固まるにつれて、組織設計という手段では解決することができそうにない組織内のある部署を中心とした人間関係の課題が浮かび上がってきました。その部署では、業務プロセスや手順の分析を中心とした別のプロジェクトも並行して進められていました。同じように、そちらのプロジェクトにおいても、人間関係に関わる課題が抽出されました。

ただ、私からはクライアントが、人間関係にまつわる人の思いや感情が絡み合う複雑な課題を、組織の構造やプロセスや仕組みといった技術的な手段で解決しようとしているように見えました。

そこで、宇田川元一さんの『他者と働く』(ニューズピックス)という本を紹介するとともに、そのなかで解説される「適応課題」と「技術的問題」の違いについてお伝えしました。それ以降、クライアントの組織のなかで、「適応課題」と「技術的問題」という言葉と、そうした考え方に基づいて対処しようとする動きが広がりつつあります。

もちろん、これはクライアントが腹を括って「適応課題」に向き合う一歩になっただけに過ぎません。「適応課題」への取り組みは、スタートしたばかりです。また、他のクライアントにおいて同じ働きかけが有効かどうかは分かりません。

ただ、この事例は、外部の支援者が提供できる基本的な価値の一つを示してくれていると考えることもできます。

  • 「クライアントの変革リソースが増える」ための、ちょっとした働きかけによってクライアントの現実の捉え方が変わり、

  • 新たな現実の捉え方を用いて「問題の複雑さと厄介さを理解」することになり、

  • クライアント自身の手で新たな現実が生み出されつつある

という、「本当の現実に対処」するための、小さいけれども確実な動きのきっかけとなったからです。


今日は、シャインさんの示す「本当の支援」について考えることを出発点に、「クライアントの変革リソースが増える」という形での支援のあり方と価値について考えてみました。

最後までお読みいただき、どうもありがとうございます。

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