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オールの小部屋から⑭ 編集者って何?

 こんばんは。気がつけばもう冬ですね。
 ちょうどオール讀物12月号が発売されたばかりです。
 東野圭吾さんのガリレオ新作「重命(かさな)る」や、髙見澤俊彦さんの「神様の話をしよう」夢枕獏×澤田瞳子×蝉谷めぐ実×武川佑さんら4氏による大座談会「『陰陽師』が好きすぎる!」が早くも話題を呼び、大きな反響をいただいています。買ってくださったみなさん、どうもありがとうございます!(まだの方は上記リンクからチェックしてください!)
 勢いにのって12月号の宣伝をどんどんしたいところですが、つい先週、すぐ近所にある千代田区立麹町中学校の1年生8人が、文藝春秋に会社見学に来てくれたので、今日はそのお話を。
 中1のみなさんが生徒だけで近隣の企業や団体、大学などを訪問するのは麹町中オリジナルの「ミライ探求フィールドワーク」という授業の一環。「大人たちがどんなふうに働いているか」を見にいく(ついでに仕事内容を調べたり体験してレポートを書いたりする)のだそうです。
 私は、麹町中の先代校長だった工藤勇一先生に誘われて、この「ミライ探求フィールドワーク」に協力するようになりました。

千代田区立麹町中学校(©文藝春秋)

 みなさん、工藤勇一先生のことはご存じですか。2014年、麹町中に校長として赴任するやいなや、公立中なのに「宿題廃止」「定期テスト廃止」「クラス担任も要らない」「学校行事は生徒たちで運営」と、矢継ぎ早に大胆な改革を敢行して話題を呼んだ方です。
 2019年、「文藝春秋」編集部にいた私は、雑誌の企画で工藤校長の取材に赴いたのですが、取材後、1年生むけの授業「ミライ探求フィールドワーク」の話題になったんですね。先生いわく、
「学校なんて行きたくなければ行かなくてかまわない」
「学校は〝手段〟であって〝目的〟ではない。目的は大人になることでしょ? 将来やりたいことがしっかりあるなら学校は二の次でいい」
 そういう意識を涵養するため、入学後、早いうちに会社見学をさせたい。
「だから文春さんも、うちの子どもたちに〝大人って楽しそう〟〝仕事って面白そう〟〝世の中まんざらでもなさそう〟というところを見せてやってください。〝俺たち毎日楽しいぜ〟って思いきり自慢してやってください」
 こう工藤先生に誘われたんです。
 すっかり工藤ファンになった私は、一も二もなく生徒さんの見学を引き受け、以来、毎年、麹町中の1年生が会社に来てくれるようになりました。

工藤勇一氏。現在は横浜創英中学・高等学校の校長先生(©文藝春秋)

 さて、ようやく本題。せっかくフレッシュな中1のみなさんが来社してくれるので、我が社も精鋭メンバーを揃えて待ち受けます。そのひとりに「CREA」編集部のデスクSさんがいます。Sさんはいつもすごく印象深い話をしてくれるんです。
 つい先週も、中学生から「編集者ってどんな仕事?」と尋ねられ、「オーケストラの指揮者みたいなもの」と言うんですよね。ここまではよくある答えかもしれない。ここからがすごいんです。
「ひとつひとつの楽器は演奏できなくていい。美しい音楽が何かをわかっていればいい」
 何だかすてきな答えだと思いませんか。翻訳するならば、
「編集者には、作家や画家、デザイナーやカメラマンのような専門技術は要らない。このページをこうしたい、というコンセプトをしっかり持っていればいい」(逆に言えば、多くの専門家の力を借りなければ、編集者は何もできない、ということでもあります)
 ……こうことかなと思いました。
 また、Sさんは昨年、中学生から「雑誌をつくっていてトラブルが起きたらどうするんですか」と聞かれて、
「トラブルはしょっちゅう起きますね……」
 と、しばし考えこんでしまいます。そして真剣な顔になって、
「編集者は、自分の担当する企画について、他の誰よりも深く、徹底的に考え抜いていなくてはいけない。徹底的に考え抜いてさえいえば、どんなトラブルが起きても、どうすればよいか判断できるものです」
 こう答えてくれました。
 中学1年生には難しい回答だったかもしれません。でも、横で聞いていた私は、その真摯な口調に、雷に打ち抜かれたような衝撃を覚えました。「自分はいま抱えている企画の一つ一つを、そこまでしっかり考えているだろうか」と、反省もしました。

(オールの小部屋から⑭ 終わり) 

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