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映画『THE FIRST SLAM DUNK』を語る:新しいスラムダンクを知るという刺激。

どうも、いしかわごうです。

映画『THE FIRST SLAM DUNK』を観てきました。公開初日の2022年12月3日、その上映初回で鑑賞してきました。ちなみに早朝7時上映の回です。

(※このレビューはネタバレありです。以下、そのつもりでお読みください。ただ初見であんまり細かいところまでは見切れていなかったので、考察は少なめです)

■始まる瞬間の、味わったことのない緊張感

・・・映画が始まる瞬間、味わったことのないような緊張感に襲われたんですよ。

 なにせこの「THE FIRST SLAM DUNK」は、公開1ヶ月前になっても、2週間前になっても、映画のあらすじが一向に明かされない作品でした。限られた情報から熱心なファンがストーリーを考察していましたが、結局、前日になっても真相は分からずじまいだったんです。

 どんな中身なのを確認したり、前評判も入れずに足を運ぶ・・・蓋を開けたら、とてつもなくつまらない作品を見せられる可能性だってあります。

 でも、そこは原作・脚本・監督の井上雄彦先生に対する絶対の信頼感があったので、公開初日である12月3日に足を運ぶことは決めていました。「とにかく早く観たい」という思いが強いのと同時に、自分の目で確かめるより先にネタバレを目にすることだけは避けたかったからです。

 それに、これだけSNSが普及して情報が飛び交う時代に、あらすじ未発表のまま、前評判も知らず、まっさらなまま映画館に足を運ぶこと自体、なんとも楽しくて、新鮮な体験になるような気もしたのです。

■「THE FIRST SLAM DUNK」に対する自分のスタンスと感想

 自分なりのスタンスと感想を伝えておきます。

この映画について井上雄彦先生は「新しいスラムダンクとして見てほしい」とコメントされてました。

 なので、僕はそのつもりで観ようと思ってました。

少年ジャンプでの「SLAM DUNK」の連載が終了したのは1996年。中学・高校時代にはリルタイムで読んでいたし、アニメも観ていて、とても愛着のある作品です。26年経っても、自宅の本棚には全巻完備しています。年に一回は必ず読み直して、パワーをもらっております。

 人生の愛読書レベルで読み込んできた作品です。
そして今回の映画ではどうだったのか。

自分が読んできたスラムダンクとは違う視点による楽しみを提供してもらいました。

まさに知らなかった「新しいスラムダンク」を見せてもらった感覚で、「井上先生、その方向性で来ましたか!」と、僕は映画館ですごく刺激を受けました。

■「スラムダンクはこうあるべきだ!!」という思いが強すぎるファンには合わないかも

 この映画『THE FIRST SLAM DUNK』という「新しさ」を受け入れるか。あるいは、この「新しさ」をどう捉えるかで、ファンの間でもこの映画に対する評価が分かれているような印象を受けています。

これだけ長年に渡って愛されてきた作品であるがゆえに、「自分にとってスラムダンクとはこういう作品だ」という揺るぎない世界観を大切に持ち続けているファンもいるでしょうし、いて当然だと思います。

 だから「スラムダンクはこうあるべきだ!!」という思いが強すぎる熱心なファンほど「映画『THE FIRST SLAM DUNK』はスラムダンクじゃない」という拒否反応につながりやすいのかな、という気がしました。

 原作版「SLAM DUNK」の方向性を求めて映画版「THE FIRST SLAM DUNK」に足を運ぶと、「なんでこの視点なんだ」、「なんで自分の好きなあの名シーンがないんだ」と大胆にカットされていた要素に納得がいかなくなりますからね。そう考えると、声優を一新したことは、アニメ版とは違う作品として捉えてもらうための、井上先生からのメッセージでもあったと思います。

■心の中で、思わずガッツポーズ

自分なりのスタンスを語ったところで、振り返りに戻ります。

 早朝、駅前の映画館に早歩きでたどり着くと、ロビーには映画版「THE FIRST SLAM DUNK」のポスターが並んでいました。

 グッズ売り場が賑わっていて、レジには長蛇の列が出来ています。

グッズは欲しいのですが、ここで並んでいたら映画が始まってしまうので、しぶしぶ入場することに。7~8割ぐらいは埋まっていました。客層としては、スラムダンクをリアルタイムで読んでいたであろう30~40代が中心です。もちろん、若者もいました。早朝だからなのか、さすがに親子連れは皆無でしたね。

・・・・ただ上映時間になっても、映画が始まりません。

グッズ売り場の列が捌けなかったからなのか、上映時間を遅らせるとのアナウンスがスタッフからありました。「こちとら遅れないように、グッズを諦めて入ったのに・・・」と思いつつ、予定より10分遅れでスタートしました。

 舞台は沖縄。

やはり宮城リョータが主人公としてストーリーが進むことを感じさせる始まりでした。ポスターの湘北メンバーの真ん中に宮城リョータがいること、予告編での扱いから噂されていた通りの物語になりそうです。

 その回想シーンが終わると、鉛筆で「あいつら」が1人ずつ描かれていくのですが(おそらく井上先生の描写)、湘北メンバーの後に、対戦相手の山王工業の面々が現れてくるんです。

・・・・やっぱり山王戦だぁぁーーーーー!!!!

このオープニングとBGMが流れた瞬間、僕は心の中でガッツポーズしたし、館内も少しどよめいてた。もうテンション、上がりまくりです。だって公開前は、試合描写はあるものの、それが山王戦であるかどうかも確定ではなかったんです。なぜなら、対戦相手の姿は一切出てこなかったから。

■映画館で僕は湘北対山王戦の観客になった

試合描写ですが、CGを使ったバスケの動きになっていました。次第に、映画館にいる自分が湘北対山王戦の観客になったような感覚になっていきました。

よく考えたら、これって新しい感覚です。スラムダンクの漫画は1人で読むものですし、アニメも家で見るものでした。でも映画は映画館で見ます。

 たくさんの人と同じ空間で映画を見ていることで、自分が観客席にいるような感覚になるんです。自分は湘北対山王を観ている観客になりました。

 物語は宮城リョータのエピソードを掘り下げていく回想を織り交ぜながら、山王戦が進んでいくストーリーでした。

 物語が進んでいくと、宮城リョータの掘り下げが予想以上に入ってきます。

これはこれで良いのですが、ふと心配したのが、山王戦の決着がつくのかということでした。山王戦はこの作品のクライマックスで、ジャンプコミックスで計算すると25巻~31巻までの7冊分に渡って描かれています。

もしそれぞれの名シーンも全部扱っていくと、とてもじゃないけど2時間の尺には入りません。だから今回の「THE FIRST SLAM DUNK」では山王戦の決着がつかず、もしや後半は続編の「THE Second SLAM DUNK」で描かれるのではないか、なんて予想もしました。

 実際には、試合中に描かれていた湘北メンバーのエピソードや山王の選手の背景などは、かなりカットして進んで、決着まで描き切るというものでした。とことん宮城リョータ視点で進むため、そこに関わらない出来事や名シーンまで極力省いて進んでいきます。

ただスラムダンクファンからすれば、主人公は桜木花道という思いがあるでしょうし、初見で「宮城リョータが主人公なんだ!!」と絶対的な確信を持ちながら見ているわけでもなく、多くのファンは「宮城リョータ視点なの?」と多少の疑問を持ちながら見ているような感覚だったと思います。

 例えば宮城が1年生だった回想シーンで、2年生だったゴリ(赤木剛憲)の3年生との確執が描かれたり、試合中にダンクを失敗して意識を失いそうになった場面では「ここからゴリの深堀りが始まるのか?」とか思いましたし、ミッチーが出てきた時には「三井寿の視点に切り替わるのかな?」とか、不意に視点が切り替わる可能性だってあると思いながら見ていました。

 ただ最後まで宮城リョータがメインのまま終わりました。

■宮城リョータを主人公にした理由

 これにも理由があったようです。

原作のスラムダンクというのは、登場人物のバックグラウンド、とりわけ家庭環境がほとんど明らかにならない作品です。

 メインキャラクターで家族が登場するのは赤木家ぐらいなもので、主人公の花道もライバルの流川も、家族がほとんど出てきません。三井は赤木家の追試勉強で自宅に電話していますが、キャラクターとしては出てきません。

「ほとんど」と書いたのは、陵南戦前日に安西監督が倒れたときに、父親とのエピソードで花道の過去や家庭環境が少しだけ明らかにされるんですね。ただこれも、わりとぼやっとしたままで、父親が倒れたときの状況から察するに母親はすでに亡くなっているのか、あるいは離婚して出て行っているのかもわかりません。もっと言えば、花道の父親は生きているかどうかも明らかにされていません。思い出した花道が涙ぐんでいるのでいろいろと察してしまいますが。

 そんな湘北メンバーの中でも、宮城リョータのバックグラウンドは、原作ではほぼ描かれてきませんでした。そんな思いもあって、今回は宮城リョータ視点で映画にしようと思ったことを、井上先生は映画パンフレットのインタビューで語っていました。

「リョータは連載中に、もっと描きたいキャラクターでもありました。3年生はゴリが中心にいて、三井にもドラマがあるし、桜木と流川は1年生のライバル同士。2年生のリョータは間に挟まれていた。そこで今回はリョータを描くことにしました」

 この映画ではじっくりと宮城リョータの過去が深掘りされたわけで、それは連載が終わって26年後に始めて明らかになった、オリジナルストーリーです。

原作にはない新エピソードなので嬉しいことなのですが、兄が亡くなっている、母親とのわだかまりを抱えながらバスケを続けている・・・などの過去を背負っていたという掘り下げ方は、原作に比べるとかなり重いテイストです。ここに対してファンが違和感を覚えるのは理解できます。

 もちろん原作でも、例えば安西監督には大学時代に有望な選手(矢沢)を亡くした過去がありますし、豊玉高校の南には、翔陽の藤真を負傷させたことからエースキラーと呼ばれ始めて十字架を背負っていましたので、そういう負のエピソードはありました。ただ、この宮城の背景の深さに関してはスラムダンクの世界観というよりも、車椅子バスケである「リアル」の影響が強く出ていたように感じました。

 そこには映画パンフレットのインタビューでも触れていました。やはり井上先生が年齢を重ねてきたことの視点の変化と無関係ではなかったと言います。

「連載時、僕は20代だったから高校生側の視点の方が得意というか、それしか知らなかったんです。そこから年をとって視野が広がり、描きたいものも広がってきた。SLAM DUNKの後、バガボンドやリアルを描いてきたことも影響しているので、自然な流れだと思います」

 おそらく、スラムダンクの連載中だった20代の井上先生が宮城リョータの過去を描いていたら、違う方向で掘り下げていたのだと思います。

でも年齢を重ねたこと、漫画家としてのキャリアでバガボンドやリアルを描いたことで、価値観の変化も出てきた。その連載時には描けなかったものが、この宮城に対する描き方にも投影されている、というわけです。これを「自分の好きなスラムダンクではない」と捉えるファンもいるだろうし、評価が分かれる部分なのだと思います。

「原作で描いた価値観はすごくシンプルなものだけど、今の自分が関わる以上は、原作以降に獲得した『価値観はひとつじゃないし、いくつもその人なりの正解があっていい』という視点は入れずにいられませんでした」

(映画版パンフレットのインタビュー)

■映画で優先したのは「バスケらしさ」


 試合描写に関して言えば、かなりシリアス&ハイテンポで進んでいきます。

例えば山王のキャラクターにはほとんど説明もないのですが、「映画館まで来るファンならば、全巻読み込んでますよね?」ぐらいのスタンスで、試合を進めていくことに重きを置いていました。

テンポもかなり大事にしているようで、原作では緩急をつけていた、クスッとしてしまうギャグパートもほとんどありません。あくまで宮城リョータ視点で進むこと、あちこちと風呂敷を広げずに試合を疾走していく展開に相当割り切っていたように感じました。

 ここに関しては、映画というメディアの手法を考えての判断によるものだったと井上先生が明かしています。

「原作の細かいギャグなんかはどうしても入らなかったです。漫画だと細かいギャグは、小さいコマや字でこそっと入れられるじゃないですか。でも映画はスクリーンのサイズがずっと一定で、その隅っこに小さくギャグを入れても気付かれませんし、大画面でやるのも違うので。そこの違いは大きかったですね」

(映画版パンフレットのインタビュー)

 7冊分に渡って描かれている試合を2時間の尺に収めないといけない以上、あれもこれもと何でもかんでも詰め込んだら、結局、何を見せたいのかがぼやけてしまいます。大事なのは、何を見せたいのかの優先順位で、今回はそれが「バスケらしさ」だったというわけです。

「そこにいつまでも拘りすぎてしまうより、漫画は漫画、映画は映画、それぞれに楽しみ方があるはずだと割り切って、今回は『バスケらしさ』の方を優先する判断をしたということです」

(映画版パンフレットのインタビュー)

 この「バスケらしさ」というところでは、やはりラストのあの攻防戦は、原作の緊張感を再現した素晴らしい映像だったと思いますし、上映後は「バスケの試合を1試合見たなぁ」というぐらいの満足感がありました。

■グッズ、売り切れ過ぎ問題

 上映後、いそいそとグッズ売り場に向かうも、大混雑していました。

フィギュアやクリアファイルを買おうとしたのですが、めぼしいグッズはすでに売り切れていました。朝イチの上映後にすでにほとんど買えないとは・・・・スラムダンク人気おそるべし、です。

映画グッズではないのですが、商品棚にはスラムダンクのリアルフィギュアもあったので、湘北メンバー分を5箱抱えてレジに・・・値段を見ないで買ったら、結構な金額でした・笑。




■なぜ公開日が12月3日だったのか


リアルフィギュアを5箱も購入したのと、まだ朝早かった(上映後もまだ9時半ぐらい)ので、自宅に帰ることにしました。そして、あらためて「THE FIRST SLAM DUNK」の内容を頭の中で反芻したり、ツイッターでの感想を眺めたりしていました。

一つ気になっていたことがありました。

それは「なぜ公開日が12月3日だったのか」です。

 公式の予告映像では、湘北メンバーが円陣を組んで宮城リョータが「1、2、3!!」と掛け声をかけています。だから公開時期もそこに重ねたのかなとも最初は思ったのですが、実はこの12月3日は大きな意味がありました。

 少年ジャンプでの「SLAM DUNK」の連載が終了したのは26年前です。その後、何か目立つようなメディアミックスやコラボ展開をほとんどしていません(資生堂のCMぐらいでしょうか)。

 そこから続編も作られていませんが、唯一の例外と言えるものが、最終回から10日後のストーリーを廃校の黒板に描いた2004年のイベント「あれから10日後」です。

ファンの間では幻のイベントとして有名なのですが、実はこれが12月3日でした。

映画公開日のお昼、井上先生がこんなツイートをしていました。


やはりそうだったんですね。自分はこのイベントに足を運びました(これはスラムダンクファンとしても、ちょっと自慢です)。

購入した黒板漫画のポストカードには日付が刻印されています。12月3日というのは、スラムダンクファンには特別な日付けなんですね。だから、井上先生はこの日に映画を公開したのか・・と知って胸が熱くなりました。

■宮城リョータと沢北栄治がアメリカで対戦した理由

そういえば、2004年の「あれから10日後」で描いたストーリーで、井上先生は当時日本人初のNBAプレイヤーになった田臥勇太と思われる話題を物語の最後に盛り込んでいます。

その理由について、新作を描くのだから、どこか現実のいまとリンクさせたかった、というニュアンスのことをインタビューで明かしていました。

今回の映画「THE FIRST SLAM DUNK」も、その匂いは少し感じましたよ、個人的には。

それはラストですね。アメリカに渡った沢北栄治と宮城リュータが対戦するという結末には驚きましたし、そこにも賛否両論が起きているようにも感じます。ちなみにこれはインターハイ直後ではなく、高校卒業後の大学生の出来事だと思っているのですが、どうなんでしょうか(意外すぎて、初見ではユニフォーム名などの細かいところまでチェックできなかったです)。

渡邊雄太、八村塁と日本人のNBAプレイヤーもいますし、NBAでの「日本人対決」というのも実現していますからね。

黒板漫画同様、この映画版でも現実の今とリンクさせたかったのではないか。

だからこその、宮城リョータ対沢北栄治のラストだったのではないかと思っていますが、どうでしょうか??

・・・とまぁ、長々と書きました。

・・・これは少年ジャンプ連載時に、ジャンプ編集部宛にファンレター(年賀状かもしれない)を出して返信されてきたハガキです。

連載終了した1996年のもので、26年前のものなので、かなり古くなっていますが桜木花道と山王メンバーが描かれています。描き下ろしのイラストなので、レアだと思います。

「今年は決着!」と吹き出しにはありますね。

・・・・あれから26年経って、映画版で決着を見ることができたかと思うと、何とも不思議な気分になります。

今回、何より令和の時代になってから、新しいスラムダンクとして、この作品に触れることができました。僕の中でずっと大事にしている作品を、18年前の黒板漫画とはまた違う角度で楽しむことができました。

2022年になって、スラムダンクをもっと好きになれて嬉しいぜ!!!

<2回目の鑑賞レビューもどうぞ>




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