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「ベンチあってのチーム」とはどういうことなのか。:映画『THE FIRST SLAM DUNK』を語る(鑑賞6回目)

2月1日に映画「THE FIRST SLAM DUNK」を鑑賞してきました。通算6試合目になります。

 この日から新しい特典が配布されました。
それは湘北高校のベンチメンバー7人のイラストポストカード。公開後に井上雄彦先生がツイッターでの広告用に描き下ろしたイラストで構成されております。今回はこの感想だけで1本のレビューを書いてみることにしました。

顔ぶれを左から順に紹介していくと、9番・角田悟(2年)、8番・潮崎哲士(2年)、15番・桑田登紀(1年)、5番・木暮公延(3年)、12番・石井健太郎(1年)、6番・安田靖春(2年)、佐々岡智(1年)になります。

・・・・これは通好みのアイテムですね。
仮に、何の知識もなくスラムダンクを観に劇場に足を運んだ人がもらった場合、「・・・・これ、誰?」となるんじゃないんでしょうか・笑。映画を観終わった後にイラストを見直しても「・・・この人たち、試合に出てたかな?」と思うかもしれません。出番があるとは言い難い人選ですし、全員のフルネームがスラスラ出てくるのは、かなり熱心なファンだと言えます。

ちなみにこのベンチメンバーの中で劇中の山王戦に出場したのは、木暮公延と角田悟の2人だけです。最初にこの2人から語っていきましょう。

■木暮公延:「ベンチも最後まで戦おう」。全員が同じ方向を向いて最後まで戦い続けることで起きること。

メガネくんの愛称で親しまれている木暮公延は、ゴリとともに湘北を支えてきた土台の1人であり、副キャプテンです。人格者なので万人に好かれているキャラクターで、木暮公延を嫌いなスラムダンクファンなど見たことがありません。

山王戦ではプレーの見せ場こそないですが、前半に流川楓と、後半にも桜木花道とも交代して出場。いわゆる、シックスマン(スターティングメンバーではないが、どの選手と交代しても活躍が期待出来る存在)としての役割を果たしていますね。

 チームに一体感をもたらす役割を自然にできるのが彼の素晴らしいところです。
例えば山王戦後半、スーパーエース・沢北栄治が本領を発揮し、残り5分を切って湘北は19点差と2度目のどん底に突き放されます。

これで勝負ありという雰囲気が会場全体に流れ、観客からは「いいゲームだった」、「湘北っていいチームだったな」といった感想が出始めます。

敗戦濃厚となり、お通夜のような重苦しい雰囲気が流れる湘北ベンチ。すると木暮公宣が「おい」と2年生と1年生たちに声をかけます。

「コートの5人はすごい相手と戦っているんだ。ベンチも最後まで戦おう」

 サッカーチームを長く取材していると感じることがあります。

それは最後の最後まで諦めずに戦って勝つチームというのは、スタメンだけではなく、ベンチもベンチ外の選手も、同じ方向を向けて一緒に戦い続けているチームだということです。そういう一体感が必要なんですね。

「見えないチカラ」というとちょっと怪しい言い方になりますが、奇跡のような勝利を呼ぶこむためには、どこか非科学的な要素も必要になってくるのがスポーツの不思議なところだと思っています。この時の木暮は、苦しい時でも最後までチームが同じ方向を向いて戦うこと、味方を信じることをベンチメンバーに促します。

 山王戦のラスト45秒を切った場面も印象的です。
試合終了までのカウントダウンが始まり、魚住や晴子さんが「死守!!」と叫ぶ中、ベンチの木暮くんは、「桜木頑張れ」、「宮城」、「流川」、「がんばれ三井」とコートで戦う味方に向かって必死に祈っていました。

 そして最後に「がんばれ赤木!!」と声を張り上げます。
すると次の瞬間、終始後手を踏んでいたゴリが、会心のブロック河田を止めるんですね。この一連の流れは木暮くん目線での演出シーンになっており、まるで自分も一緒に湘北を会場で応援しているような感覚になり、映画館でいつも泣きそうになります。というか、泣いてます。

湘北のスタメン5人はとても我が強いメンバーで、別に仲良しではありません。頑張るのは自分のためだと言い張る集団です。そんな集団がいる中で、このスタメンとベンチの潤滑油となっているのがシックスマンの木暮くんの存在でしょう。出番が来たら自分の仕事をし、ベンチでは心の底からチームメートたちを応援し続ける。そして苦しい時でもチームが同じ方向を向いて最後まで戦うように、チームの一体感をもたらす。そんな彼の献身性が湘北に大きなモノをもたらしているのだと思います。

・・・とまぁ、木暮くんだけでコラム一本分ぐらい熱く語ってしまいました。

 他のベンチメンバーは一言ずつ紹介していきますね。

■角田悟:実は山王戦に出場していた男

山王戦に出場しているもう一人のベンチメンバーが、角田悟です。通称「カク」。180cmの2年生で、センターの控えです。ポジションとイメージで、三井寿(184cm)よりも大きいと思っていたけど、180cmなんすね。

原作の山王戦では花道が顔面シュートで鼻血を出して止血する際、短い時間ですがコートでプレーしています。試合中に野辺将広とポジション争いをするものの、そのパワーに歯が立たずに完敗。特に見せ場はなく、花道の止血が終わるとまたベンチに戻っています。

映画版ではこのやり取りがないので、カクが出場したこの描写もないと思っていたのですが、顔面シュートの直後、よく見たら花道がベンチ前で寝転んで止血している姿と、コート上の10人がプレーしている状況を俯瞰で伝えている描写がありました。映画でもちゃんと試合に出ていたようです。良かったね、カク。

■潮崎哲士:「本物の山王工業だ・・・」

角田と同じく2年生を紹介しましょう。続いては潮崎哲士。角田と同じ中学出身で、通称「シオ」。

インターハイ全国大会では、豊玉戦と山王戦ともに出番なし。

原作では、山王戦試合前のアップ中に「本物の山王工業だ・・・」と隣のコートで練習している相手をチラ見してドキドキしていました。1年生の時は県予選敗退してますからね。2年生で初めて全国に行って、しかも王者と試合するとなったらビビりますよね。

原作では陵南高校との練習試合や、インターハイ県予選初戦の三浦台高校でスタメンで出ています。ただ試合中のプレー描写があるのはこのぐらいですね。

あとは県予選の決勝リーグでは武里戦で出場していた形跡があります。というのも、遅刻した花道が会場に駆けつけた試合終盤のベンチにいたのは、ゴリ、木暮、安田、1年生トリオでした。言い換えると、この時にコートに立っていたのは三井、流川、宮城、角田、潮崎の5人だと言えます。

■安田靖春:宮城リョータの良き理解者

続いては安田靖春(2年)。通称「ヤス」。名前が「やすだ やすはる」なので、どっちの「やす」を取って「ヤス」と呼ばれているのかは実はわかりません・笑。同じ2年生のあだ名が、カクとシオなので、名字だと思いますが。

宮城リョータと同じ中学出身。今回の映画ではリョータと一緒に帰宅してなだめたりと、同級生としても仲の良い描写があります。山王戦では苦しむ宮城の様子をベンチから心配そうに気にかけていました。

 映画で印象的なシーンがあります。
それは1年生の部活の帰りに、校舎を出た宮城リョータが三井寿とでぶつかって堀田たちに絡まれかけたとき、宮城と一緒にいた安田が縮こまっていた場面です。

 不良は苦手なんでしょう。しかし原作では三井たちが体育館に襲撃した時、安田は仲間たちの前に出て「帰って下さい」にお願いしています。以前は不良たちにビビっていた安田が、勇気を出して先頭に立って切り出したと思うと、なんだかアツいものを感じます。

・・・もっとも、映画版では三井が復帰の挨拶をする際、体育館にいた安田の顔に殴られた形跡はなかったので、こっちでは殴られていないのかもしれません。

インターハイ全国大会では、山王戦には出場してませんが、原作では豊玉戦に前半から途中交代で出場。ハイテンポで進むリズムを変える渋い役割を担っています。

湘北の2年生の4人に関していえば、角田と潮崎が同じ中学、宮城と安田が同じ中学と、ある意味、二手に分かれているのかもしれないですね。

 ちなみに映画版によれば、現2年生は1年時の夏までは5人いたようですね。
3年生の竹中が、試合後のロッカールームで1年生に向かって、「堅物(ゴリ)と問題児(宮城)がうまくやれるわけがない」と宮城に絡む場面がありますが、宮城、安田、角田、潮崎にもう一人、見慣れない顔がいました。ゴリの厳しい練習に耐えられなかったのでしょうか。

■石井健太郎:ベンチでのリアクションは必見!

 続いて1年生トリオ。
まずは石井健太郎。木暮を除いたベンチメンバーの中では、今回の映画でもっとも見せ場の多い存在かもしれません。

 というのもね。
ベンチでのリアクションが一人だけ特徴的なんです。序盤、ゴリラダンクが決まった時のガッツポーズが派手です。試合終盤の三井寿の4点プレーでは「湘北に入ってよかった」と涙ぐみ、そのフリースローではベンチの前で四つん這いになって成功を祈っています。映画版では、ベンチが映る時に石井のリアクションだけを見ていても、発見があるかもしれません。

他にも、後半の絶体絶命の時間帯、追い上げの切り札となる・桜木花道が出る前、リバウンドが成功するように「ボールよ吸い付けーー」と、手に念を込めて送り出しました。

花道からは「念でリバウンドが取れるか」と言われますが、試合に出れなくても、チームの勝利のためにベンチから味方を鼓舞することの重要性をよくわかっているタイプなのでしょう。

花道からは特に名前を呼ばれたことがありませんが、木暮くんが引退したあとは「メガネ君」というあだ名をつけられているかもしれませんね。

ちなみに少年ジャンプでのスラムダンク連載時、幕張というギャグ漫画がありました。そこに出てくる奈良重雄というキャラクターがこの石井に似ていたため、作品内で「湘北の控えメンバー」といじられていた。懐かしいな。

■桑田登紀:湘北最小の一年坊主

続いて桑田登紀。ポジションはガード。花道からは「一年坊主」と呼ばれていました。

湘北で一番サイズが小さいのがこの桑田で、163cm。夏のインターハイの参加申し込み書では162cmでしたが、これはおそらく4月に測った身長を記入しているのでしょう。花道も188cmでした(夏のインターハイ前には189cmに伸びてるけど、登録時は188cmのまま)。

 映画版では目立った出番はないですね。
1年生の中でもよく雑用をしている存在です。インターハイの豊玉戦では、救護室に流川の様子を見に行くように言われてましたし、県予選の武里戦では遅刻している花道にもう一度電話をするように言われてました。

あと陵南戦では、脳貧血で倒れた三井寿にポカリを買ってきたりと、先輩からの頼まれごとをこなしているタイプですね。
 
プレイヤーとしての描写はあまりないのでわかりませんが、県予選の2回戦・角野戦では出場していた形跡がありますね。なお入部時の自己紹介では二中出身を名乗ってましたが、インターハイ参加申し込み書では藤園中出身になっていました。

■佐々岡智:背番号を変更している男

最後に佐々岡智。石井と同じ中学校出身と見られています。

出番の少ない1年生トリオの中でも、とりわけ影が薄いのがこの佐々岡かもしれませんね。これといったエピソードがほとんどない・笑。

公式戦では13番をつけています。ただし、原作の陵南高校との練習試合では、花道が10番をつけることになったため、15番をもらっていた佐々岡は、ガムテープで16番になる悲しい役目だった。よくバスケ部、辞めなかったよ!!

・・・井上先生も背番号の変更(16→13)に触れていますね。

決勝リーグの武里戦では、ベンチでタオルを肩にかけていることから試合に出場していた形跡があります。実力的には1年生トリオの中では、ちょっと上なのかもしれませんね。

1年生トリオのプレーといえば、海南戦後に1年生対2・3年生チームによる5対5がありました。

 花道の課題が三井によってあぶり出されて、ゴール下のシュート特訓につながるわけですけど、この1年生対2・3年生のゲームの光景が、ちょっと興味深いんですね。

 というのも、花道と流川以外の桑田、石井、佐々岡という1年生トリオのプレーもコートにいてプレーに絡むわけですが、そこから未来(2年後)の湘北がちょっと垣間見れるからです。

 例えば流川と花道がプレーエリアがかぶってしまい、でもどちらも譲らない・・・ポイントガードの桑田がゲームメークに迷っているときには、石井が積極的に指示を出す木暮くん的な役割をしていました(あとで花道に殴られてた)。

 こういう関係性を想像するとなかなか面白いです。なおこのゲームでも、佐々岡だけはまったく絡んでこないので、この影の薄さは切ないものがあります。

なお、佐々岡、桑田、石井の3人の名前は、スラムダンク連載時(90年代前半)にプロ野球で活躍していたセ・リーグのエースピッチャーから由来しているのではないかと言われてますね。2年生の角田、潮崎、安田もそうかな。

■「支える人がいて、チームはチームになれる」

「支える人がいて、チームはチームになれる」。そして井上雄彦先生いわく「ベンチあってのチーム」。

ここから先はスラムダンクの話ではありませんが、実は去年、「ベンチあってのチーム」という言葉を実感する出来事がありました。(以下余談です)

それは、昨年2022年の夏場のこと。7月終わりと8月にかけて、自分が取材しているJリーグチームの川崎フロンターレに新型コロナウイルスの陽性判定を受けた選手が急増し、満足なメンバーを揃えることができない緊急事態が起きてしまったんです。

 リーグ第23節の浦和レッズ戦では、スタメン11人に加えて、通常7人で埋めるはずのベンチメンバーがわずか5人。しかもベンチにいる5人のうちの3人は、通常は1人しかベンチに入らないGK登録の丹野研太、安藤駿介、早坂勇希でした。つまり、交代できるフィールドプレイヤーは実質2人だったのです。

試合開催の是非も疑問視された中でしたが、ベンチメンバーが少ない条件でも試合は開催されました。

ゲームは1-3で敗戦。続くルヴァンカップ準々決勝1stレグ・セレッソ大阪戦もベンチにGK3人体制が続くなど、大きな試練に襲われた苦しみの時期でした。

 しかし、この苦難に向き合ったことが後半に向けたチームの一体感を増す出来事にもつながった側面もありました。例えばGKながらフィールドプレイヤーのユニフォームを着てピッチでアップを続けた安藤と早坂の存在。不本意な状況下でも、チームのためにベンチで尽くしたGK2人の振る舞いに、鬼木監督は賞賛の声を惜しみませんでした。

「イレギュラーな状況でしたが、その中でも自分がやれることを精一杯やってくれました。特に声を出すという部分ですね。みんなに声をかけたり、そういうところでのサポートは素晴らしかったと思います」

 指揮官にそう言わしめるほど、安藤と早坂がベンチで示した献身性は素晴らしかったんです。その後に行われたチームのオンラインミーティングで、鬼木監督は全員の前で両者に対する感謝の言葉も述べたと明かしています。

「本当に感謝しています。GKという特殊なポジションで、プライドを持ってやってくれている中で、フィールドプレーヤーのユニフォームを着なくてはいけなかった。そういうプライドの話は、みんなの前でも話しました。チームのために彼らがやってくれたし、チームみんなで踏ん張っている状況なので、それは全員で応えていこうと話しています」

 結果的に安藤と早坂はピッチには立っておらず、彼らのプレーは出場記録には残っていません。

でも総力戦とは何かなのか。

チームのために自分を捧げるとはどういうことなのか。

両者の振る舞いから、チームに関わる誰もが何かを考えさせられたようでした。それは同時に、チームとしての団結力をより強めるきっかけにもなったようにも感じました。

映画「THE FIRST SLAM DUNK」では、絶対王者である山王工業に湘北高校が奇跡的な勝利をおさめます。様々な勝因があったと言えますが、試合に出ていないベンチメンバーの頑張りがあってこそ掴めた勝利だったのではないでしょうか。

ベンチメンバー7人のイラストポストカードには、井上先生からのそんな思いを感じましたね。

(スラムダンク棚を作って飾りました。湘北セットにベンチメンバーもいたのは嬉しかったぜ)

ではではこの辺で。

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