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「愛しく苦しいこの夜に」 (リーグ第14節・サガン鳥栖戦:2-5)

割引あり

 駅前不動産スタジアムでのサガン鳥栖戦は2-5で敗戦となりました。

5試合負けなしのチーム状態で乗り込み、立ち上がりの時間帯に先制に成功するも、そこから逆転負け。それも、想像だにしていなかったスコアでの大敗です。

 先制点は前半13分。
最初のセットプレーから高井幸大が豪快なヘディングシュートを決めました。高井にとっては記念すべきJリーグ初ゴール。若者らしい笑顔で喜ぶ高井を、チームメートたちが少しだけ手荒く祝福する輪を作っていました。

 サンフレッチェ広島戦で小林悠が決めてチームを蘇らせたのを皮切りに、浦和レッズ戦では佐々木旭、アビスパ福岡戦では山田新、そしてコンサドーレ札幌戦ではバフェティンビ・ゴミスと、ここ最近はチームにパワーを与えるようなゴールを決めるヒーローが、日替わりで出てきていました。なので記者席で「よし、今日の日替わりヒーローは高井幸大だな」と明るい結末を呑気に描いていました。

 今シーズン、前半15分以内にゴールを奪ったのも初めてです。早い時間帯で先制した後の試合運びにも目を配っていたのですが、守備陣はよく集中して対応していたし、ボールを保持すれば鳥栖のハイラインのギャップを狙って、遠野大弥やマルシーニョが抜け出す形で際どいチャンスを作っていく。これを続けていけば、追加点も奪えそうな匂いが漂っていましたから、特に問題はないように感じていました。

 異変が起きたのは、その数分後の前半20分でしょうか。
ボールを巡るフィジカルコンタクトで脇腹のあたりを痛めたマルシーニョが、その場にうずくまります。倒れ込んで動けずに数分間、試合が止まりました。

 フロンターレからすれば追加点を奪うべく、畳み掛けるような時間帯にしたかったはずです。しかし、この治療時間により、どこか一息ついた雰囲気がピッチに流れ始めます。

 無事にピッチに戻ったマルシーニョですが、再開直後は動きにやや精彩を欠いた感がありました。逆に鳥栖はマルシーニョがケアし切れない背中のスペースから右サイドバック・原田亘が積極的に攻撃参加し、攻めの起点を作り始めます。佐々木旭が前に出ていくも徐々に後手を踏んでしまい、そこのエリアで押し込まれる局面が続きました。ちょっとだけ試合のリズム感が変わり始めたように見えたんですね。

 こういう時間帯ほど自分たちから隙を見せてはいけない。それがサッカーの鉄則です。

 しかし26分。
右サイドで鳥栖が起点を作り、菊地泰智のクロスがゴール前に。特に危険な軌道には見えなかったものの、ここで痛恨のコミュニケーションミス。ファーサイドにいたファンウェルメスケルケン際の背後から現れた横山歩夢がトラップし、難なくゴールネットを揺らします。横山歩夢はJリーグ初ゴールです。

 悔やんでも悔やみ切れないフロンターレ守備陣。

ファンウェルメスケルケン際はミスが少なく、選択を間違えないタイプです。しかしこの局面でのクロス対応では、GK上福元直人との意思の齟齬が起きてしまったと自身の対応を悔やみ、言葉を絞り出します。

「フワッとしたボールだったので、カミくん(上福元直人)が出てくると思った。逆にカミくんは『人が足りていた(ので、クリアしてくれる)』と。そこはコミュニケーションの問題。守備陣としては自分のマークにやられることはいただけないですし、そこにやらせないようにしないといけない」

 とはいえ、起きたことは受け入れるしかありません。大事なのはここから仕切り直すことだったと思います。スコアはまだイーブンで、時間は60分以上ある。気持ちを切り替えてゲームを進めていけば、何も問題なかったはずです。

 でも、それが出来なかった。
同点後の試合運びについて、ファンウェルメスケルケン際が振り返ります。

「1-1にさせてしまったことで動揺というよりは、もう一回、主導権を握って2-1にする。そこで2点目を取られたことが、計算外だったと思います」

ゲームの主導権を握れず、さらに我慢もできずに、37分、44分と失点を重ねてしまった。26分の失点から18分間で3失点です。そして後半開始直後には4失点目。

 にわかに信じられないような脆さを見せてしまうわけですが、なぜこういうことが起きてしまったのか。

 選手の声を聞くしかありませんが、試合後のミックスゾーンに現れた選手たちもショックを隠せず、複雑な表情を見せていました。

※5月17日、オンライン囲み取材がありました。ガンバ大阪戦に向けた取材だったのですが、サガン鳥栖戦の振り返りもありました。そこで鬼木監督には高井幸大について聞きました。パリ五輪の出場切符を獲得し自信をつけて帰ってきて、スタメンの鳥栖戦では初ゴール。しかし終わってみれば5失点と悔しい結果となってしまいました。試合後の会見で聞こうかと思ったのですが、あの場よりも、やはり少し時間が空いてから尋ねたほうが良いかなと思い、このタイミングで聞かせてもらいました。約2500文字で追記しております。

■(※追記:5月17日)「人が変われる時って、やっぱり大きな出来事の後だと思います」(鬼木監督)。指揮官が語った高井幸大に対する期待と現在の課題。そして悔しさに向き合った選手たちに、次の試合で表現して欲しいもの。


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