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「大切なものはいつもピッチの中にある」(リーグ第5節・FC東京戦:3-0)

「今日はトップ下だったので、より自分のゴールだったり、アシストにフォーカスしたかった。その感覚が得意なポジションだったからこそ、生きたかなと思います」

 自らが決めた先制点を振り返る脇坂泰斗は、そう説明してくれた。

この日は慣れ親しんだ4-3-3システムではなく、4-2-3-1システムでスタート。ポジションもインサイドハーフではなくトップ下だ。

 思い返してみると、脇坂泰斗という選手が川崎フロンターレで出場機会を掴み始めたのは、プロ2年目の2019年シーズンから。当時の鬼木フロンターレは4-2-3-1を採用しており、脇坂の定位置はトップ下。動きながらプレーできる機動力を備えており、ゴール前でのフィニッシュワークに技術を発揮するクラッキだった。

 中村憲剛さんの14番を引き継いでいるのでパサータイプだと思われがちだが、どちらかというとシャドーストライカーに近いタイプのトップ下だったのである。

 34分のゴールシーン。

左サイドで仕掛けた三浦颯太が低くて速いクロスをゴール前に。クリアしようと伸ばした木本恭生の足に当たってゴールポストに弾かれ、そのリバウンドを詰めていた脇坂泰斗が左足で流し込んだものだ。

 理解できなかったことがある。

一連のシーンの流れで、三浦颯太がクロスを上げた瞬間、脇坂泰斗だけが動きを止めず、ゴールに向かって猛然と走り出していたことだ。まるで、ボールが自分にこぼれてくるかのように反応していた。なぜ彼だけが動きを止めずに詰めていたのか。

 試合後のミックスゾーンで率直に尋ねてみると、「もう絶対にこぼれてくるという予感があって・・・嗅覚ですかね」と笑みを浮かべていた。

 冒頭で触れた、ゴールに近いトップ下のポジションで先発していたことも理由の一つだろう。そして高い位置で三浦颯太が1対1の仕掛けをした瞬間、ゴール前に走ればご褒美が転がってくる予感があったとも明かしている。

「(三浦)颯太が仕掛けに入った段階から来そうだなという予感がありました。かつ、相手選手もなんか守りづらそうな仕掛けだったので、GKと CBでコミュニケーションを取るのはなかなか難しいだろうし、詰めてました」

 得点後は、バックスタンドのサポーターと共に「1、2、3・・・ダー!!」のゴールパフォーマンスも披露。自身は今季2点目だが、ホームでは初ゴールだった。

 等々力陸上競技場は今シーズンから富士通株式会社がネーミングライツパートナーとなり、「Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu」に愛称が変わっている。名前を変えてからこれまでリーグ戦ではホームで2連敗と苦しんでいた。ACL・山東戦も含めると今季は3連敗だ。

 ネーミングが変わったからなのか、等々力にいる女神がなかなか微笑んでくれないなと思ったけど、それでも川崎フロンターレの14番には優しかった。

 どうしても勝ちたかった、この日の多摩川クラシコ。選手たちが強い思いを持ってピッチに立っていたのは、その戦いぶりから伝わってきた。キャプテンマークを巻いた14番は、そんなチームの気持ちをこう代弁する。

「今日のゲームは、本気でターニングポイントにしたかったので。それは練習からチームの雰囲気としてありましたし、一人一人の競争の中でも、そういったものがあったので。それが今日のゲームに出たんじゃないかなと思います」

 では、その思いはピッチでどう表現されたのか。

そしてなぜ、チームは会心のゲームをすることができたのか。レビューで振り返っていきます。

※4月1日に、後日取材としてオンライン囲み取材での鬼木監督の談話を加えたコラムを追記してます。

→■(※追記:4月1日)「どれだけ技術があっても少し弱気になってしまったりとか、少しネガティブになってしまうと、その技術すら発揮できない」(鬼木監督)。指揮官の決断にあったものと、「システムに命を吹き込むのは選手たちだ」という話。

ラインナップはこちらです。


では、スタート!

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