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「Present for you」 (リーグ第1節・湘南ベルマーレ戦:2-1)

割引あり

川崎フロンターレにとって、どうしても勝たなくてはいけない開幕戦でした。

 チームとしては公式戦4連戦目のラスト。ACLラウンド16でのショッキングな敗戦から迎えた開幕戦で、当然ながら心身ともに消耗は激しかったはずです。

「身体の疲労がどれだけかは何ともいえないですが、精神的な疲労はかなりあったと思います」

 試合後の監督会見で鬼木達監督はそう話していました。特に精神的な疲労ですよね。大きな目標を失ってしまったという喪失感。これは相当なものがあったはずです。

 連戦なので何人かのメンバーを入れ替えるという選択もあったと思いますが、鬼木達監督がピッチに送り込んだスタメンは4日前のACLとほぼ同じでした。入れ替わったのは高井幸大で、スーパーカップから唯一の連続先発となっていたセンターバックの丸山祐市がベンチスタートとなっただけです。

「ほとんど変えない」という指揮官からのメッセージを、スタメン起用された選手達はどう受け取って奮起したのか。

キャプテンの脇坂泰斗に尋ねると、その重みを十分に感じ取っていたと話します。

「試合に使ってもらうからには責任感と自覚を持ってピッチに立たないといけない。そういうことだと思います」

 試合は7分、フリーキックのクリアボールをエリア外から狙っていた湘南の池田昌生にミドルシュートを決められて、立ち上がりに失点を喫する展開となりました。相手を褒めるしかないミドルだったのは確かですが、湘南のセットプレーは、川崎の守り方を分析した上で入念にデザインされたものだったように感じる一撃でした。

 湘南が3バックではなく4バックを採用してきたこともあり、序盤の川崎はプレス回避やビルドアップの出口の作り方に苦戦を強いられ、なかなかリズムが作れませんでした。

しかし、その流れをこの男が一変させました。

今季からキャプテンマークを巻いた脇坂泰斗です。

24分、佐々木旭がロングボールを競り勝ってマイボールにすると、前線に。エリソン、家長昭博と繋ぎ、ボールを受けた遠目から脇坂が左足を一閃。

 このミドルシュートは矢のような弾道となってゴールネットに突き刺さりました。開幕戦のベストゴール候補になってもおかしくない、見事な一撃。

 ボールを持った際の視界にはエリソンがゴール前に走り出しており、崩しの選択肢もあったと思います。しかし、ボールを受けた瞬間の感覚をこう話しています。

「周りは見ていないです。打つと決めていたので」

 試合前練習の感触から、ミドルシュートを選択肢に入れていたのが一つ。そして鬼木監督からの指示も頭にあったと言います。

「(ウォーミング)アップでキックの感触がすごくよかったんです。アップから打っていこうと思っていたし、オニさん(鬼木監督)からミドルも打っていこうという話がありました」

 脇坂泰斗は自身のゴールシーンを、いつも詳細な言葉で振り返ってくれるタイプです。しかしこの場面はうまく思い出せないと言います。それだけ集中していたのでしょう。いわゆる、ゾーンに入るという状態だったのかもしれません。

「あとは覚えてなくて・・・そういうゴールってあるじゃないですか。あれは技術じゃなくて気持ちです。そういう感じのゴールとしか説明できない。周りが見えてないぐらい打つと決めていました。ストレートで蹴れる良い場所にボールを置けたので、ストレスなく打てました」

 背番号14の前代である中村憲剛さんが言っていたことですが、味方へのパスコースを含めてプレーの選択肢がいくつもある場面でも、「ここはシュートしかない」と決断できている状態で打つミドルシュートはほぼ入ると明かしていました。

 サッカーをプレーする上で選択肢を増やすことは大事です。しかし、ミドルシュートに関しては、技術的なポイントだけではなく、いかに選択肢を無くした集中状態に持って行くか、そしてその決断力がカギだというわけです。

では試合を詳しく振り返っていきたいと思います。
ラインナップはこちらです。

※2月26日に後日取材による、大南拓磨に関する約2000文字のコラムを追記をしました。ACL山東戦後のミックスゾーンでは、かなり気を落としていました。そこからどう気持ちを切り替えて湘南との開幕戦に臨んだのか。ぜひ読んでみてください。

(※追記)■「切り替えようと思っていたけど、そうはいかないのは分かっていました。だからサッカーをやりながら切り替わっていくしかない。消えていかないので」(大南拓磨)。消化し切れぬショックを抱えながら迎えた開幕戦で掴んだ勝利の意味。そして見据えている古巣戦での恩返し弾。

※2月27日に後日取材による鬼木監督のコラムを追記しました。等々力でのACL・山東戦後の監督会見ではいつになく憔悴した様子だった鬼木監督。あの負けの悔しさにどう向き合い、切り替えたのか。話は意外な方向に進みました。

※追記その2■「順番的にはそういうことではないし、勝ちたかった。湘南戦の前日も思うところはありましたね。悔しかったんだなと」(鬼木監督)。我々は一台のバスに乗った家族。またアクセルを踏んで前に進まなくてはいけない。


ではスタート!

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