見出し画像

針谷大輔「右派はなぜ財界の横暴に無関心なのか 麗しき山河を守れ」(『維新と興亜』第8号、令和3年8月)

我々に謝罪した住友不動産


── 針谷さんは、住友不動産の安藤太郎会長宅籠城事件に参加しました。
針谷 事件を計画した蜷川正大さんが住友不動産に抗議しているのは知っていましたが、計画の詳細は知りませんでした。実は、私がそれを知らされたのは、事件当日のことです。
 事件については様々な評価がありますが、経団連事件の精神を引き継ぎ、営利至上主義の住友不動産を糾弾するのが目的でした。当時、悪質な地上げは社会的にも問題となっていました。しかし、不動産会社を批判する記事は書きにくかったようです。事件後、あるスポーツ新聞の記者から「あの事件があったおかげで、記事を書けるようになりました」と感謝されました。
 裁判では、同年六月九日、私は東京地裁から懲役一年六カ月執行猶予四年の判決を受けました。ところがその時、安藤会長は六月十六日付の『東京新聞』に掲載されたインタビューで、「お金でもやれば済んだんでしょうが」などと発言しました。
 大義のために起こした我々の行動に対して、安藤会長がそのような発言をしたことを容認することはできませんでした。蜷川さんが書いた檄文には「日本の財界の重鎮、住友不動産会長としての公の立場の責任を追及し、貴社の企業体質を糾弾し、併せて日本の麗しき山河を荒廃へと導いた政・財界の営利至上主義を撃つものである」と書かれていました。そうした我々の行動目的に対しては、裁判長が「彼等は決して金銭目的で犯行に及んだのでは無い」と私見が述べられ、判決も認めていました。
 そこで、我々は七月九日、「安藤会長の発言内容は事実無根であり、我々の志を踏みにじるものだ」として、東京地裁に名誉棄損で訴えを起こしました。幸い、住友不動産は九月三十日付で、「認識不足などから事実と反するような形の発言記事となり、関係者の方々にご迷惑をおかけした」との謝罪の声明を出しました。

「麗しき山河を守れ」の思いで開始した脱原発運動


── 針谷さんは、平成二十三(二〇一一)年三月の東日本大震災による福島原発事故をきっかけに、右からの脱原発運動に乗り出しました。
針谷 この運動もまた経団連事件で示された野村先生の思想を引き継ぐものです。経団連事件の檄文には、営利至上主義、経済至上主義のために「麗しき山河を守れ」というはっきりしたメッセージが示されていました。檄文はまた、水俣病などの公害問題についても厳しく批判していました。
 我々は、電力会社を中心とする「原子力ムラ」の利益のために原発が推進されてきたと考えています。まさに企業の利益のために、我々の国土が汚され、国民の生命が危険に晒されている。ところが脱原発を訴える行動を積極的に展開していたのは左派だけでした。そこで、我々は「子供たちの命と麗しき山河を守れ」というスローガンを掲げて、右からの脱原発運動を開始したのです。原発事故から四カ月後の平成二十三年七月に最初の「右から考える脱原発ネットワーク」デモを東京で行いました。同年九月には、横浜で第二回のデモを開催しました。
── 保守派の中には原発推進を主張する人も少なくありません。
針谷 安全保障を考えても、原発はむしろマイナスだと思います。例えば、原発はドローン兵器による攻撃の格好の標的になります。私は核兵器は時代遅れの兵器になっていると考えていますが、仮にわが国が核武装を目指すとしても、原発がなくても、特別な研究開発施設があれば十分だと思います。
── なぜ右派や保守派は財界に甘くなったのでしょうか。
針谷 社会的弱者を含めた国民全体に対する陛下の大御心を理解していないからだと思います。財界の横暴に無関心なのは、尊皇心が欠けているからです。同時に、GHQによって植え付けられた個人主義、利己主義が日本社会全体に蔓延してしまい、全てが損得勘定で動くようになってしまったからでしょう。
 かつては、政治家には「政治の力で国民を豊かにする」という誇りがありました。しかし、今の政治家たちは自分の利益を優先するようになっています。そうした政治家が営利を追求する企業に利用され、国民の富を独占しているのです。
 竹中平蔵氏が会長を務めるパソナは、何かを自分たちで生み出しているわけではありません。政治の力を使って、仲介料や手数料という形で、金をふんだくっているだけです。電通にしても、かつては企画力、創造力で勝負していましたが、いまや中抜きで儲けるような企業に成り下がってしまいました。そうした企業が優遇されているのは、政治と結託しているからです。
 私が恐れるのは、自分が動いたところで何も変わらないという諦めの気持ちを抱くことです。我々の運動によってすぐに社会が変わるとは思っていません。しかし、自分が動くことによって必ず何かが変わると信じるべきです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?