感染症専門医が解説「ベンジルペニシリン筋注製剤で日本の梅毒の診療はどう変わる?」

日本で、梅毒治療薬水性懸濁筋注製剤(一般名:ベンジルペニシリン筋注製剤、商品名:ステルイズⓇ)が2021年9月に承認、2022年1月に販売開始となったことをご存じですか?梅毒は日本でも感染者数が増加している性感染症で、適切な治療がとても大切です。ベンジルペニシリン筋注製剤の登場で、日本の梅毒診療がどう変わるのか、感染症専門医の観点からご紹介します。

日本の梅毒治療は、世界標準とはかけ離れたアモキシシリン内服であった

日本以外での梅毒の標準治療法は、ベンジルペニシリン筋注 240万単位1回筋注です[1]。しかし、日本国内では、これまでベンジルペニシリン筋注製剤が使用できませんでした。理由として、過去にペニシリン系抗菌薬のアレルギーによる死亡例が発生したことや、筋注製剤による大腿四頭筋拘縮症の合併症などが考えられています。

ベンジルペニシリン筋注製剤が使用できないため、これまで日本では、梅毒の標準治療としてペニシリン系のアモキシシリンを高用量で内服することが推奨されていました。また、アモキシシリンの有効血中濃度を高めるために、アモキシシリンとプロベネシド併用内服治療がおこなわれることもあります[2]。アモキシシリンとプロベネシド併用内服治療は高い効果がありますが、治療期間が14〜28日間と長くなってしまうことが問題です。

日本でも世界標準であるベンジルペニシリン筋注製剤が、2022年1月に販売開始!

日本では2010年以降、梅毒の感染者数が増加傾向を示しています[3]。例えば、東京では、2010年から2016年にかけて感染症法における届け数は113例から1190例に増加しました(10.5倍)。そのような中、日本でも2021年9月に、世界標準であるベンジルペニシリン筋注製剤の製造販売が承認され、2022年1月に販売開始となりました。

以下に、これまでの梅毒の治療法とベンジルペニシリン筋注製剤登場後の新しい治療方針を比較します。

ベンジルペニシリン筋注製剤登場後の新しい治療方針では、以下の点が大きなメリットになると考えられています。

  • 1-2期梅毒および早期潜伏梅毒に対して、単回筋注投与で治療効果が期待できること

  • アドヒアランスの低下による治療失敗は考え難いこと

ベンジルペニシリン筋注製剤は出血傾向やアナフィラキシー反応に注意する

ベンジルペニシリン筋注製剤の注意点について解説します。ベンジルペニシリン筋注製剤の投与方法は18G針での筋注です。そのため、事前に出血傾向の確認をおこないます。次に、ペニシリンによるアナフィラキシー反応のリスクがあるため、ペニシリン系抗菌薬とセフェム系抗菌薬のアレルギー歴について確認が必要です。セフェム系抗菌薬のアレルギー歴についても確認する理由は、セフェム系抗菌薬にアレルギー歴があるとペニシリン系抗菌薬でアレルギー反応を起こす場合があるからです。アナフィラキシー反応などの重篤なアレルギー歴がある場合は、投与を控えた方が安全です。

その他に稀ですが重篤な副作用として、Nicolaus症候群[4]やHoigne's 症候群[5]があります。Nicolaus症候群は、注射領域に注射直後に発生する皮膚軟部筋肉組織の虚血性壊死です。Hoigne's 症候群は、ペニシリン投与後に起こる結晶を原因とする血管塞栓によって、発症する精神神経症状です。注射する部位は筋注製剤なので、筋肉が豊富な臀部に注射します。

最後に、ベンジルペニシリン筋注製剤の注意点を踏まえて、具体的な使用方法をご説明します。

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