1.

3/28、今日死んだのは啓蟄に目覚めたばかりの小さな虫だった。

私はたまに、心というのはもともと引っかかりのない球体だったように感じる。
様々なものに触れて、揉まれ、ぶつかり、削られ、撫でられるうちに、その球体はどんどんざらついてゆく。
今の部屋の中の散らかりはそのまま私の心のざらつきの原因のように思う。視界に机の上の散乱した細かい薬やサプリメント、カサカサしたレシート、筆記用具等が入る度、それらが心をさらにザラザラと不快に削ってゆく。
ザラザラと
ザラザラと
ザラザラと
ザラザラと
追い討ちをかけるように、家に着いて最初に覗いた郵便ポストには支払いの催促。薄くて、強くて、切れ味がとても鋭い。そして禍々しい毒を多量に含む。今の私の心には、これ以上致命傷を負わせるのにうってつけのものはないだろう。
私はそれをなるべく自分の今いるところから遠ざけたくて、部屋の反対側の隅に投げつけたが、下手くそで投げやりな私の投げ方では空気の抵抗を受け、部屋の反対どころか禍々しく回りながらヒラヒラと私の背中に舞い降りて服と皮膚の間に呪いを染み込ませるように入り込んできた。
ついに私は、覚悟を決めるしかないようなのだ。
まだ嫌だ。そう思っていた。けれどこういう日はあっけなく、突然に訪れる。

心から同情する。
しかしわたしにもこれを止める手立てはない。
それではこれから開始するー

サイダーを飲んだことがある?果物の味と香りがして、透明で、コップに注ぐと底から粒々と泡が生まれ、上に登っていき、最後に空気に触れて弾ける。その瞬間の爽やかな香り。

ーゆっくりおやすみ。


探していたものは、ついに見つからなかった。
仕方がないので散らかった服をクッション代わりにして、その上に腰を下ろした。
好きなものが見えてくる。この瞬間がとても好き。
乱雑で別々のものに見えて、これらは1人を構成していた。つまり大きな1つのものだったのだ。

集合体の命。一つの大きな命に見えても。
一つの命。夥しい数の小さな命達に見えても。

服のクッションは一つの大きな塊に見えて、小さな布の集合体である。殆どはベージュや、茶。どれもぼやけて、甘くて、いつまでもまとわりつく。大体、フワフワと、時々、ツルツルと。
少しずつ動いているうちにだんだんその中に体は埋まっていく。そして最後には、取り込まれてしまう。
そろそろここを去らなくてはいけない。
最後に、いつもの儀式をはじめることにする。
食べられるものを机の上から探す。
ビタミン剤を見つけた。これを全て噛み砕いて食べ、私の体の中へ取り込もう。
この場所の一部として。
苦くて酸っぱい。
微かに甘い。
段々口の中の皮膚が融解されていく感覚を覚える。カーテンの燻んだピンクがいきなり彩度を上げた。

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