ことわざで覚えるデザイン その4

新しいことわざを作るコツとして、前回は「音の数」について書きました。その他のコツとして次に考えられるのは、「比喩表現」です。これはほとんどのことわざに言えることですが、覚えやすくて実生活にも応用しやすいことわざは、往往にして「たとえがうまい」ということが言えると思います。

ことわざ辞典を見てみると分かりますが、パラパラっと見渡してみて誰でも知っているような有名なことわざは、せいぜい一割程度です。世の中には、ほとんど誰も知らないようなことわざが、山のようにあるのです。そんな中で記憶に残るような「よくできたことわざ」は、できるだけ身近なものにたとえながら、深い教訓があるものがほとんどです。

例えば、

鬼に金棒 泣きっ面に蜂 焼け石に水 清濁併せ吞む 苦虫を嚙みつぶしたよう 敷居が高い 一寸先は闇 雨降って地固まる 住めば都 二階から目薬 隣の花は赤い 馬の耳に念仏 火中の栗を拾う 猫の手も借りたい…

…などなど。

パッと見渡して分かりやすい比喩表現になっているものをピックアップしてみました。これらのことわざは、その意味を知らなくても何となく言いたいことがわかるような表現になっています。短い語句で絶妙な言葉選びがなされている証拠です。また、比喩になっているということは、ことわざを作ろうと思った場合に、「〜のようなもの」という直喩で考えて、うまいたとえを探すのが常套手段であるということが言えます。

例えば、「二重に不幸が重なるほど酷い」ということをことわざにしようと思った場合、そのまま「五・七」の音の数だけ当てはめても、面白くありません。それよりも、「それは例えるなら、泣いているところを蜂に刺されるようなものだ」というたとえを見つけて、「泣きっ面に蜂」という端的な表現に落とし込んだ方が、表現として数段面白いものになるのです。

つまり、いいことわざを作るためにはクリエイティビティが必要、ということです。ほとんどコピーライティングに近い技術なのではないでしょうか。何百年も残るコピーを書くなんて、昔の人は本当に偉大です。そう考えると何だか難しい作業のようにも思えますが、その分、いいたとえが見つかったときには、発見する喜びがあります。何とか面白い比喩を見つけて、少しでも記憶に残ることわざを作れるように、日々試行錯誤している所です。

では、今回も「デザインことわざ」を3つ紹介します。

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文字は声なり

それぞれのデザインに適切な書体を選ぶには、それなりの知識と経験が必要です。デザインをはじめたばかりの頃は、フォントの微妙なニュアンスの違いなどが、一番悩むところかと思います。そこで、書体を選ぶ際のひとつの考え方として、文字を「声」と考えてみる、という方法があります。書体の形は「声質」です。質実剛健な印象にしたいときにはゴシック体、柔らかい印象にしたいときは明朝体、ポップで可愛らしい印象にしたいときは丸ゴシック、という風に、メッセージの質によって、書体を選びましょう。そして、文字のサイズは「声の大きさ」です。あまり声が大きいとうるさいかもしれませんし、小さすぎると相手にうまく伝わりません。よく検討して、適切なサイズを割り当てましょう。文字に色をつけることで「声色」も変えることができます。情熱的な赤、警戒色の黄色、クールな青、自然派な緑、ミステリアスな紫、ちょっとエッチなピンク、安定感のある黒など、それぞれの色の持つ特徴も、うまく活かせると良いでしょう。

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オリエンは熱いうちに食え

デザインは通常、オリエンテーション(※以下オリエン)から始まります。オリエンには、デザインに必要なすべての情報が隠されています。オリエン・シートを隅から隅まで読み込んで、ヒントになりそうなものをすべて洗い出しましょう。そしてオリエンを受けたら、あまり間を空けず、とりあえず考え始めることが大事です。クライアントから最初に話を聞いた瞬間が、いちばん課題の鮮度が良いからです。特に、直接話を聞くことができたのなら、その熱量が冷めない内に「これはいける!」というものを一案、考えてしまいましょう。そうすれば、後の作業がグッと楽になります。往々にして、最初に思いついた案がいちばん良かったりするものです。

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国語と算数足して割る二

一見矛盾するようですが、デザインを理解するためには、国語と算数を足して二で割ったような考え方が必要なのではないかと、私は考えています。ここでいう国語とは、情緒的な思考を指します。それに対して算数は、論理的な思考のことです。言うなれば、右脳的な思考と左脳的な思考のどちらも必要であるということです。この式に敢えて「美術」を加えていないのは、デザインという概念の理解においては、必ずしも特別な美的感覚がなくても可能であるということを示唆しています。もちろん、美しいデザインを生み出すためには、美的感覚は絶対に必要です。しかし、何かデザインされたものを見るときにまず必要なのは、その文脈を読み解くための情緒的思考と、その構造を理解するための論理的思考です。言うまでもなく、デザインをする過程においても、この2つのバランスが重要になります。

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いかがだったでしょうか。今回は、敢えて「比喩」っぽいものを選んでみました。何かを表現する際に、対象となるものに関連した似たものを探すという考え方は、アイデア発想の第一歩です。「たとえ上手」になることが、面白いアイデアや面白いことわざを考えるコツなのです。

「面白いとは何か(仮)」/ 岩下 智 著
CCCメディアハウスより今夏発売予定!

Photo by Chepe Nicoli on Unsplash

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岩下 智

ことわざで覚えるデザイン

デザインを習得することは、容易ではありません。ソフトの使い方などの方法論を覚えても、経験がなければデザインができるようにはならないからです。そこで古来から伝わる庶民の知恵を応用して、デザインの経験を伝承する「ことわざ」を作ってみました。
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