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ことわざで覚えるデザイン その1

デザインを人に教えることは、容易ではありません。デザインは常にケース・バイ・ケースであり、道具の使い方やソフトの使い方を覚えただけでは、すぐにデザインができるようになるわけではないからです。

日本の現代教育の原点を遡ると、江戸時代の寺子屋に行き着きます。寺子屋では、先生が声を出して読む「四書五経」や「論語」などの文章を、同じように声に出して復唱する「素読」によって、生きるための「教訓」として言葉を覚えたそうです。この「教訓」は、過去の偉人による「経験の伝承」です。これは、現代の学校教育で中心となっている「正解を導き出すための方法論を覚えること」とは大きく異なります。

「ことわざ」も同様に、古くから庶民の知恵として、過去の経験を次の代に継承してきた経験のデータベースです。このような「経験を伝承する術」をデザインに応用することができれば、「ああすればこうなる」という方法論とは異なった、身になる教材になるのではないかと考えました。これは、その試みの記録です。まず今回は初級編の中から4つほど紹介します。

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揃えあれば憂いなし

デザインの一番の基本は、要素の位置を「揃える」ことです。文字列を左右の端や中央で揃える、文字列と写真の端を揃える、色々な要素を一列に揃えるなど、基本的には、デザインは揃えることの連続であると言っても、過言ではありません。逆に言えば、揃えるべき所が揃っていないデザインは、悪いデザインの典型的な例です。基本、揃えられる所は、ぜんぶ揃えましょう。ただし、揃えすぎると堅苦しいものになってしまうので、適度なバランスで「崩す」ことも大切です。

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ラフの利

「さぁ、デザインするぞ!」と意気込むのはいいですが、いきなりパソコンに向かう前に、まずは手でラフを描くことから始めましょう。ツールは、紙と鉛筆でも、タブレットでも構いません。どれだけデザイン作業を速くできるようになっても、手描きより早くイメージ通りの絵をパソコンで描けることは、まずありません。まずは手で描くことで、線や形を体感することが大事です。

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幕の内より三色弁当

よくないデザインのひとつに、「色を使いすぎ」というのがあります。いろんな色がちりばめられていると、たしかに賑やかで豪華に見えます。しかしその分、全体のバランスを取るのが難しくなります。まだ色を上手に使いこなせていない内は、ひとつの紙面で使う色の数は、せいぜい3色までにしておくくらいが無難です。

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面倒は臭くない

「面倒臭い」という気持ちは、とても厄介です。複雑で困難な課題に立ち向かうとき、人は誰でも心のどこかで「面倒臭い」と思ってしまうものです。しかし、そこをグッとこらえて、手間暇を惜しまないことが大切です。そもそも、面倒なことを臭いだなんて、誰が言い出したのでしょうか。最初から臭いものだと思ってしまうと、それだけで毛嫌してしまうものです。でも、本当は臭くなんてないと分かっていれば、対処の仕方も変わってくるはずです。何か理不尽な修正依頼があったときにも「あぁ、面倒臭いなぁ」と思ってしまいそうなところを「いや、面倒なんて臭くない!」と考えて、乗り切りましょう。

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いかがでしょうか。近頃はこんなことを、大真面目にたくさん考えています。ある程度ことわざの数が貯まったら、これをまとめて本にしたいと目論んでいますが、少しずつこのnoteに小出しにすることで、継続していきたいと思います。

実は、新しいことわざを作るということも、面白さの追求の一環だと思っています。デザインというまだまだ一般的にはつかみどころのない概念を、誰でも面白おかしく習得することができたら、世の中はもうちょっとだけ楽しくなるのではないかと考えています。これらのことわざの中で、何か一つでもあなたのデザイン力向上に役立つことができたら、これほど嬉しいことはありません。

「面白いとは何か(仮)」/ 岩下 智 著
CCCメディアハウスより今夏発売予定!

Photo by Joao Tzanno on Unsplash

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