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パワハラと指導の境界線 『ISO通信』第77号

「私の部下だった人物は、後年、パワハラを否定しました。しかし、会社はパワハラ認定を取り消そうとしないので、転職を考えるようになりました」
40代後半の男性から、3年ほど前に聞いた言葉です。以下では、その男性をAさんとし、かつてAさんの部下だった20代の男性をBさんとしています。

Aさんの主張による事実関係は以下となります。
・Aさんのグループに新卒2年目のBさんが異動してきた。
・Aさんのグループには他にも複数の若手社員がいた。
・部下に対する指導に関しては、必要に応じて厳しい態度をとることもある。
・それは部下が成長することを願っているからであり、いやがらせをしているつもりは一切ない。
・指導の方法に関しては、Bさんに対しても他の若手に対しても差をつけることはない。

・ある日、Bさんのお母さんが、会社の総務部に対して、私(Aさん)がBさんにパワハラしていると訴えてきた。
・Bさんのお母さんとBさんが、総務部に対してどのような説明をしたのか、詳しい話を総務部から聞いていない。
・総務部は私の説明をあまり聞いてくれなかった。
・そして、私の指導はパワハラに該当すると認定され、私は他部署に異動することになった。

・それから2年が経ち、Bさんからメールで連絡がきた。
「Aさんに指導してもらったからこそ、今の自分がある。Aさんの下にいたときは、つらいと感じていた。しかし、あれから2年が経ち、Aさんの指導方法が正しかったと今では思う。あの頃は気持ちがへこんでいたので、母親の行動を止める元気がなかった。今考えれば、パワハラというほどのものではなかった」
・Bさんは総務部に対しても同じことを言ってくれた。しかし、総務部はパワハラ認定を取り消すつもりはなかった。
・過去のパワハラ認定が誤りだったことを認めると、自分たちの評価が下がることを恐れているのだろう。
・異動先の部署で頑張り、指導方法も変えなかったのは、自分が正しいと信じていたからであり、いつか会社もそれを分かってくれると思っていた。
・しかし、Bさんがパワハラでなかったと言ってくれたのに、それを認めない会社に愛想がつきたので、転職することを決意した。
こうしてAさんは3年ほど前に転職しました。
立場上、Bさんの主張を聞くことはできないので、上記はAさんから見た事実となります。また、Aさん個人の特定を避けるため、これまでの内容には少し脚色があります。

現在のAさんは部長の立場であり、社長から厳しい指導を受けることもあるそうです。
「うちの社長は、厳しく指導する人と優しく指導する人を意識的に分けていると思います。厳しくされているグループの方が期待されていると思ってしまう私はマゾ体質ですかね」
と言って笑っていました。
Aさん自身は、部下を厳しく指導することをやめたそうです。
「パワハラに過剰反応する世の中になってしまいましたからね。しっかり教えてあげれば、もっと伸びる若者もいるのに、もったいないですよ。でも、これが今の日本の姿ですね」
Aさんはそんな風にも言いました。

私自身はパワハラに関しては断固反対の立場です。しかし、日本人はリスクをゼロ化する方向に過剰反応しやすいと思うこともあります。
「しっかり教えてあげれば、もっと伸びる若者」と「指導を受けなくても、自発的に学べる若者」の差が、大きく開いていく時代になりそうです。
指導がハラスメント化しないように注意しつつ、伸びしろのある人たち(若者もベテランも)を導いていくのがリーダーの役目であると思います。

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