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サマルカンドにて

「最後かもしれないだろ。だから全部話しておきたいんだ」

この言葉が印象的なファイナルファンタジー10(以下、FF10)。東洋的で美しい世界観に魅了されたのは中学生の頃だった。FF10は音楽が良くて、有名な『ザナルカンドにて』は何度も何度も聴いた。ゲームを起動してもストーリーは始めずにひたすらオープニングの音楽だけを聴いて1時間くらい過ごすこともざらにあった。

何かのきっかけで、ザナルカンドに似た街が世界のどこかにあることを知った。それが、今回訪れたサマルカンド。大きな広場にイスラミックな建物と青いドームがあって、幻想的な雰囲気を写真越しに感じていた。ネットで調べてみると、名前として参考にしただけで特に景色としてモデルになっているわけではないそうだ。

それでも、大好きなFF10の名前に近いサマルカンド。ずっと行きたい夢の場所だった。

あの頃からかれこれ10年くらい経って、サマルカンドに行けるタイミングがやってきた。

サマルカンドと言って脳裏に浮かぶのは、広場の周りに青いドームの付いた建物がある景色。そこはレギスタン広場、砂の広場の意味を持つところだ。

運良く泊まった宿がレギスタン広場から歩いて5分ほどのところだったので、徒歩であの場所へ向かうことにした。

横から建物が見えたときの印象はその大きさ。街の中にいかにも昔の建物という感じの物体がどーんと身を構えていて、さすがにびっくりした。

そして、撮影スポットに立つ。

美しい。

空の青さもキレイだが、ドームや装飾の青も本当に美しい。サマルカンドブルーとも呼ばれる、薄く透き通りそうで強く輝いている青がきれいで。細かい装飾もうっとりずっと見ていられる。

イスラムの建物といえばモスクが有名だが、これはモスクではなく学校として建てられたそう。現在のサマルカンドに残る建物を建てたのは、主にティムールという14~15世紀を生きたこの国の英雄とされている人物と、その関係者によるものがほとんど。レギスタン広場にある学校、メドレセと呼ばれるものは、ティムールの孫であるウルグベクによって建設されている。ウルグベク・メドレセは広場の向かって左側の建物。

右側と正面にあるのは200年ほど経ってから建てられて、ようやく今のような3つの建物が広場を囲む形になった。

建物の下に座り込み、建物をただただ見つめていた。それだけで幸せだった。

『ザナルカンドにて』を聴きながら考えていた。なぜ、サマルカンドがFF10のモチーフとして使われているのかと。それはサマルカンドの歴史を紐解くことでわかったような気がする。

サマルカンドは東は中国、西はローマやトルコを始めとするヨーロッパ、北はロシア、そして南はインドと、古くから世界の中で存在感を示している国や都市からのアクセスがとても良い。いわゆるシルクロードの中継地として知られ、古くはアレクサンダー大王、8世紀のイスラーム、13世紀のチンギスハーン率いるモンゴル帝国、そして14世紀のティムール。近代に入るとロシアも来ている。

つまり、古代〜近代にかけてのユーラシア世界において、サマルカンドは幾度となく戦地となり、街は破壊され多くの命が奪われた。しかし、その美しさゆえ、再生した。

これはFF10のスピラとシンの関係に似ているんじゃないだろうか。スピラという世界に出没するシンは巨大な怪物で、突如として街を破壊する。スピラの人たちが願うのは、シンのいない平和な世界。物語の中では永遠のナギ節と呼ばれる。しかし、シンを倒してもまた数年たったらシンが生まれ、街を破壊する、死の螺旋が繰り返される。それは、まさしくサマルカンドの歴史そのもの。

計り知れない血と涙が降り注がれてきたこの街には多くの人々の願いが内包されている。だからこそサマルカンドを大事にして街を再建したティムールは英雄視されるし、今でもサマルカンドは世界中を魅了する場所になっていると思う。

レギスタン広場から数キロ離れた先に、アフラシヤブ遺跡という場所がある。今訪れると、風光明媚な草原がただただ広がっているが、実はチンギスハーンらモンゴル帝国によって、徹底的に壊された過去のサマルカンドの都市の遺跡である。

発掘調査により、その全貌が少しずつ浮かびあがっているが、当時どれほど栄えていたのかは妄想するしかできない。

その遺跡から眺めるレギスタン広場はなんとも言えないオーラを醸し出していて、まるでティーダたちが朽ち果てたザナルカンド遺跡を眺めながら話し合ったあの場所みたいだった。

夢のサマルカンドには、過去から積み上げられてきた悲しみの歴史が眠っていていた。

今残っているのものは何も語らないが、実際に赴くことでその歴史を触れ、感じ、想像することはできる。

『ザナルカンドにて』が放つその悲しさは、その歴史を物語っているように聴こえるようになった。

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