『ツリーハウス』

角田光代
文春文庫 2013年

この著書の本はエッセイを含め何冊か読んでいるはず。どの本も読み心地がよくいい印象を持っているが、内容をしっかりと覚えているのは『八日目の蝉』。でも『八日目の蝉』は、子どもを持つ身としては切なすぎて、しばらくは読めないなあと思っていた。

そんな中で、文庫本の裏に書いてあるあらすじから選んだのがこの本。
そのあらすじと、出だしの内容から、こんなことでこの先どんな話が展開するんだろうと不思議だった。章ごとでもなく、気分的にはいきなり変わる話し手、徐々にはっきりしてくる登場人物の背景。「最初に思っていたようなのんびり雰囲気じゃないな」と感じながら読み進めた。

最初のほうでは得体が知れないながらものんびりまったりとした家族のように感じるが、話が進むにつれてその人物像が明確になってくる。何というか、写真の解像度が上がってくる感じ。それは、家族についても世間についてもあまり意識の無かった良嗣の視点を共有していたからだろう。細部がよく見えるようになるのが楽しくもあり、謎解きのようでもあった。

現実に、どんな人でもこんなものだろうと思う。そこここで働いている人、今日たまたまぶつかった人、駅で怒っていた人、毎朝見かける人、私はみんな見かけるだけの人だけれども、その人たちはみんなそれぞれの人生を生きてきてここにいる。私に辛く当たる人でも、家では家族に優しくしているのかもしれない。杖にすがるように歩いているおじいさんも、颯爽としたモテモテの若者だったのかもしれない。
それを考えると、何となく尊重したくなってくるんだよね。
自分に辛く当たる人を嫌いになり切れないのは、しんどくもあるんだけどね。

この家族の形を「簡易宿泊所みたいで、根が無い」と感じることもあるかもしれないけど、私はこういう家族の在り方は好きだなあ。みんながそれぞれやりたいことをして、でも何かあったら帰ってきて、何をしていてもいい。実際には各人の葛藤がありつつ出来上がった形ではあるけど、ぎっちりと役割分担があって役目があって内と外がしっかり分かれていて、というの形よりも実は強いんじゃないだろうか。

考えてみれば、『八日目の蝉』も、この本も、家族の形についての問いかけのようでもある。ステップファミリー、同性婚、特別養子縁組、いろいろな形が珍しくなくなってきた今の、初歩的な本と書いておくのはこじつけすぎかな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?