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山から海へそそぐ水はあっても
海から山へそそぐ川はない
流れに逆らって川上にのぼる魚はいても
空に飛び立つ魚はいない
しかし 見よ
池に 沼に 水の底に
力を蓄えつづけた竜は
千載に一隅の好機を得て
雲を呼び 風を起こし
天に昇っては空に拡がり
渇いた大地
ひび割れた大地に
いわゆる干天の慈雨を降らす
草木をうるおし
くらしをうるおし
駆け抜けてはまた忽然こつぜんと消える
竜はしばしば帝王にたとえられたが
竜は
農民たちの夢 人民の悲願
革命の烽火のろしであり
英雄像のモンタージュだ
角は鹿 目は鬼 耳は牛
鋭い爪 なびくたてがみ
爬虫類とも何ともつかぬ胴と鱗に
ちぢみ上がったのはむしろ帝王の側だ
農民たちの力を出し合ったら
きっとあの形になる
竜になる

      初出不明
     『礒永秀雄詩集』(1989年*長周新聞社)

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