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にせ舞台

花道 行けば 笛が 鳴る
──── え? もう一度?
──── ああ やりなおし
人生 かくて 三十年

花道 行けば 笛が 鳴る
──── え? もう一度?
──── ああ やりなおし
人生 かくて 四十年

花道 行けば まだ 笛が鳴る
同じく ──── 人生 五十年
役柄でない というものである
おかど違い というものである

花道 行けば 笛が 鳴る
正直者は(やはり)馬鹿を見て
役は 下積 干大根 (しかし)
客には媚びぬが 花 というもの

されば 世の正直者は いかに すべき ?
まんず 独立精神である
次に 毛利の 束ね矢である
しかして 天への盗塁である

花道行けば 笛が 鳴る
笛が 鳴っても 進まるるがよい
セリフは 舞台で さらば とひとこと
老兵然と消えてゆくがよろしい

     詩集『浮燈台』(1951年*書肆ユリイカ)
     詩集『海がわたしをつつむ時』(1971年*鳳鳴出版)

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