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品川 力 氏宛書簡 その二十三

ツトムさん―寂しいな。僕はどうしてこう寂しいのか。
路をあるいてゐると、今にもまつくらなおとし穴におちるやう
な気がして不安で耐らない。土にからだを食べられてしまふやう
な気持です。ポオの少說を讀みふける。恐ろしい作家だ。―ひどい
神経衰弱です。たとへやうもない憂鬱です。僕は。六月よ。あいまい
な季節の仮面をかぶる六月よ。去れ。僕は空になりたい。花になりたい。
海になりたい。人間はいやになった。
茅ヶ崎の雨の夕ぐれにみた月見草は忘れられない。僕は風景
に対して、それほど感傷家です。あなたはお笑ひなさい。しかし、この僕を
笑へないひとが、たったひとりある。―生きることは苦しい。―と、ヴイセント・ヴァン・ゴッホは言った。―生きることも、死ぬことも、×することも・・・詩をつくることだって苦しいからな。へんです。へんです。
 生きてゐるのだ、まるで、―大杉栄―は。


[消印]14.6.25 (大正14年)
[宛先]京橋区銀座尾張町
    大勝堂
    品川 力 様


    壺
     お待ちしてゐます。


                       (日本近代文学館 蔵)


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