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その名も『野火』

塚本晋也監督の『野火 Fires on the Plain』先行上映&監督のトークショーに行ってきました。

第2次世界大戦末期のフィリピンのレイテ島で飢餓と結核に苦しむ一人の兵士『田村』がいつ終わるのか分からない戦争の中で必死に生きようとする物語。

一般人でも分かる俳優さんにリリー・フランキーさんや斉藤和義さんと『MANNISH BOYS』というバンドを組んでる中村達也さんなどが出演しています。

こんな戦争映画は観たことない。衝撃を与えてくれる映画は観た後に現実世界との間で宙ぶらりんな気持ちになります。人の死体はそのまま映し出され、身体の欠損描写も凄まじい。フィリピンのとても豊かな自然(ジャングル)と日本兵の亡骸とが見事なコントラストになってました。主人公の『田村』は監督自らが演じてます。映画の中で説明はほぼ無く、田村がひたすら日本に帰るためにボロボロになった身体を一歩一歩進めながら歩く道中にいろいろな事が起こります。

誰かと遭遇してもすぐに戦闘機?(映らない)らしきものに撃たれて吹き飛んだり、食料をタバコと交換しないか?と仲間に迫られたり、また奪われそうになったり…。田村の性格はおそらく温厚な人で日本に居た頃は本を読んだりものを書いていたと劇中で語ります。しょっぱなからもうフィリピンに来て何週間も経っているだろうと思われる表情と肉体なのに、誰か困っている人がいると助けようとしたり、「申し訳ない」という顔をして黙り込む。しかし刻一刻と戦場は変化して行き敵の攻撃は激しくなり、地元民のゲリラや米兵がすぐそこまで来ている状況です。

ある場所まで行けば日本に帰れる。でも空腹と疲労でそこまで辿り着けるか?いやうっかり敵兵に会えば殺されるだろう。ましてや仲間の日本兵も極限状態で何をしでかすか分からない。でも正気で居たいという田村の思いがスクリーンから伝わってきます。出会った一人の兵士が「パプアニューギニアでは人を食った」という台詞から分かる、この物語の中心にドンと置いてあるものが「人を食べる」という究極の問題です。

何度も目を覆いたくなるようなシーンが出てきます。それよりも辛いのが田村が明らかに善人で戦争という渦に巻き込まれ、人の道を外す行動を取ってしまうこと…。そしてフィリピンのレイテ島で出会う人達も決して「悪人」ではないという点。無法地帯と化した島でお互いに殺し合いをしている。しかし異常な環境でも人は会えば「情がわく」これがまた非常に悲しい人の性質で、それを無視して1人で逃げる訳には行かないところが胸をぎゅっと締め付けます。

映画のあえて説明しない手法はとても上手く効いています。突然垣間見える殺人の中に対立関係が見えたり、映らない機関銃が人をバラバラになぎ払っていく恐怖は何よりも苦痛です。戦争を知らない20代のぼくには強烈で、観ておかなければと思って行ってきましたが映画館という逃げられない環境での鑑賞は非常に辛かったです…。本当に物語に観入ってしまって田村と同様に喉が渇き、空腹と葛藤に襲われ、一体誰がこんなことを?なんで自分はこんなことしなくちゃいけないんだという疑問や怒り、強い嫌悪感を覚えました。

普通の大作系「戦争映画」でも無差別殺人や仲間割れなどの描写はありますが、ここまで“デカい丸太で腹を打たれたような気分”にはなかなかなりません。外人ではなく日本人がバラバラにグチャグチャになっていく様は物凄くリアルに感じてしまう。塚本晋也監督作品は今まで一本も観たこと無かった僕ですが、それは『野火』公開を小島秀夫監督から知って、初めての一本にしたかったからです。どうやら鑑賞後のトークショーで監督の息子さんも初めての塚本作品が爆音上映の『野火』だったそうです。感想はまだ聞けてないと言ってました。とあるシーンで顔が撃たれて割れる描写は「監督らしい」と感じてしまいました。同じ監督作の『鉄男』などのビジュアルを見たことがあるからでしょうか…。

全くもって万人にはオススメできない映画です。でも塚本晋也監督の反戦の想いと監督自らお話しを聞いたという戦争を知っている世代のおじいちゃん、おばあちゃんの記憶と情念が見事に混ざってこの表現を得ている気がします。もう1つ、とても少ない予算でスタッフもほとんどボランティア、自主配給で全国の映画館を周って映画を監督自ら持って行っている。ということが何よりも本気で伝えようとしているのが分かります。そして若い人にはぜひ観て欲しいということで、あんなに直接的に映してるのに『PG-12』です。

7月25日(土)から全国で上映されますが、レンタルや本編がディスク化されてから購入するのでもいいでしょう。監督が本作を製作した理由の1つに「これが撮れない世の中になったら…」と言ってました。司会の久保俊哉さん(札幌国際短篇映画祭プロデューサー)もこれから放映禁止あるいは自主規制になるかもしれない、ご時世がご時世なので…ということでしたので、まず今観て間違いない価値はあります。

ぜひ、塚本晋也監督 最新作 『野火 Fires on the Plain』をご覧下さいませ。

※サムネイル(動画の表紙)が表示されてませんが、予告編ちゃんと観れます!



〜あとがき〜

ここからは肩のちからを抜いて…。

リリー・フランキーさんの声が怖い怖い!あの優しい声だからこそ裏に何かがありそうでゾっとします。そしていつも無表情でしょ?だから何考えてるか分からない役が合う。もっとびっくりしたのは顔が何回も映るのに「これ本当にリリー・フランキー??」となります。本人確認ができません(笑)それぐらい世界観が出来上がってます。

僕はグロいものはあんまり得意で無く、ましてやホラーはダメダメです。この映画は「オエぇ」っとなるシーンもありますが、それよりも上に書いた通り精神的に追い詰められる感じが凄いです。“銃を向けて相手が震えている”コレだけで、マジメに心臓が止まりそうです。映画でよくあるシーンですが、ちょっと行き過ぎてます。でもイイんですね、それは監督の気概を感じられるからでしょうね。

近年では園子温監督の『冷たい熱帯魚』がありますけど、あれもすごいグロくて「人を透明にする」とか言うセリフに始まる、山奥での解体ショー。風呂場で五臓六腑バラバラに包丁で剥きだして「入浴剤」を撒きニオイを消し、さらにドラム缶で焼くときに出るニオイを「醤油」で消すという…。とてもぶっ飛んだ演出で、その後の園子温監督といえば「グロい」っという評判が映画を観た人と業界に広まりました。一方で最近では「新宿スワン」「ラブ&ピース」などのエンタメ性も見せているんですが、こないだNHKのSwitchインタビューという番組内で漫画家デビルマン、キューティーハニー、マジンガーZなどの作者の永井豪先生と対談した時に「あれは撮りたくなかった…」と園監督自身が『冷たい熱帯魚』を振り返ってました。監督の著書やインタビューでも『冷たい熱帯魚』は撮りたくなかったと何度も語ってます。本当に観たい作品をまだ撮れていないと園監督は番組内で言ってましたが、最近公開されたのはグロ全開?の「リアル鬼ごっこ」です。いつか監督の言う「自分が観たい映画」を僕もとても観たいです。

と言った感じに色々思い付いては書いてきましたが、今日の塚本晋也監督トークショーでお客さんは観た後2、3日考えこんで、そこから感想などがTwitterに来る。と言ってましたが、なんかそれに逆らってやりたくて今日中に書いてみました。ここまで読んでくれた方ありがとうね…!

そして最後に、今月お金の無い僕は『野火 Fires on the Plain』の解説本(1000円)を買ってその場でサインしてもらうことが出来ませんでした。お金が入り次第買って読みたいです。舞台であるフィリピン:レイテ戦や第2次世界対戦がどういうことだったのか?小学生にも分かりやすく書いたものや、朝生でお馴染みの田原総一朗さんや先ほど書いたMGSシリーズの小島秀夫監督の寄稿文などもあるので、非常に読みたいのです。

それでは、また次回!


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